『咲島 岬』
「初めまして諸君。私は咲島岬だ、よろしく。そんでどうしたお前ら?」
ポータブルゲーム機をケースにしまうと、ティーカップを手に持ち紅茶を淹れる。
先ほどのやり取りがまるでなかったかの様に振る舞う咲島は、まるで別人の様に思えた。
「んで?どした?エロ目的では使わせないからな」
「ちっ、ちげーよッ」
取り乱しながらもちゃんと否定しておく。
チラッと西円寺を確認してみたが、全くの無表情で首を傾げるだけだった。
「つまらんな、じゃ、なんだ?体調不良には見えないが」
「まぁ、なんだ、色々あったんだよ」
「ふーん、ま、いいか暇だし」
そんなんでいいのかよと思ったが、まぁ休ませてくれるのは有難い。
とりあえず参考書でも読むか。と、手元を確認するも、無理やり教室から連れ出されていたことを思い出し、何もない両手をただ見つめる。
どうやら西円寺も、俺を引きずり出したために何も持ってきてなかったらしい。
ポツンと椅子に座り、特に何もせずボーッとしていた。
「お前ら暇なら、私とゲームでもするか?」
そんな様子を見ていた咲島先生がしまったはずのゲーム機を三倍に増やし、俺たちに1つずつ手渡していく。
なぜゲーム機をこんなに...。
しかも何故保健室に隠し持っているのだろうか。
それにこれは、かなり珍しい機械だ。
「これは脳とリンク出来てな、手での操作が必要無いんだ」
つまり、頭で考えるだけで選択し操作し動かせるようになっている。
指やタッチペンで押すのもゲームの面白い所なのだが、このゲーム機は脳を鍛えるのに特化した教育用デバイスだ。
これを授業や部活に取り入れている学校も存在しているが、機械の費用が莫大なため授業料の桁が1つ違う。
俺はこれがある中学に進学を考えていたのだが、母親に目の前で資料を破り捨てられた瞬間に行くのを諦めた。
「なんでこんな希少な機械が3台もあるんだよ」
「それは言えないんだなー」
不敵な笑みを浮かべる咲島はどこか言いたげな雰囲気だったが、教える気がない。
ここの中学校のレベルで扱う機械ではないはずなのだが、なぜ咲島はこんな物を持っているのだろうか。
「さぁ、やろうか」