表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
才能ホルダー  作者: 雨宮結愛
第1章
5/18

『暗算ゲーム』



四限目のチャイムが鳴り、昼休みに突入する。

小学校のような給食はこの中学には無く、昼休みの時間に購買で買った物や持ってきた弁当を食べるのが普通だ。


そう、普通なのだが、


「お待たせしました」

「...ん」


西円寺のもとに届けられるお寿司の入った箱。

三人前はあると思われるそれを、西円寺は一度鼻で嗅ぐ。


「大丈夫でございます。こちらのお寿司、全てわさび抜きでございます」


それを聞いた西円寺は、満足そうに鼻息を吹かせると、黙々と食べ始める。

俺は、自分の持ってきた手作りサンドイッチを見つめ、格差の違いにため息を漏らした。

お小遣いが無い俺は、食費を削って貯めるしか無いのだが、そろそろ一つ贅沢とやらを味わいたい。

このピーナッツ味にも飽きた。


「おい西円寺、勝負しろ」

「おやおや、まだ挑む者がいたとは」


西円寺の前に執事が立ちはだかる。

誰も何も言わなくなった理由がこれである。

初日から突っ込まれていた西円寺の食事の件だが、校長が許可しており大人は何も言わず、横取りしようものなら執事が手をはたく。

そこで考案されたのが学業勝負だったのだが、誰も執事に勝つ事が出来ず諦めていったのだった。

しかし、今日ここで俺が終止符を打ち、その寿司を俺がいただく。


「勝負内容はどういたしますかな?」

「そうだな...暗算勝負なんてどうだ?」

「暗算ですか...」


【暗算】

頭の中で計算する事なのだが、今回は難易度を上げる。


「互いに二桁以上の数字を三回言い合い、それを最終的に掛け算して答えを出す。どちらか片方が間違えたら決着だ。簡単だろ?」


例えば、互いに10としか言わなかった場合10×10×10×10×10×10で1000000が解となる。

しかし、交互に違う数字を言えば複雑さが増し難問となるのだ。


「まぁいいでしょう。では私から、41で」


これの攻略法は、暗算力もあるのだが、普段利用している数字を使用するのが良いとされている。

誰かの誕生日や住所、月のお小遣いや現在の所持金など、忘れにくい数字であるほど計算時にイメージし易いのである。

そこで対応策として使う手法が、


「んじゃ俺は10」


問題を簡略化し、相手のストックを減らす作戦である。

こうする事で互いに間違いはしにくくなるものの、使い慣れた数字を消費する事が出来る。

対等な勝負に持っていけるのだ。


「時間稼ぎですか...67」

「まぁ付き合えよ、10」


それでも、正々堂々やって簡単に勝てる相手では無いのは知っている。

しかし、時間には限りがある。

ならどうすればいいか?


「すみません。あなたに構っている時間は無いものでして______ 56159」


それは、不意打ちである。

突然な事に人間は思考を止めてしまうものなのだ。

それを理解し、執事は仕掛けたのである。

守りに入って余裕ぶっている俺に、初回から切り札を切るという不意打ちを。

しかし、余裕をこいているのはどちらなのだろうか?

この作戦を実行しようと企んでいた執事ではないだろうか。

だから気付かない。

まさか、その切り札を"引き出された"だなんて。


そう、微塵にも。


「んじゃホイ、26835」

「?!」


執事の表情が若干歪む。

これこそが不意打ちである。


「こうゆう時間稼ぎもあったのですね。互いの解答不可を狙うなんて」

「まだわかっていないみたいだな執事のじーさん。これで終わりだ」


ノートに書いた413,980,252,345,500という解答を掲示すると、執事は首を振って解答を放棄する。

答え合わせのため電卓を用意するが、西円寺が止める。


「...電卓は必要無い...解答は合っている」

「そのようですね」

「掛け算程度じゃ決着がつかなそうだなぁ、西円寺」


この程度で勝てるような相手じゃ無いのはわかっていた。

さて、どうやって負かしてやろうか。

と、思考を重ねていると、空になっている寿司箱が目に入る。


「あれ?もう無くなってやがる...って言うかおいっ!!それ俺のっ!」


バクバクと頬張るピーナッツ味のサンドイッチ。

美味しそうに西円寺は、すでに最後の一つを食べていた。


「おやおや、足りませんでしたか?圓お嬢様」

「...頭使ったから...糖分摂取」

「どんだけ食うんだよ!お前!」


もはや言葉も出ず、涙が出そうだった。

こいつと絡むとろくな事が無い。

机に手をつき、首を垂らしていると、西円寺は首を傾け食べかけのサンドイッチを押し出して言う。


「...食べ...たいの?」

「いやそもそも俺のだからっ!」


朝早起きした時間を返せと訴えても、過ぎた時間は巻き戻らない。

再び俺は、首をガクンと落とした。


「......美味いか?」

「...ん」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ