捕獲作戦
夏休みが終わり、2学期が始まり1週間が経った。
つまり、夏休みの宿題の提出というモノが毎日のようにあった訳で、我らが1年4組では、この1週間で日課と化した戦争が行われていた。
「佐藤と川村、後ろ扉を封鎖!ガムテープで補強するのを忘れるな!」
「了か……窓側に行ったぞ!」
「何で窓空いてんだ!閉めろって言っただろ!」
「閉めたよ!誰だ今回の裏切りもんは!」
「犯人探しは後だ、後。早く窓塞げ!」
「窓の封鎖完了!」
「良くやった!逃げ場はもう無いぞ。大人しくしろよ、馬鹿大地」
大地捕獲完了
大地の手足をしっかりと結び、豚の丸焼きの様に棒を通す。
「止めろっ、俺を食ってもうまくないぞ!」
「安心しろ。馬鹿の丸焼きなんざ誰も食わねーよ。
馬鹿が移るだろ。
先生のお怒りという名の炎で丸焼きにして廃棄処分だ」
「何だとっ⁉︎馬鹿は移んねーよ!撤回しろ!」
「そこかよ」
吊るされて喚く馬鹿を放置して、裏切り者探しを開始する。
「さて、今回は未遂で済んだし、正直に名乗り出れば1週間教室掃除で許してやろう」
反応は無い。ひとりを除いて。
「じゃあ怪しい奴を見たっていうのでもいいぞ、そこのだんだんと出口に近づいている質 濃蔵」
肩が跳ね上がり、関節部の錆び付いたからくり人形の様にこちらに向き直る。
「し、知らないな。
焼きそばパンが売り切れてしまうのでこれで」
「質が簡単な言い訳で済ましただと⁈」
「嘘っ、あの質君が⁈」
ザワザワ
クラス全員の疑いの視線が突き刺さる。
「…………」
「…………」
ダッ
「逃すな、取り押さえろ!今回の裏切り者は奴だ!」
数分後、丸焼きにするものが1人追加された。
「よし、今日の授業はここまで。
竪山と質と藤岡以外はログアウトするなりレベル上げするなり好きにしていいぞ。
ただし完全下校時刻は守る様に。
3人は話しがあるから残れ」
艮先生にも話しは伝わっていたのだろう。
2学期最初の仮想化で、宿題を一切やらなかった馬鹿と逃亡補助を行ったアホ2人が、青筋を浮かべた艮先生に呼び出された。
授業が始まった後は先生が許可しないとログアウト出来ないようになっているため、逃げる事は出来ない。
みんなとばっちりは嫌なのか、説教をくらっている馬鹿3人を見向きもせず、ログアウトするなり、相談する前に移動を開始するなりしていた。
当然、私と悠もすぐにその場を離れた。
馬鹿を待つ道理はない。
無事に離脱した後、悠、佐藤、川村と合流し、この後の相談を開始した。
「この後どこいく?」
「僕はどこでもいいよ〜」
「右に同じ」
「あっ、じゃあ金策手伝ってくんね?」
「構わねーよ。
他に意見も無いし、2人もそれでいいだろ?」
「うん」「ああ」
「じゃあ、どこでやる?」
「亡者の館はどうだ?
あそこって結構実入りがいいだろ?」
「いや、メンバー的にそこよりは——」
金欠の佐藤の発案で目的の決まった私たちは地図を広げ、狩場を選び始めた。
「そっち行ったぞ!」
「任せろ!大地と比べりゃこんな奴っ」
「グルゥ、ガァッ!」
佐藤の放ったレイピアが狗の魔物の目に突き刺さる。
「川村っ!」
「オウッ、ラァァァー!」
ドズッ
両手剣の肉厚な刃が首の中程まで喰いこんだ。
「グルルルルゥ——」
HPが尽き、2Mはあった巨大な身体は光となり弾け、後には勝利を告げるシステムウィンドウが残った。
「よっしゃ、アウルムジャッカル倒せたー。
見ろよこの獲得ゴルド。
40万だぞっ、40万!
さすがレアモンスター!」
「そうだな、すごいな、めちゃくちゃ嬉しいな、だから早くその腕治せ。
ガジガジ噛まれてたじゃん、ボロボロ過ぎてホラーだよ、放送事故のレベルだよ、怖ーよ」
「てか痛く無いのか、それ?
痛感遮断システム効いてるっつっても完全に痛みがなくなるわけじゃ無いだろ?」
「えっ?
…………腕がーーー⁉︎」
完全に忘れていたようだ。
「だいぶ儲かったしそろそろ戻ろうぜ。
もうすぐ完全下校時刻だし」
今更ながらにパニクる佐藤の治療をしながら提案する。
「俺は大丈夫だ。
必要な分の金は稼げたしな」
「そうだな。
回復アイテムもだいぶ少なくなってるし」
「さんせ〜い。
大地みたいになりたくないし〜」
「「「確かに」」」
全員の意見が一致した。
「大地で思い出した、1週間お疲れ様」
「ん?ああ、捕獲作戦か」
「気にすんなよ。
あれのおかげで仮想化の動き、復習出来たしな」
「そーそー。
これで他のクラスに差をつけられた」
「後あれだ。
クラスの結び付きが強くなった。これで体育祭の優勝は貰いだ」
「お前らと仲良くなれたしな。
それと今更だけど川村なんて他人行儀な呼び方は止めてくれ。信司で良い。」
「俺も孝太郎でいいぞ。」
「悠でいいよ〜。
よろしくね〜、2人とも。」
「俺も朧でいいよ。
今更だけどよろしく。
それと、孝太郎だと文字数増えて呼びづらいから佐藤のままで。」
「ナンデストッ⁈」
「「ハハハハハ」」
薄暗い森に、明るい笑い声が響いた。