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才無き英雄の回想  作者: 珠宮 黒
一章 懐かしき世界編
8/22

3人の日常

 1年半が経った。


 2年生も終わりを迎え、進路について真面目考えなければならない季節。


 本来ならクラスの誰もが勉強に対して真剣に取り組んでいるはずの教室は、異様なまでに騒がしかった。


「そっち行ったぞ!」

「今だ、張れっ!」


 ビンッ


 机と机の間、15cm程の高さに一本の紐が出現する。


「喰らうかっ!」


 スパッ


 大地が足を振り上げると、張り詰めていた紐は簡単に切断された。

 靴をよく見ると小さな刃物が飛び出している。


「嘘だろっ⁈

 切断体制にとことん特化させた特注ワイヤーだぞ⁉︎」

「馬鹿めっ、斥候系スキルのスキルツリーマスターを舐めるなっ!」


 大地は調子に乗ったのか、後ろを振り返り、挑発を始めた。


「お前壁役(タンク)だよな⁈」

壁役(タンク)が遁術使えて何が悪い!

 っへ?」


 しかし、そんな隙を見逃す程甘い人間はここには居ない。


 前を向き直った瞬間、馬鹿は巨大な網に包まれていた。


「で、誰が馬鹿だって?」

「いや、その、それは言葉の綾と言いますか、その……ゴメンなさい」

「そうかそうか、反省してるんだな。

 だったら罰は甘んじて受け入れろよ。


 お願いします」


 ガララッ


「えっ、艮先生⁈なんで⁈えっ、いやっ、ちょっ、いぃぃやぁぁぁ〜〜!」


 ガララッ、バタン


「じゃあ、1限の準備しよっか」


 異様なまでに騒がしく、そして平和だった。



 昼休み。


「酷い目にあった……」

「自業自得だろ。

 つーかいつの間に斥候系スキル極めたんだよ。

 お前一応壁役(タンク)だろ?」

「あー、アレなー。

 今学期の最初の仮想化でスキルツリー見たらなってた」


 今学期最初。思い当たる事が1つだけある。

 4組恒例、学期初めの大地捕獲作戦だ。

 確かに、仮想世界で出来ることが現実で出来る以上、現実で出来ることが仮想世界で出来ない道理は無い。

 斥候系スキルの異常に高い、奇妙な壁役(タンク)は我が4組の負の遺産だった。




「もうすぐ3年かぁー。

 時間が経つのって案外早いな」

「朧、おじいちゃんみたいだよ〜。

 でもそうだよね〜。大学とかも考えないとだし〜」

「受験勉強とか考えたくねー」

「考えなくても大丈夫だろ。

 今度仮想世界に関する学部だけの大学が新設されるらしいけど、俺らは内部進学的なのあるらしいし」

「へー。

 ってか、なんでお前がそんな事知ってるんだよ」

「今日、俺の成績だとそこすら行けないかもしれないって言われた」

「お前なぁ……」


 帰り道、3人でダベりながら歩いていたら衝撃的な事実が発せられた。


「まぁ、就職って手もあるし、大丈夫だろ。

 幸い、雇ってくれそうな幼稚園とか保育園結構あるし」

「給料少ないって聞くけど、生活費賄えるのか?

 主に食費」

「……時間のある時にバイトとかすれば大丈夫だろ」

「過労死……は心配するだけ無駄か。

 じゃあ、後1年でお別れなんだな」

「まて、なんで就職の方で考える。

 大学は目指すぞ」

「じゃあ、来年度からは捕獲作戦はなしか。

 あー、これで楽になるなー」

「ぐっ、……頑張りますよ」

「去年クラス替えがないって聞いた時は絶望したけど、そっかーやっと解放されるのかー」


 大地にプレッシャーを掛ける。

 多分春休みの宿題ぐらいは大丈夫だろう。

 ゴールデンウィーク?

 たしかダメだった記憶がある。


 最終的に大地が落ち込んだところでいつもの十字路に着いた。


「じゃあまた明日。

 大地は寝坊すんなよ。大学行くんだろ?」

「わーったよ。起きてやるよ、覚悟しとけ」

「「何を?」」

「知らん!じゃあな」

「バイバ〜イ」


 いつも通りに別れを告げて、いつも通り、十字路の角を陣取る3つの家の門を3人同時にくぐる。

 そして3人同時に玄関を開け、3人同時に「ただいま」という。


 そんないつも通りに終わりが近づいていた。

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