求む、平凡
「あ、吹っ飛ばされた」
「孝太郎でもだめか」
悠に続いて、委員長、信司、桐島、山本、佐藤と挑んだが、全員見事に吹っ飛ばされて決着がついた(秒殺とも言う)。
多分だが、ガルムさんは狙ってやってるんだろう。
「じゃあ次行ってくる」
「せめて一発よろしく」
「任せとけ」
それだけの力量差があるという事だからしょうがないとは思うものの、思春期の子供というのは、流石にそれを許容出来るほど心が広い生き物ではない。
「やれ〜!ブッ飛ばせ〜!」
「俺らの仇を取ってくれー」
「殺ってよし」
「そうだそうだー。殺っちゃえー。
ってあれ?殺る⁈葵⁈」
「全員にわざと同じ勝ち方をするなんて舐めた真似をしたこと、後悔させてやりなさい」
だからこういう反応をしても許されると思いたい。
ていうか女子勢酷いな。
「嫌われたもんだな」
「自業自得っすよ。
まぁ、それもこれでおしまいですけど。
あいつらの仇、取らせてもらいます」
「ん?これ特訓だ「問答無用!」
威勢の良い言葉と共に一気に大地が斬りかかった。
難なく弾かれるも、左手の盾も使い、途切れる事なく放たれ続ける攻撃はガルムさんに反撃する余地を与えなかった。
「うっわ、ガルムさんが防戦一方だよ。
あいつ本当に俺らと同じ世界の人間か?」
「ガルムさん一歩も動いてないけどな」
「何その漫画とかでよくあるやつ」
しかし、大地と言えどもそんな攻撃をし続けて体力が持つわけがない。
目に見えて攻撃の数が減った頃、ついにガルムさんが動いた。
動作の遅い大剣ではなく、牽制を目的とした至近距離からの素早い拳が大地の肩に叩き込まれた。
十分な加速が無くても、体重の乗った重いその一撃は、大地のバランスを崩すのには十分だった。
ガルムさんはすかさず追い討ちを掛けるが、流れに身を任せ、そのまま後ろに倒れこんだ大地に惜しいところで避けられてしまう。
そのまま距離を取ろうとする大地に、大人気なくもスキルを交えてまで攻撃を仕掛けるガルムさんだが、全て避けられるか防がれるかしてしまう。
「……いや、驚かないぞ。驚いたら負けな気がする」
「大地、だんだん息が整ってきてるよ〜」
「あー、やっぱりか。長引くかな」
「多分ね〜」
「お前らは何でそんな冷静なんだよ……」
「えっ、いやだって」
「ねぇ」
余りにも今更な質問に悠とハモりながら答える。
「「大地だし」」
「あ、お前らにまともな答えを期待した俺が悪かったです」
失敬な。
そんなことを言っている間にも、上手いこと隙をついて大地が攻めに転じた。
「おや、これは困りましたね」
「ん?」
後ろから聞こえた声に振り向く。
「あぁ、カインか。何が困ったんだ?」
「こんにちは、オボロ様。
いえ、そろそろひと段落ついたと思って昼食を用意したのですが……」
「あーなるほど……
多分しばらく続くよ、これ」
しかし大地の所為でせっかくの料理が冷めてしまうのは納得がいかない。
「じゃあ、先に食べちゃお〜」
「分かりました。
では、食堂までご案内いたします。」
そう言って動き始めたカインに続いて私達は訓練場を後にした。
カチャカチャ
「そう言えば悠」
「何〜?」
「さっきのあの——魔法?はどうやったんだ?」
用意された料理を口に運びながら、悠にさっきから疑問に思っていた事を聞く。
「もぐもぐ、っんぐ。
ああ、あれ?
朧は僕が選んだ恩恵覚えてる〜?」
「たしか見習い魔術士だろ?
それがどうかしたのか?」
「うん。
恩恵の取得と同時にね〜『マナの光』っていうスキルが手に入ったんだけどね、なんとこれ、マナを見る事が出来るスキルだったのです!」
「おー。どう凄いのかわかんねー」
「うんうん、普通はそうだよね〜。
僕もそう思ってたもん。
でも見てる分には綺麗で楽しかったからちょくちょく使ってた「ちょっと待て。そもそもとして、そのスキルはどうやって使った」え?う〜ん、なんとなく?」
「は?」
余りにも意外な回答に肉を運んでいたフォークが止まる。
「スキルを手に入れた時に、使い方も一緒になんとなく分かった、っていうのかな〜?
うん。そんな感じだね〜。
ごちそうさま〜」
「ああ、そういうことか……」
おっ、この肉美味いな。
「うん。
あ、それでね〜、スキルを使ってたら凄い事に気付いちゃったんだよ〜!」
「凄い事?」
「なんとね〜、丸とか四角とかの図形の上で、マナは決まった動きをしているのです!」
「……あー、なるほど。
あの魔法っぽいのはそういう仕掛けか。」
「そういう事〜」
「なるほど、悠にしか出来ねぇな」
と、1人納得していたら周りから待ったがかかった。
「ごめんなさい。理解が追いつかないわ」
「委員長だけじゃねぇよ。
大地ん時もそうだったけど、朧の理解力がおかしいんだ」
「お前ら時々ひでぇよな」
「で、結局どういう事だ?」
え、何?無視ですか?
「あ、ごめんごめん。
そのマナの動きなんだけどね、図形を重ねて組み合わせる事が出来るんだよ〜。
で、さっきのガルムさんの魔法でどの動きがどんな効果を持ってるのかがある程度分かったから出来る範囲で魔法を再現して見たって事〜。
信司、パン食べないなら頂戴〜」
「1つだけだぞ。
朧、分かりやすく纏めると?」
「そうだな……
一、図形があればマナを動かせる事が発覚。
二、魔法を使うとマナが図形の時と同じように動く事が判明。
三、じゃあ逆に図形でマナを動かしてやれば魔法発動するんじゃね?よしやってみよう。
四、さっきの魔法。って感じだな」
「ああ、魔法陣ってやつか」
「あ、その言い方で通じた?
あってるよな、悠?」
一応悠に確認するが、こんな感じで問題無いはずだ。
「そうだよ〜。
あっ、ちなみに図形を描いてた光は魔力だよ。
武器に魔力を着色して放出する図形をあらかじめ描いといたんだ〜」
「あーなるほどなるほど。……本当に人間か?」
「多分〜?」
「そこは断言しなさいよ……」
委員長の言う通りだよ。
幼馴染2人が人外とか、俺嫌だよ?
「そういえば魔法の授業っていつから始まるの?講師がいないからって先送りにされて、そろそろ1週間経つよね?」
食後に出てきたバニラアイスっぽい味と食感で温かい謎デザートを食べていたら、山本がふと思い出したように口を開いた。
「カイン君は知ってる?」
「ああ、その件でしたら明日の昼頃に来られるようです」
「じゃあ授業は明日から?」
「恐らくは。
楽しみですか、カオル様?」
「うん!魔法ってなんかカッコいいじゃん!」
「教えようか〜?
30種類ぐらいの図形と方程式を覚えちゃえば宴会芸ぐらいの事は出来るよ〜」
「遠慮させていただきたく存じます」
「なんで⁈たった30種類なのに!」
「いや、それで納得するのはお前ぐらいだぞ、悠」
「そもそもユウ様のはスキルに近いですね」
「え〜」「いや、『え〜』じゃないだろ」などと言い合っているうちに、委員長が話を進める。
「それで、講師の人ってどんな人なの?」
「え……あーどんな人か、ですか。
まぁ、素晴らしい方ですよ、我々よりよっぽどマナに詳しいですし」
恐らく何を聞きたいのかが分かった上で、あえて不透明な回答をするカインに、委員長がより具体的に質問をする。
「そうじゃなくて、人柄とか、そういう事について聞きたいんだけど」
流石にハッキリと答えないわけにはいかずに、口を開いたカインからは、どこか達観した様な雰囲気が感じられた。
「慣れますよ、きっと」
……この世界にまともな人を望むのは間違っているのだろうか。