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才無き英雄の回想  作者: 珠宮 黒
二章 新しい世界編
20/22

人種

「——はい、おしまいです」

「おもしろかったー!」「ドキドキしたねー」

 ワイワイガヤガヤ


 ミミルさんの話が終わった瞬間、子供達は一斉に喋り出した。


 話の内容を纏めると、創造神様という一番偉い神様が動物を進化させて作ったのが獣人、魔物と同じ要領で作ったのが魔人らしい。

 その名残で、獣人には元となった動物の特徴が、魔人にはマナとの親和性を飛躍的に高める器官が身体のどこかに現れるらしい。


 では人間はどうかというと、彼らのハーフなんだそうだ。

 二つの「人」種の「間」の子だから「人間」らしい。

 獣人と魔人の血がだいたい半々ならば、必ずと言っていいほど人間になるようだ。


 大きく分けるとこの三種族になる訳だが、獣人や魔人の元になった動物や魔物は一種類じゃないわけで、細かく分けると結構な数になるらしい。

 例えばミミルさんの場合、魔人族の中の精霊種という種族らしい。


「そういや結局親がいない種族ってなんなんですか?

 さっきの話じゃどの種族も普通に子供産んでそうでしたけど」

「魔人族です。

 魔人族というのは言ってしまえば人型の魔物ですから、親から産まれる子以外に、マナが集まって産まれた子がいるんです」

「ああ、そんなこと言ってたっけ」


 思い出してみれば、こっちに来る時にアイラがそんなことを言っていた。


「あれ、それじゃあ普通に親から産まれた子供の性格はどうなるんだ?」


 たしかアイラの話だと、魔物が産まれる時に強い感情に当てられるとそれに応じた性格の魔人になるって言ってたはずだ。


「その場合は基本的に、両親の性格のどちらかを受け継ぐか間をとったような性格になるかですね」

「なるほどな」

「ねーねー、遊ぼー」

「ん?」


 話の途中で声を掛けられて振り返ると子供たちがボールを持ってこっちを見ていた。


「私からもお願いします」


 ミミルさんからもお願いされる。

 というか、元々彼らの相手を手伝って欲しくて、私達を連れてきたんだろう。特に断る理由も無い。


「よし、何をやるんだ?」

「サッカー!」


 こっちの世界にもあるのか。






「——で、その後子供達に付き合わされたんだけどさ、やっぱり子供ってすげーわ。疲れを知らん」

「そりゃそうだ。

 いつもいってるだろ、あいつらはオンかオフしかない代わりに疲れを気にせず動き回るって」


 話の後、私達は子供達に捕まり、夕食の時間まで遊び相手をさせられた。

 その事を夕食をとりながら話すと大地にダメ出しをくらった。


「子供の相手をする時は、いかに子供だけが疲れる遊びに誘導出来るかが重要なんだよ」

「おーおー流石、ベテランは言うことが違うねー。

 ……出来たら疲れてねーよ」

「それもそうだな」

「次行くときは大地も連れてくからね〜」

「任せとけ」


 悠の言葉に、さも当然とばかりに大地が頷く。


「ダイチ様はご兄弟がいらっしゃったのですか?

 随分と子供馴れしていらっしゃるように聞こえますが」

「ああ、上が3人と下が4人いる。

 一番上の兄貴以外、みんなガキみてぇな性格だったから自然とな」

「家庭的なことやらせたら、大地がダントツで一番だろうね〜」

「えっ⁉︎」


 カインが驚いてる。

 多分、街に行くとき一番大変なやつだと思ってチーム分けてたんだろうな。

 まぁ、基本バカだからしょうがないとは思う。


「更に言うと、昔っから面倒見が良かった大地は幼稚園に通ってた頃から先生達を手伝ってたし、卒園してからもお手伝いに通い続けた結果、評判が評判を呼んで、市内の幼稚園及び保育園全てから『ウチで働かないか』と言われるようになった。市外からも何件か」

『『『すごっ!』』』


 ハモった。

 まぁ、普段から一緒いるとあんまり思わないけど、普通に凄いからな。


「まぁ、大変っちゃ大変だったけど、そのおかげで体力には自信があるからな」

「竪——大地くんの無尽蔵な体力にはそう言う理由があったのね」


 委員長——千鶴が納得したように言う。

 小さい頃からの付き合いだったからあまり気にしてなかったけど、改めて考えてみると普通に疑問に持つくらいスタミナあるからな。


 ちなみに、千鶴が大地の名前を言い直したのは、街でカインから聞いた名前の件を話したからだと思う。これがなかなか直らないものなのだ。


「無尽蔵な体力といえばさ、コイツ今日ガルムさんから一本取りかけたよ」

「マジか」

「めっちゃ焦ってたよな」

「そうね。あのまま負けてくれたらスッキリしたのに」

「ホントにね」


 みんな初日のやつまだ根に持ってたのか。


「ダイチ様の強さは異常ですね」

「そうですね。頼もしい限りです」

「こればかりは、アイラ様が珍しくいい仕事をしたと認めざるを得ません」


 私達が大地の話題で盛り上がっている横で、ソフィとカインがそんなことを言ってるのが聞こえた。

 ガルムさんはこの国の最大戦力とまでは言わないまでも、兵団長を任せられるだけあって、かなりの実力者だ。

 そんな相手に、いくら護身術を身につけてたとはいえ、初心者が僅か半月程で勝ちに手が届きそうになるというのは、確かに頼もしいものだろう。


 珍しくとか言ってるのは気にしてはいけない。


「でも、みんないい子だった」


 葵の言葉で話題が子供達の事に戻る。


「あー、確かにぶつかっても喧嘩とかはしなかったな」

「へー、それは偉いな。珍しい。

 種族も違うんだろ?いや、だからこそか?」


 子供にサッカーとかをやらせるとよくいるのだ。ボールに気をとらられて他の子とぶつかる子が。

 大抵はどっちかが泣いたり喧嘩になったりするのだが、今日相手をした子達は、お互いを心配していた。

 自分が平気でも相手がそうとは限らないことをわかっているのだ。

 そのことを話すと、続けて葵が口を開いた。


「多分だけど、神様が実際にいるからだと思う。

 人種差別の根本にある選民思想って宗教が原因みたいなものだし、神様が実在していて『全種族は平等だ』みたいなこと言ってたら選民思想なんてそうそう生まれるものでもないでしょ?」

「そうですね。実際、過去に召喚された中で、神と人との間で交流のある世界から来られた方は特に驚いていなかったと聞いていますし、アオイ様の仰る通りで間違ってないと思います。


 結局の所、ちょっと見た目と得意なことが違うだけで、みんな同じなんです。

 それこそ、神様が保証しないと他の種族を認められない、弱いところまで」


 ソフィの最後の言葉は、少しだけ寂しさのようなものが含まれていたが、この時の私達はその理由を、いや、ソフィが「みんな同じ」に込めた意味を理解出来ていなかった。





 三日後、訓練の途中で私達はソフィに呼び出された。


「訓練の最中にすみません。少々急を要するといいますか、偶々条件のそろった案件がありまして、お呼びさせていただきました」

「何があったの?」


 千鶴が代表するようにソフィに問いかける。


「それは移動しながら説明させていただきます。

 とりあえず付いてきてください」


 そう言うとソフィは移動を開始した。


「これから皆さんには、カインの五感を共有してもらって、ある体験をしていただきます。

 それを元に、本当に魔王討伐に参加するのか、決断を下してもらいます。

 言ってしまえば最終確認です」

「どんな事を体験するの~?」

「今は伏せさせていただきます。

 始まればカインから説明があるでしょうし、万が一にも怖気付かれて間に合わなくなってもこまりますから。

 ただ、わざわざこのような事をする理由を考えることも含めての最終確認だとは言っておきます」


「何をするのか」と過去の自分が考えていたタイミングで、「この日は何があったんだったかな」と微妙に違う事を考える。


 結局、あと少しのところでどうにも思い出せずにいるうちに、城壁の側の塔にたどり着いた。

 塔といっても小さなホールくらいの直径はある大きなもので、見渡す限りだと塔を登る手段はその壁に添うように設置された傾斜の緩いスロープぐらいしか見つからずに上下の移動はなかなかにめんどくさそうだ。

 何に使うのかよく分からない器具や、理科室で見かけたような器具がたくさんあることから、ここが研究施設であることは何となくだが想像出来るし、スロープの側には荷台もあるから重い研究素材を運びやすくするための工夫なんだろう。


 こんな所になんの用がと思っている間にもソフィは塔をどんどんと登っていく。


 5分程スロープを登り続けてようやくたどり着いた場所は、ここに着くまでに通って来た階とは違って、スッキリと片付いていた。

 というか何も無かった。

 せいぜいが床に彫られた模様——魔法陣くらいだ。


「ここは?」

「受信系魔法・スキルの精度を高めるための部屋です。

 もっとも、普段は研究素材運搬の為の輸送魔法ぐらいしか使わないので、こんなところに設置されてます」


 ソフィは床に彫られた魔法陣を確認しつつ質問に答えてくれる。


「だから今回みたいに別の用途に使うには少々不便なんですよね。


 ……後は発動させて待つだけと」


 ソフィがそこまで言ったところで魔方陣がほのかに光はじめた。


「どうやらカインの準備ができたようですね。

 それでは皆さん、どうか心を強くお持ちください」


 そして意識がきりかわった。





 意識がきりかわって目に写った光景は路地裏の様な場所だった。

 続いて首の動く感覚があり、5人ほどの軽鎧を装備した兵士の姿が視界に入る。


「送信用魔道具、作動を確認。

 以降、正常に通信が行われているものとし、行動します」


 口が動く感覚と共に、カインの声を少し高くしたような声が聞こえた。

「ような」というか、おそらく今のはカインの声で間違いないだろう。


 すこし高い気がするのは、たぶんカインの聴覚を通しているせいだ。

 録音した自分の声と自分で発声しているつもりの声の高さが違うように聞こえるのと同じことが起きているんだろう。


「皆様。突然お呼び立てしてしまい申し訳ございません。

 ソフィ様から目的は聞いていると思いますので、この後すぐに僕達は行動に移りますが、その前に今の状況だけは説明しておきます。


 現在、僕達は第2級指定の犯罪者を追っています。

 犯罪者のランクについては先日学ばれたと思いますが、念のために言わせてもらいますと、第2級以上は生死不問です。

 特に、今僕達が追っている対象は死刑が決まっていた脱獄囚ですし、協力者も既に捕らえていますので、生かして捕らえるだけの価値もありません」


『生かす価値が無い』そんな言葉をカインの、いや、知り合いの口から聞くことになるとは思ってもみなかった。


 そう思ったのと同時にこの日にあったことを思い出した。


 この日は、他人を通してとはいえ、私達が初めて――


「ですので、殺します。

 皆様には、殺人を体験していただきます。」


 ――初めて、殺人を経験した日だ。

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