駄女神再び
「えーっと、何してんの?」
「朧さん!助けてくださいー!」
「あら、皆さん、お久しぶりです」
夕方。昨日の模擬戦の結果から個別に割り振られた『ガルム式特別強化メニュー』を終えた私達は、玉座の間に呼び出された。
呼び出されたのだが——
「新生活には慣れましたか?」
「あ、あぁ。慣れたけど……」
そこにいたのは、1週間前に私達をこの世界に導いた(一応)女神アイラと、
「ん〜、はーなーしーてー」
「いやでーす。可愛いソフィちゃんが悪いんですよ」
「皆様来てますー!離してください〜!」
彼女に後ろから抱きつかれ、ジタバタともがくソフィだった。
「マジで何してんの?お前ら」
神と王をお前ら呼ばわりした事に、目くじらを立てる者は誰1人として居なかった。
「——と言う訳です。よろしくお願いします」
アイラが言うには、私達に魔法を教えてくれるのは彼女らしく、神であるが故の手続きに時間が掛かったせいで来るのが1週間も遅れたらしい。
先に済ませとけと思わないことも無いが、きっと事情があったんだろう。
無かった時に怒りを抑えられる自信が無いので聞かないが。
「ああ、よろしく。
それで、授業はいつから始めるんだ?」
「……」
「では今日から。と言いたい所ですが、私も準備が必要なので明日からですね」
「……」
「分かった。ところで——」
「……」
「はい?」
「……」
「いつまでソフィを抱いてるんだ?」
さっきから不貞腐れてるぞ、あんたの胸の中で。
10分後、やっと満足したアイラが解放するまで、ソフィはずっと泣きそうな目をしていた。
「……グスッ、なんでっ、だれもっ、ヒグッ、だずげでっ、エグッ、ぐれないんっ、ヒグッ、でずか〜」
「あぁ、泣かないでソフィ。よしよし。
誰ですかっ、私のソフィを泣かせた悪党は⁉︎」
「いや、あんただよ」
なに責任をなすり付けようとしてんだ、この駄女神。
「変態」
「うっ」
「ロリコン」
「ぐっ」
「最低ね」
「がはっ」
「アイラ様なんて嫌いです!」
「ぐはぁっ」
女子3人に汚物を見るような目で言われて崩れ落ちかけていたアイラにソフィがトドメを刺した。
もうやめてー、アイラさまのライフはゼロよー(棒読み)
「ああ、いたいた。
皆様、お食事の用意が出来ましたよ」
「は〜い。今日のメニュー何〜?」
「いやいや待て待て。あれを放って置くのか」
そう言って、泣いてるソフィと崩れ落ちた変態に目をやる。
「あれ、ですか?
ああ、いらっしゃったんですか、駄女神様?」
「えっ、カイン君。なんか悪意を感じたんだけど」
「ああすみません。駄女神」
「隠す気ゼロ⁈もっと敬って!」
「そうだぞ、カイン。仮にもお前の国の——」
「またうちの国王泣かせたんですか?」
前科有りかー。
魔法の指導員。
変な人じゃなければ良いなと期待した結果、来たのは変な『神』でした。
……違う。そういう事を期待したんじゃない。
「はい、それでは魔法の授業を始めます」
翌日、昼食の後に私達が訓練場に集まると、真っ白なタイトスーツに身を包み、これまた白い縁のメガネを掛けて指示棒らしき物を持ったアイラが授業の始まりを告げた。
教師……のつもりだろうか?
というか何がここまで彼女を白に固執させているのだろう。
「正直なところ、魔法は発動させるための手順を知らないと何も出来ないので最初は座学が中心となります」
「「「え?」」」
「覚えた時に感覚で分かるんじゃ無いのか?」
優のスキルみたいに。
「確かにレベルの上昇で覚えた時はそうですけど、練習でも使えるようになりますから。
それに、今のレベルだと覚えられるまでに早くても二、三週間はかかりますよ?」
「なるほどな」
「そんなに難しく無いので安心して下さい。
今日明日には十分終わらせられる量ですし」
「だってさ。そんくらい出来んだろ、大地」
主要5教科で赤点取ってないの見たことないけど一応高校生出来てたわけだし
「いいだろう……そこまで言うなら勉強をしてやろうじゃないか……」
「なんで上からなんだよ」
「しかしなめるなよ?
俺たちが『そんなに』難しく無い程度ですんなり理解出来ると思ったら大間違いだ!」
「「一緒にするな(しないで)!」」
5時間後
ぐうぅ〜〜〜
「くっ、分からない……」
「そこはこうだろ」
「……違いますよ、大地さん」
「アイラ先生ー。ここどうなってるのー?」
「あれ⁈10分くらい前に同じ質問されたと思うんですが⁈」
ぐうぅ〜〜〜
「カインー」
「はい、何ですか?」
「三馬鹿は置いといて飯にしようぜ」
さっきから腹の虫がうるさい。主に優の。
「分かりました。
すぐに用意致しますので、食堂でお待ち下さい」
「やった〜。ご飯だ〜」
「あっ、ずりぃ!くそー、とっとと終わらせて飯にありついてやる……
……ああー!やっぱり分かんねえー!」
「う〜ん……こう!」
「惜しいです!ここはこうですね。カオル様、もう一息です!」
『そんなに』難しく無い程度で理解出来ないやつとは違うんじゃなかったっけ?