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才無き英雄の回想  作者: 珠宮 黒
一章 懐かしき世界編
9/22

林間学校

 夏休み。

 照りつける陽射しと外国と比べると異様に高い湿度に蒸し焼きにされる季節。


 私達、国立第三仮想科学高校3年4組テント設営班はゆでダコの様になりながら、テントを張っていた。


「おぼろ〜たすけて〜。あついよ〜」

「我慢しろ、悠。これが終われば川に行けるんだ。

 動き回る周辺調査班や火のそばにいる必要のある調理班に回されなかっただけマシだと思っとけ。

 信司、ペグ取って」

「あいよ、って熱っ⁉︎」

「作業中は軍手外すなって言ったろ」

「がんばれ〜。

 ぼくはかわであそぶためにたいりょくをおんぞんすることにするよ〜」


 そう言って悠は日陰に避難し(逃げ)た。


 お子ちゃまめ。


 そうこうしているうちに作業が終わった。


「だー、やっと終わったー。こんなにしんどいなんて聴いてねー」


 真夏の陽射しの下、こんな苦行を行っていた理由、それは——


「艮先生が林間学校なんて言った時点で疑っとくんだった」


 艮先生主催、林間学校(地獄の合宿)である。




 1学期終業式


「——第一学期終業式を終わります。

 では、交通事後等に気をつけて楽しい夏休みを過ごしてください」

「諸連絡。何か諸連絡のある先生はいらっしゃいますか」

「はい。

 艮先生から3年生宛てにビデオメッセージを預かっているので、この後3年生は残って下さい」

「他に何かありますか。

 ……無い様なので解散とします。

 先生方の指示に従って教室に戻って下さい」


 艮先生から……何だろうか?


「よし、1、2年も出てったし流すぞ。

 あー、みんな、楽な体勢でいいぞ。ずっと体育座りはきついだろ」


 もっと早くに行って欲しかった。


 凝り固まった腰を伸ばし、休日のオッさんの様な体勢になった大地に、悠と並んで腰を下す。


「グヘッ。こっ、腰がっ」


 うむ、なかなかに良い高さだ。


「後ちょっと待ってくれ……っよし、再生するからそこは竪山から降りるか黙らせろー。

 煩くてかなわん」


 他人に迷惑をかけるわけにも行かないので渋々大地から降りる。

 先生の注意の仕方に関しては日頃の行いだろう。


 大地が静かになると同時にビデオが再生された。


『みんな、こんにちは!

 今日はある連絡をするためにこれを送りました。

 えー、いきなりですが林間学校を行います。

 日時は8月1日。

 細かい事は〈林間学校のしおり〉に書いといたから通知表と一緒に担任の先生から受け取ってください。

 あっ、それと親御さん達には話しは通っているからそこらへんは気にしなくても良いぞ。

 以上です。

 それから、赤点補習はそこでやるから覚悟しとけよ』

「……」


 沈黙


「「「「「よっしゃぁぁーーー!」」」」」「「「「ノォォーーー!」」」」


 そして二種類の絶叫。

 赤点組の地獄が確定した瞬間だった。


 そして林間学校初日。期待してバスに乗り込んだ私達は、灼熱地獄に連れ出された。




「よーし、川行くぞ、川。一番乗りだ。

 水着とタオルは持ったか!」

「「「「おう!」」」」


 信司が声を張る。


(カメラは持ったかー!)

((((YES!))))


 そして佐藤が周りの女子に聞こえ無いような声量で確認する。持ち物欄の水着の文字を見た瞬間に準備した。哀しき男の性である。


 ザザザザザザ


 滝の音が聞こえてきた。


「おっ、一番乗りはお前らか。

 夕飯の時間になったら呼ぶからそれまで遊んでて良いぞ。

 滝壺付近は行っても良いけど気をつけること。着替えはそこのテントでやってくれ。

 男女間違えるなよ」

「分かりました。

 よし行くぞ!」

「あー待て。

 竪山とカメラは置いてけ」


 バレていたようだ。


「ケチー。

 先生も男なんだから見逃してくれると思ったのに」

「まぁ待て。

 ちゃんとカメラマンを呼んである。

 写真は任せてその目にしっかりとパラダイスを焼き付ける方が良いと思わないか?」

「!!!

 先生……分かりました。

 カメラは置いていきます。」

「佐藤……分かってくれたか」

「はいっ」

「なんか2人して良い話風な雰囲気出そうとしてるけど、言ってる事は大分ゲスいよね〜。

 まぁ、僕も任せることにするけど」


 悠もカメラを渡す。


「艮先生。

 男としては尊敬します。

 だけど、最低ですね。教員として」

「グハァッ⁉︎」


 信司もカメラを渡す。毒を吐きながら。


「先生。一枚幾らですか」


 私は真面目に聞いていて、


「先生!なんで俺だけ⁈」

「赤点補習」


 そして大地は脱落した。


 大地を先生に引き渡し、私達は川遊びを開始した。



「大分人が増えてきたな」

「ウチの学校って意外と女子のレベル高かったんだな」

「だね」

「眼福だ 水着姿の 同級生 字余り

 どうよ」

「くだらねー事言ってんじゃねーよ、孝太郎。

 同意するけど」

「あなた達なにやってるのよ……」


 聞き覚えのある呆れ声に振り返るが、そこにいるのは見知らぬ美少女。


 いや、思い出せないだけで、知っているかもしれない。


 そう思って彼女の特徴を1つ1つ確認する。


 雲の様な柔らかそうで真っ白な肌、それとは対照的な艶やかで長い黒髪。

 意志の強さを感じさせる、若干つり目気味で整っているその顔は、呆れている所為だろう。目尻が少し下がり、優しい印象を受ける。

 黒いビキニの上から羽織った、少し大きめの白いパーカーは、大人っぽさと少女らしさとのギャップを生み出し、その美しさと可愛らしさをより一層際立たせている。


 なるほど、結論を述べよう。


「「「……誰?」」」


 やはり、こんな美少女は知らない。


「さっきの会話を女子に聞かれて、第一声がそれとは思わなかったわ……」


 更に呆れながら、どこからか取り出した眼鏡をかけ、その黒髪を後ろで束ねる。


「これで分かる?」

「「あぁ、委員長!」」

「藤原さんだ〜」

「眼鏡外して別人とか都市伝説だと思ってたよ」

「失礼ね。ところで竪山君は?

 一緒じゃないの?」

「補習」

「えっ、補習って今やってるの?

 大変ねー。こっちとしては早めに大人しくなってくれるから、ありがたいけど」

「激しく同意」

「千鶴ー。早くこっちおいでよー」

「ちょっと待ってー。


 呼ばれちゃったし私はもう行くわね。

 それと1つ忠告しとしてあげる。

 あんまり女子を見過ぎ無い方が良いわよ。

 うちの学校に通ってるだけあってそういうの鋭いし、戦う(すべ)は持ってるから。

 何かしらの制裁があっても知らないわよ?」


 そう言い残し、委員長は去って行く。


「……委員長」


 終始無言だった信司の頬が、赤く染まっている事に気付かないで。

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