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彼方よりの。  作者: 秋生侑珂
第一章
17/34

退治屋の世界

紗慧さえちゃん、元気にしてた?」

 この遥鳴堂ようめいどう旅館りょかんの玄関に入ってきたショートカットの彼女が出迎えた紗慧に笑みを向ける。――退治屋の鹿島かしま美那みなだ。

「はい。美那さんもお元気そうで、何よりです」

 紗慧も笑顔を返すと、仲居らしく彼女の荷物を受け取り、部屋へと案内する。


 五日前、郁人いくとのアドバイスもあり、以前郁人と共にこの旅館へやってきた美那に、紗慧はメールを送った。

 T都での事、自分に何が出来るのか、出来ないのか、知りたいと思った事、相談相手が欲しいという事、それらを、突然一方的に連絡した事を謝りつつメールに綴り送信すると、小一時間もしないうちに返信がきた。

「今のところ手は空いてるから、そっちへ行くよ」

 簡単な挨拶の後、彼女はメールで簡潔にそう告げた。その後、来訪の日程の打ち合わせのやり取りをした。

 元々彼女の退治屋としての持ち場は、N県の隣であるG県らしく、数日空ける事も、現状で不都合はないらしかった。

 旅館の主人である泰倫やすのりにも相談の上で、彼女には今日から数泊して貰う事になった。


「わざわざ来ていただいて、ありがとうございます」

「気にしないで。相談してくれて嬉しい。この辺りはまだ涼しい方だし。良い休暇になるわ」

 部屋に入り、紗慧が礼を言うと、美那はそれを真面目に受け止めた後、茶目っ気たっぷりに言った。

 外からは蝉の鳴き声が都会よりも大きく聞こえ、しかし都会特有の騒音がない為、虫の音にも多彩な豊かさを感じる事が出来る。空調の効いた中で聞く紗慧の胸にも郷愁と呼ぶべき感情が沸き起こる。確かに、休暇で訪れたのなら、良い気分転換になるだろうと思えた。

「紗慧ちゃんの仕事が終わってからで良いかしら? 呼びに来てもらっても良い?」

 美那は紗慧から自分の荷物を受け取り、そう尋ねる。

「はい。離れの部屋で使っても良い部屋の確認をしたので、夕食の後、お迎えに上がりますね」

 紗慧は答えると、改めて断り、彼女の客室を辞した。


 約束通り、仕事が終わった紗慧と夕食を済ませた美那は、離れの空き室に来た。

 二人共Tシャツとスウェットパンツ、という部屋着姿だったが、それは事前に美那が「楽な格好で」と言ったからだった。

 部屋は従業員の私室用の部屋で、背の低いテーブルと、壁際に小さめの箪笥があるだけだった。

 部屋の押し入れの中には布団や座布団が入っている。その座布団を二枚出し、二人はテーブルに向かい合って座った。テーブルには、紗慧が用意した氷入りのピッチャーとコップが二つあり、ピッチャーの中身は麦茶だった。

T都むこうでは大変だったみたいたけど、二人共無事で良かった。都会ではあやかしはあまり出ないけど、出られない訳じゃないから。

妖はいつの時代からか、存在が目立つ都会より、人口の少ない場所を選ぶようになったみたい。退治屋の仕事が成果を上げたからだと思いたいところだけど」

 麦茶を一口飲み、美那は改めて紗慧を気遣った。

あきら君が護ってくれたお陰で私は何ともありませんでしたけど、最終的に彼も無事で、私も良かったと思っています」

 紗慧が応えると、美那は頷きつつ、表情を引き締めて言った。

「私も高砂たかさご君からも話を聞いたけど、事なきを得たのも貴方が『能力ちから』を使えたから、というのも大きいと思う。よく頑張ったわね、紗慧ちゃん」

 彼女の言葉に、紗慧は頭を振る。

「夢中だっただけです。でも、私の『能力ちから』が役に立てるなら、『夢中だった』、に任せるだけじゃいけないと思って。『調整師』でしたよね? 出来るならその『能力ちから』を自分の意思通りに使えるようになりたいんです」

 美那は紗慧の言葉に再び頷いた。そして紗慧の眼を見て訊く。

「退治屋の側に踏み込む覚悟があるという事よね?」

「はい。闘う事は出来ないかもしれませんが、自分にしか出来ない事があるなら、私は退治屋みなさんのお役に立ちたいんです」

 真剣そのものの紗慧に、美那は少し難しい顔をしながらも彼女の言葉を受け止めた。

「『調整師』は稀な存在だけど、退治屋の保護が不可欠になってくるから、こちら側の人間になる事が多いらしいわ。

紗慧ちゃんもそうなるのか……」

 半分独り言の様に言い、美那は続ける。

「高砂君はここを拠点にしてるし、条件としては悪くないんだけどね」

 言った後、彼女は両手をぱんっと打ち合わせて、改めて紗慧に向き直る。

「分かった。紗慧ちゃんが今後どう活動するかについてはひとまず置いておいて、メールにも書いてあった、『何が出来て何が出来ないか』の話に移ろうか」

 紗慧は「はい」と頷く。


「妖と闘うのは闘身になれなければ不可能。闘身になれるかどうかは個人の資質、言ってみれば才能によるのだけど、紗慧ちゃんにはこちらの素養はないわ。『調整師』は大体そうみたいだけど。だから、今必要なのは、『能力ちから』をコントロールする為の訓練の様なものね」

 美那は淡々と述べていく。

「前にあった時にも、『気』の循環について触れたわよね?」

「はい。『気』の循環が滞っていたから、それを正常にしてくださったんでしたよね」

「そう。その『気』の循環のコントロールを自分で出来るようになる事が第一ね。そうすれば、他者の『気』についても理解出来る様にもなるわ」

 美那は頭の中を整理する様に、一旦麦茶を飲んでから、再び口を開いた。

「『気』っていうのは、簡単に言うと、生命エネルギーと精神エネルギーを合わせた様なもので、人の身体の中を巡っているものなの。血液が全身を巡って酸素と栄養を行き渡らせる様に、『気』も全身を巡ってその人の生命的活動と精神的活動を助けている。殆どの人はその事に無自覚で生きているけど、訓練次第でそれをコントロール出来るのよ」

「聞き齧りの言葉ですけど、『気功』っていうのはそれとは違うんですか?」

 紗慧の質問に、美那は少し考えてから答える。

「同じとも違うとも言えないかな。似てはいるけど、発展の仕方が少し違うのよ」

 一呼吸置いて美那は続ける。

「私達退治屋が確立している『わざ』は、元は陰陽術と近いルーツを持っていてね。説明し始めるとなかなか長くなるんだけど……。『気』をコントロールする為の訓練の話としては、そちらは置いておいて欲しいかな」

「分かりました」

 紗慧が頷くと、美那は説明に戻った。

「多分、紗慧ちゃんは一度『能力ちから』を使った事で、『気』を視たり、コントロールする事を体得し易くなっていると思う」

 言った後、美那は姿勢を正座から胡座に変えて、紗慧にもそうするよう促した。

「楽な姿勢で眼を閉じて、自分自身に意識を向けてみて。最初は身体に対してでも良いわ。自分の内部なかを流れているものを感じない?」

 紗慧は美那に言われた通り、眼を閉じ、意識を自分自身へ向けて集中してみた。

 確かに、薄っすらと、何やら温かいものが流れているのを感じる。血液の流れを感じとるのとは違うのが、感覚的に分かった。

 紗慧はその事を、眼を閉じたまま美那に告げる。

「それで良いのよ。やっぱり、掴み易くなってるわね。まずは、そうやって自分の『気』を意識する訓練を毎日やってみて。寝る前でも良いし、身心が落ち着ける時間と環境で。慣れれば苦もなく自分の『気』を意識してコントロール出来るようになるから」

「は、はい。分かりました。やってみます」

 紗慧は再び眼を開けて美那を見る。と、先と比べ彼女の見え方が少し違う様に思えた。具体的に何が違うのかは自分でも分からなかったが、彼女の『存在感』に厚みが増した様な、不思議な感覚だった。紗慧はその事を美那に伝えてみた。

 彼女は「うんうん」と頷き、軽く微笑んで言った。

「その感覚が、他者の『気』を感じとる、視る、という事の第一歩みたいなものよ。身に付けば自然に感じられるようになるわ」


 彼女は言い終えると、スウェットパンツのポケットからメモ帳とボールペンを取り出した。そして真っ白な紙の上に、『木』、『火』、『土』、『金』、『水』、と、漢字一文字ずつを円形になるように配置して書き付けて見せた。

「陰陽道と通ずる概念なんだけどね、これらを『五行』と言うの」

 紗慧が紙と美那を交互に見ると、彼女は説明を続ける。

「この『五行』は、自然界を構成するものと考えられていて、『気』もこれらに属しているの。これら『五行』は循環しているのがベストな状態なんだけど――」

 彼女はボールペンで、紙に書いた漢字五文字の上を通るように線を引いていく。『木』から順に、『火』、『土』、と通過していき、最後に『木』に戻って円を結んだ。

「『木』は『火』を生み、『火』は『土』を生み、『土』は『金』を生み、『金』は『水』を生み、『水』は『木』を生む。これを繰り返して循環していくのが、自然の摂理だという考え方。耳馴染みにないと、分かり難いと思うけど」

 紗慧は紙を見つめながら、美那の話についていこうとする。

「木は燃えるから火を生んで、燃えた後には灰が残るから土を生む。土からは鉱物が採れるから金を生んで……という感じなんですか?」

「そう。それが五行説なんだけど、人の『気』もその何れかに属しているの。その人が持って生まれた『気』の属性」

 美那は右手を自分の胸に当て、言う。

「例えば、私は『水』。『水気すいき』って呼称するんだけど。これは、闘身にも、扱うわざにも影響を及ぼす要素になるの。私が結界術に長けているのもそのせい。前にここに来た時に、結界を見に来たって言ったでしょ?」

 紗慧は彼女の言葉に、以前を思い出しながら頷いた。

「因みに、高砂君は、『木』で『木気もっき』。賀茂橋かもはし君は『火』で『火気かき』。それぞれ自分の持つ『気』に応じた闘い方をしてる筈よ」

 美那は言った後、紗慧を見た。

「紗慧ちゃんは『木気』ね」

「誠君と同じなんですか?」

「そう」

 美那は頷き、思い出した様にピッチャーから麦茶をコップに注いで飲んだ。そして説明を再開する。

「この五行は、妖も持っていて、退治屋が相対した時に相性の良し悪しを生むから、厄介な事もあるわ。その場に満ちている『気』の属性の影響を受ける事もある」

「そうなんですか……。色々と難しいですね」

 紗慧もコップを傾けながら、美那が書いた紙を見つめる。

「紗慧ちゃんの役目は闘う事じゃないから、今隅々まで理解する必要はないんだけど、一応基礎的な知識として説明してみてるの」

 美那は再び紙に書いた漢字五文字の上を通る円をボールペンで指して言った。

「相性には『相生そうしょう』と『相剋そうこく』というのがあって、この循環通りに流れる隣り合った『気』同士は『相生』といって、相性の良い『気』同士になるの。『木気』と『火気』なんかは、『相生』になるんだけど……」

 苦笑する美那の意図を汲んで、紗慧も思わず同じ表情になる。

「誠君と郁人さんは、『気』の上では相性が良いんですね」

「そう。でも相変わらずみたいね。『気』の相性だけが全てじゃないけど、時間が必要なのかしらね」

 半ば呆れた様に言うと、美那は口調を切り換え、説明に戻った。

「『木気』にとって相性の良くない、苦手な『気』である『相剋』にあたる『気』は、『金気こんき』」

 言いながら、彼女は紙の上の『木』から『金』に向けて線を引く。

「『金気』にとっての『相剋』は、『火気』。『火気』にとっての『相剋』は、『水気』。『水気』にとっての『相剋』は、『土気どき』。『土気』にとっての『相剋』は『木気』」

 美那がそれぞれの『相剋』を挙げながら線を引いていくと、紙の上には五芒星が浮かび上がった。

「五行で一筆書に五芒星を書いた時、書き順通りに線を引いて次にくる『気』が『相剋』になるの」

「線を引いた先にある『気』が苦手な『気』という事ですか」

「分かり易く言うと、そうなるわ。『相剋』は、双方向的な相性じゃなくて、一方的に苦手な『気』の事なの」

 紗慧は、受けた説明を頭に入れようと、懸命に紙を見つめて頭の中で美那の言葉を復唱している。

「一度に色々説明しちゃったから、混乱するかしら? 分からなかったら訊いてね」

 美那が少し申し訳なさそうに言うと、紗慧は首を横に振って顔を上げた。

「説明してくださった事は、何とか、分かりました」

「飲み込みが早いのね。一応、この辺りが退治屋にとっての基礎知識になるかな」

 美那は説明に使った紙をメモ帳から破り取り、紗慧に手渡した。

「さっきも言ったけど、紗慧ちゃんは闘う訳じゃないから、五行の話は知識として頭の片隅に置いておいてくれれば、それで充分よ」

「丁寧に説明してくださって、ありがとうございます。『気』のコントロールの訓練も、頑張ってやってみます」

 紗慧は、ここまでの話を頭の中で整理しながら美那に礼を言った。

 ふとそこで、紗慧は疑問に思った事を質問する。

「あの、誠君って、闘う時に雷みたいなものを発生させたりしてるんですけど、『木気』っていうのは、どういう力なんでしょうか?」

 すると、美那は「ああ。」と頷いてから答えた。

「『木気』は『木』の力ではあるんだけど、いかづちを呼ぶ力でもあるのよ。だからわざとして使役できる。ほら、雷って木に落ち易いでしょ? 科学的な説明やらは一旦置いておいて、退治屋こちらの世界ではそう考えておいて問題ないわ」

「そうだったんですか」

 納得した紗慧は、重ねて美那に「ありがとうございます」と礼を述べた。


 話が一段落したと思い、紗慧も美那も姿勢を崩し、麦茶をゆっくりと味わった。

 と、美那が思い出した様に顔を上げ、ポケットからスマートフォンを取り出した。

「一応私達にも上司に当たる人がいてね。何人かの退治屋を纏めて管理している人で、妖を退治した時に報告をしたりして、報酬を振り込む手続きをしてくれたりする人でもあるんだけど。

その人が、紗慧ちゃんに電話だけでも挨拶したいって言ってたのよ。今良いかな?」

「あ、はい。大丈夫です。――美那さんの上司、ですか?」

 紗慧が尋ねると、美那は端末を操作しながら応える。

「高砂君や賀茂橋君にとっての上司でもあるわ。同じ上司を持つ身だから、賀茂橋君が貴方達に付く事になったとも言えるかな」

「そうだったんですか」

 紗慧が頷いているうちに、美那は端末を耳に当て、相手が電話に出るのを待っていた。そして数秒後、口を開いた。

「もしもし、鹿島です。お疲れ様です。今、大丈夫ですか? 『調整師』の牧野まきのさんの件なんですけど。――はい、分かりました。それじゃ、代わりますね」

 電話でもてきぱきと受け答えする美那は、端末を耳から離し、そのまま紗慧に差し出した。紗慧はそれを受け取って、そっと「もしもし、お電話代わりました」と、相手に声を掛けた。

「どうも、初めまして。藤堂とうどう隆司りゅうじと申します」

 聞こえてきたのは、低音の通る声の持ち主で男性だった。声だけ聞くと三十代後半から四十代程の壮年に聞こえるが、声に張りがあり、力強く聞こえると同時にどこか安心感を覚える声だった。

「初めまして。牧野紗慧と申します」

「話は誠達から聞いていましたが、挨拶が遅れてすみません。

誠の件も聞きましたが、貴方のお陰で大事に至らなかったそうで、私からも感謝します」

 彼は歳下であろう紗慧相手にも丁寧な口調だった。

「いえ、とんでもないです。皆さんにはお世話になっています。色々と費用の面でもお世話になってしまいまして、すみません」

 紗慧は、当初、『必要な費用は全面的に退治屋の方でバックアップする』と説明された事を思い出し、その事を謝った。

「ああ、いや、その辺りについては、こちらも問題はないのでお気になさらず。大変な目に逢われて、突然こんな受け入れ難い様な世界を知る事になって、さぞ戸惑われたと思いますが……」

 電話越しだが、彼の声音から、それが上辺だけの言葉ではない事が感じ取れる。

「皆さんが良くしてくださって、説明もしてくださったので、大丈夫です。お気遣いいただいて、どうもありがとうございます」

 紗慧も彼の誠意に応えようと、心からの言葉で返した。彼女のその思いが伝わったのか、電話口から優しげな吐息が聞こえた。

「いや、話には聞いていたが、しっかりとしたよく出来たお嬢さんだ。――ああ、『お嬢さん』は失礼だったかな」

 少し砕けた調子で彼は言ったが、それまでの紳士振りが覆る事はなかった。本来の彼に近い調子なのだろうと、紗慧にも分かった。

 そして、彼はもう一つの本題に入るかの様に、声を改めて言った。

「そこにいる美那や郁人からの話では、貴方は『調整師』として、我々の手伝いをしたいと申し出てくれたとの事ですが」

 紗慧は反射的に背筋を伸ばし、「はい」とはっきり答えた。

「闘う事が出来なくても、私の『能力ちから』がお役に立つ事もあるなら、お手伝いだけでもと思って……」

 すると、彼は声のトーンを下げ、迫力すら感じさせる真剣な声色で訊いた。

「……我々の世界は危険と隣り合わせの日常だ。それでも、こちら側へ来て貰えると?」

「……はい。足手纏いかもしれませんが――いえ、足手纏いにならないように頑張りますから、お願いします」

 緊張気味に紗慧が応えると、数瞬の後、隆司は頷いた気配と共に言った。

「我々退治屋の本音を言えば、『調整師』が付いていてくれるのは、とても有り難い事だ。危険を承知で誠や郁人を助けてくれるのなら、こちらこそお願いしたい。勿論、出来る限り貴方に危険が及ばないよう、二人には念押ししておくが」

「……闘えなくて、申し訳ありません」

「いや、本来『調整師』とはそういうものです。闘身と素の自分とを行き来する退治屋のメンテナンスを手伝って貰えれば、それで充分だ」

「分かりました。精一杯やらせて貰います」

 紗慧が改めて応えると、彼の声の緊張も少し和らいだ。

「牧野紗慧さん。貴方の覚悟、しかと受け止めました。これからは『仲間』として、よろしくお願いします」

「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」

 彼の力強い言葉に、紗慧はその場で思わず頭を下げていた。

「今後は誠と郁人の報酬とは別に、二人が仕事をした際は貴方にも報酬が入る事になります。振り込み口座の手続きなどは美那に任せてあるので、ご心配なく。彼女から説明を聞いてください」

「それから」と、彼は続ける。

「誠達を纏める立場である俺は、貴方にとっても上司になる事になります。ただ、『調整師』という立場の人間が特別なのは変わらない。あまり遠慮せず、相談事があればして欲しい。

連絡先は美那から聞いておきますが、構いませんか?」

「はい。分かりました。改めて、よろしくお願いします、藤堂さん」

 紗慧が言うと、彼は電話口で苦笑する。

「そう堅苦しくしなくても構わないよ。隆司と呼ばれる事も多いしね。

ともかく、これからよろしく頼むよ」

 彼の低音の響く声は柔らかな語調でそう言った。

 その後、美那に端末を返すと、美那も隆司と少しの間話していたが、すぐに通話を終わらせた。

 電話を切った美那は紗慧に向き直り、軽く微笑んで右手を差し出しながら言った。

「これから大変な事もあると思うけど、困ったら迷わず仲間を頼って。これからもよろしくね」

 紗慧は彼女の右手を握り返し、頭を下げて応えた。

「これからもお世話になりますが、よろしくお願いします」

 先の事はまだ分からなかったが、一歩前進出来た充実感を覚えた紗慧は、不安よりも覚悟の意識を胸に抱いていた。

読んでいただきまして、ありがとうございます。

今回は説明ばかりになってしまいましたが、分かり難いようでしたら申し訳ありません。

まだ物語が始まったばかりなので、よろしければ次回以降も引き続き読んでいただけましたら幸いです。

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