心の隙間
初めての投稿です。気持ちに任せて書きました。あえて小さな修正はしておりませんので、読みづらいかとは思いますが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。
ー1ー
またダメだった。最後の最後で契約が取れなかった。自分の押しの弱さが心底嫌になっていた。
「今日の昼御飯はミックスフライ定食にしよう。」
僕は駅前の昔ながらの食堂に入り、カウンターの一番奥の席に腰を下ろした。カウンターが5席と4人掛けの小さなテーブルが2つ。店内はいつものようにサラリーマンでごった返している。入社当初に食べたミックスフライ定食は食べるとなんだか元気が出る。
「ミックスフライ定食1つ。」店主がこちらも見ずに言う。
「時間かかるからさぁ、日替わりでいいだろう?」少し残念だったが、流されるまま
「じゃあ、それで。」と答えた。
『おじちゃん!今日は何がなんでもミックスフライ定食!ご飯大盛りで!』
店の戸を開けると同時に聞こえてきたその注文に僕は思わず視線を向けた。そこには真夏の太陽のような笑顔の女性が立っていた。
日替わり定食を食べる連れの2人の向かいに座り上着を脱ぎバクバクとフライを食べる彼女。世の中にあれほど周りを気にしない人間がいるのかと僕は半ば呆れながらも感心さえしていた。やはりフライは美味しそうだ。数分、箸が止まっていたらしい。
『ごちそうさまー!』彼女の声が店の隅まで通り抜ける。店から出て行く彼女達を横目に慌てて残りのご飯を漬物と一緒に頬張り、午前中の仕事のモヤモヤも味噌汁で流し込んだ。
「御馳走様でした。」レジに向かい千円札を出した時、テーブル席の椅子の背に掛けられた上着が目についた。
「あっ。」お釣りも受け取らないまま、上着を手に取り走り出していた。
店を出て彼女の姿を探す。右側にはいない。左を向くと同時に走って戻って来ている季節外れの真夏の太陽がいた。
「あの、これ忘れてま、、、」
『あー!ありがとうございます!ははっ!』上着を受け取り、走って行く彼女を無意識に見つめていた僕を現実に戻したのはお釣りを渡しにきた店員だった。
僕は僕なりにやってきた。だから努力もして結果もそれなりに出してきた。悪くない人生のはずなのに、今はとても彼女が羨ましくて仕方がない。戻した目線の先に彼女はもういなかった。亮太は小さな溜め息を吐き、踵を返して歩き出した。
ー2ー
こんなの私じゃない。大学までずっと目立たないように過ごしてきた。会社の面接で元気だけが取り柄ですなんて言うもんじゃなかった。おかげで社風も社員も暑苦しい体育会系の営業会社の営業部なんて。
優子は偽りの仮面を被り、日々を過ごしていた。今日も満員電車に乗り込み出社し、午前中のアポをこなす。現場を出ると同僚から連絡があり、駅前で待ち合わせて一緒に昼ごはんにしようとの事だった。女子らしいランチを夢見ていたが、作りすぎたイメージが邪魔をして結局よく行く定食屋に落ち着いた。
店に入るなり半ばやけくそで注文をし、席についた。カウンターのサラリーマンの真似をして上着を脱ぎ、豪快にフライを頬張る。母が見たら泣くだろう。
「優子は本当にすごいねー!営業成績もいいし部長にも可愛がられてるし!」マニュアルを勢いと元気でアレンジしたら奇跡的に数字が上がっただけである。
「だよねー!体力もあるし、帰宅部だったとか絶対嘘でしょ!?」電車賃浮かすために4年間2駅分歩いてたから自信はあるが、この子達の経歴は常人ではないので誉められても素直に喜べなかった。
ふと視線に気付き店内を見渡すが、どうやら勘違いだったみたいだ。店主にお礼を言い、お会計を済ませ店を出た。上着を忘れたことは同僚に言われるまで気がつかなかった。
体力には自信があったが、運動は得意ではなかった。今、無意識に走り出した私に私が一番驚いている。自分が自分で無くなっている恐怖を感じたのも束の間、私の上着を持った男性が店から飛び出してきた。
男性の言葉をよく聞きもせず、慣れた営業スマイルを添えて返事をし、上着を受け取った。彼は一瞬驚いていたが、すぐにふっと優しい笑顔になった。次に見た時には、その優しい笑顔は店員さんに向けられていた。
午後、契約は結べなかった。何度も練習して身に付けたはずの笑顔が出来なくなっていた。その日の帰り、2人を誘いオシャレなカフェで目一杯女子らしい事をした。目の赤みは誤魔化せなかったが、コンタクトがずれたことにしておいた。
続きますが、とりあえずここで切ります。最後まで読んでいただきありがとうございます。簡単で構いませんので、感想をいただけると励みになります。
あなたは誰かの光です。存在自体がメッセージにだってなり得るんです。
本当に最後までありがとうございました!