『禁句』
クラス替え初日に、転校生が来るという噂が学校中を走り回り、大きな衝撃を与えていた。
と言うか、目立ちたがりの男子が本当に走り回り、各クラスのドアを開けては言って回っているのだ。
その噂が学校中に衝撃を与えた理由は、その転校生が受けた編入試験による採点結果だ。
職員室から漏れた全問正解の言葉を、今走り回っている男子が聞いたんだそうだ。
学級上位者が集うA組の教室に加わることは事前に聞いてはいたのだが、ここが地元で一番偏差値の高い中学校という事もあり、満点を取った転入生の実力に誰もが興味を持った。
しかし、俺はそんな噂に耳を傾けている暇は無いと即判断した。
考えるまでもない。
いつものように俺は、黙々とノートにペンを走らせる。
朝礼無視は日常化し、もう誰も注意などしないし、話しかけてもこない。
はずだったのだが、
「...変な勉強法」
どうやら近くにいる女子が、俺にそう言っているみたいだった。
クラスのどよめく声が聞こえ、顔を上げると、黒板に西円寺圓と白いチョークで綺麗に書かれており、教師が慌てている様子が視界に映った。
「やめなさい」と心配そうな教師の声がその女子に向けられる。
当然注意の類ではなく、俺に関わっては駄目だという意味だろう。
一瞬反応してしまったが、俺は勉強に戻ろうと視線を下す。
「...頭悪そう」
「んあ?」
が、言葉による追撃に声を漏らす。
転校生だかなんだか知らないが、さすがにイラっとくるものがあり、不機嫌な態度で声の方へと振り向くと、そこには少女がいた。
出っ張りのない華奢な身体に、黒くて長い髪。
感情の無い冷めた瞳の上には、真っ直ぐと切られた前髪が眉にかかっていてた。
一瞬小学生かと疑ってしまうほど身長が低く、座っている俺と視線がぶつかる。
「なんだこのちっこいの」
つい出てしまった言葉とほぼ同時に、小さな拳が俺の顔面を貫いた。
「...ちっこいは...禁句」
なんて暴力的な女なんだ。
俺はそこで意識が途絶えた。