はじ○てのお○かい
「要するに、俺たちにこの国の貨幣に慣れさせるついでに買い出しをさせようと」
「はい」
グラスレルタに来てから2週間が過ぎたある日の朝食の後、私、悠、桐島の3人は訓練に行こうとしたところをカインに呼び止められた。
「で、今日は俺たちだと」
「はい」
「訓練はどうするの〜?」
「荷物持ちって結構大変ですよ?」
「……そうゆう事ね」
どうやら一筋縄では行けないらしい
カインに連れられた私たちは、賑やかな市場を歩いていた。
「カイン君、何を買うのか聞いてもいい?」
「大丈夫ですよ。
まずは薬を、それから塩や胡椒などを買って、最後に野菜ですね 。ついでに相場も抑えといてください」
「分かったわ」
「そういえば言うのを忘れてましたが、貴族以外は家名が無いのが普通なので、面倒な輩に目をつけられないよう、こういう場所では名前で呼び合うようにしてください」
「となると……」
女子を下の名前で呼ぶのか。
なんか恥ずかしいな。
なんて思っていると
「朧君、悠君、って呼べばいいのね」
何の躊躇いも無く桐島が私と悠の名前を口にした。
女子っていうのはやっぱりこう言うのに抵抗が無いんだろうか?
とはいえ、女子に言わせといて男がおどおどするのもみっともないので、覚悟を決めて彼女の名前を口にする。
「葵、でいいのか?」
想像以上に恥ずかしいな、これ。
「葵さん、だね〜」
「ボロ出しそうだな」
そう言って恥ずかしい気持ちを誤魔化した。
「なるべく気をつけてくださいね。
さあ、着きましたよ。ここが薬屋です」
そうこうしているうちに、最初の店にたどり着いたようだ。
カインがドアを開けて声を上げる。
「ごめんくださーい」
「ハイよー。
あらっ、カインちゃんじゃないかい。久しぶりだね」
店の奥から出て来たのは恰幅のいいオバちゃんだった。
剣と魔法の世界の薬屋というから、デッカい鍋をかき混ぜてる魔女なんかを予想していたが、そういう訳でもないらしい。
「お久しぶりです、マリーさん。あと、カインちゃんはやめてください」
「はいはい。
で、カインちゃん。今日は何でわざわざ?」
「やめる気無いですね……はぁ、実はですね——」
カインがマリーさんに事情を説明しているうちに店内を見回す。
まず、窓際の棚に目をやると、そこにはプランターがおかれ、薬草らしきものが生えていた。
その前には値札が置いてあるからこれも商品という事だろう。
それに対して、陽の当たらないカウンターの奥の棚には瓶がたくさん陳列されている。
防犯と品質管理を兼ねた配置だろう。
カウンターの方を見ていると、ちらりとマリーさんの出て来た店の奥が見えた。
デッカい鍋とかあったりして……
……
……本当にあったよ
などと驚いたりしているうちに説明が終わったようで、マリーさんによる懇切丁寧な薬の説明が始まった。
薬屋で買い物を済ませた後、塩や香辛料、野菜と無事に買い物を済ませ、城への道を歩いていた。
カインが荷物の1/3を持ち、残りを三人で等分して持っている。
「はあ、はあ、……葵、さんや」
「なん、ですか、朧、さん」
「〜♪」
「悠の、に、積みま、せんか?」
「いい、アイデア」
とはいえ、かかる負担は明らかに違った。
「ダメだよ〜二人共。
自分のくらいちゃんと持たなくちゃ」
「だったら、お前も、ちゃんと、持て」
「魔法、使う、なんて、ズルイ。
ちゃんと、自分の、力で、持って!」
私と葵は背負子に積んでいるのに対し、悠は一人だけ魔法で浮かせて楽をしているのだ。
ちくしょう、魔法が上手いからって調子に乗りやがって。
「ちゃんと魔力で浮かせてるから自分の力だよ〜。
それにトレーニングも兼ねてるんだから二人のを僕が持っちゃったら意味ないでしょ〜」
「ち、くしょう、言い、返せねぇ」
「むぅ」
「ふっふ〜ん」
私たちを黙らせて、悠はさらに調子に乗る。
「——うわっ」
が、すぐにその余裕は崩れた。
「なるほど、確かにトレーニングですからユウ様がお二人のを持つのはダメですね。
かと言って、ユウ様だけ楽をする、と言うのもいただけません。
ですので、僕のを持ってもらうとしましょう。
ユウ様ならこれを全部持っても平気ですよね?
ふぅ、楽になりました」
そう言って、カインが両手と背負子に積んだ荷物を、どんどん悠が浮かせている荷物に積んでいったのだ。
「……魔力持つかな〜?」
楽をしたバチが当たったな。