神童
「さて、次は誰だ?」
「あっ、僕やりたいな〜」
名乗りを上げたのは悠だった。
「よし、では準備しろ。
他の奴らは離れとけよ」
言われた通りに距離をとり、観戦モードに入る。
悠は頭が良いから、さっきの試合を見た上で何をするのかが見ものだ。
「それじゃ、いっくよ〜」
そう言いながら刃渡30cmほどの、ただの棒にすら見えるほど細いナイフを腰の鞘から抜くと、正面に構え、その切っ先を小さく揺らし始めた。
「何してんだ、あいつ?」
「さぁ?」
だんだんと悠の動きは大きくなり、揺らすと言うよりも何かを描いている様にも見えてきたが、それでもわざと隙を晒している様にしか見えなかった。
ガルムさんもそう思っていたんだろう。
しかし、その表情はすぐに驚愕と焦りの入り混じったものに変わった。
「おい、あれなんだと思う?」
「どれだよ?」
「悠の手元。なんか光って無いか?」
信司に言われて悠の手元に注目すると、確かに悠の降るナイフの先に何かがあるのが分かった。
「マナ?」
遠くてよくは見えないが、つい先程、派手に吹き飛ばされたのだ。
何となくだが、マナを感じるくらいの事は出来てしまう。
この世界では魔法やスキル自体は珍しいものでは無い。
むしろ、使えないのは覚える気の無い変わり者だと断言出来るほどにありふれたものと言えるだろう。
しかし、それは彼らがマナの操り方を知っているから使える訳で、いきなり使えるものではない。
目隠しをした状態で見たことすら無い道具を渡されて「これを正しく使って下さい」と言われても無理なのと一緒だ。
「マナって魔法とかのあれか?
まさか、あり得ないだろ。教わってすら無いんだぞ」
信司の言う通り、講師が不在だとかで私達はまだ魔法やスキルについては教わっていないし、先程の訓練を除くと目にもしてない。
つまり悠は独学でマナを扱う術を身につけたのだ。
それも、つい今しがた。
対戦とその後の処置で3回ほどしか使われていないと思われるそれを分析するだけで。
だからこそ、ガルムさんも驚いているのだろう。
しかし、それだけでは焦っている理由が分からない。
悠の創り出したそれは、どうしてもそんなに危険なものには感じないのだ。
あれこれと考えを巡らしていると、遂に悠が動いた。
何かを描き続けていたナイフを胸元まで引き戻し、深く、力強く踏み込みながら拳大程のマナの塊に突き入れた。
————————————ッ‼︎
静かな、しかしながら強烈な爆発。それ以外の事は分からなかった。強い光と圧力に襲われ、それらが収まってから目に写ったのは、後ろに約15m、上には10m程吹き飛ばされたガルムさんと10人中9人は悪ガキと称すること待ったなしの笑顔を浮かべながら駆けだす悠だった。
そして、そんな表情を浮かべた悠の行動はだいたい——
「お〜わり〜」
「させる、かあぁ——‼︎」
ガルムさんの意識ははっきりしている様で、風を纏い強引に体勢を立て直しながら、剣の真後ろで小爆発を起こして剣を一気に加速させて振る。
熟練の技で加速された一撃は悠の脇腹を捉え、そのままかっ飛ばす。
「うわあぁぁーっ!」
——失敗する。
「おー、ホームラン」
異様なまでの頭の良さを誇っても、やっぱり悠は悠だった。