ステータス
「ん、ん〜。……ん?」
強烈な日の光に目を覚ました私は、見覚えのない景色に、思わず首を傾げた。
「……ああ。そういや昨日……
夢じゃなかったのか……」
少し寝ぼけたままの頭で昨日の出来事を思い出す。
「たしかあの後のパーティーで全種制覇をした後に余興で設けられてた大食い大会に……」
コンコンコンコン
「ん?はい」
「カインです。
入ってもよろしいでしょうか?」
「あぁ、どうぞ」
「失礼します」
そう言って入って来たのは、私に割り当てられた執事の少年、カインだった。
「おはよう、カイン」
「おはようございます。
朝食の用意が出来たのですが……」
彼の視線が私の腹に向かう。
「食べれますか?
と言うか、起き上がれますか?」
「あー、すまん。
食えそうに無いや。
昨日食べた分がまだ残ってる」
そう 私はまだベットの上で横になっている。
腹が張って起き上がれないのだ。
……窓から注ぐ朝日が眩しいぜ。
「起きるのは——うん、補助があれば行けそう」
「やっぱりですか。
いや、起きれるだけマシですかね」
「やっぱりって……」
「ダイチ様とコウタロウ様も同じことになってるみたいですよ。
お二方は起きることすら無理らしいですが」
「あらら。
あ、トイレ行きたいから起き上がるの手伝ってくれないか?」
「分かりました。
歩行の補助は必要ですか?」
「そこまでは必要無いかな。
場所教えてくれる?」
「この城、結構入り組んでるので案内しますよ。」
「じゃ、お願いします」
「はい、お任せください」
異世界2日目、スタート
「それでは、授業を始めます」
お昼過ぎ。
ようやく全員がまともに動ける様なった所で、第一回ソフィ主催の異世界常識講座が始まった。
「今日は皆さんのステータスの確認と城内の案内を済ませてしまおうと思います。
まずはステータスの確認から。
言葉だけで説明するのは大変なのでまずはやってみたいと思います。
こう唱えてください。
『ステータスオープン』」
ソフィがそう唱えると、彼女の前に青い半透明の幕の様なものが現れた。
「うおっ、なんか出た」
「これはプレートと呼ばれるものです。
ここにステータス等が表記されます。
皆さんもどうぞ」
「ステータスオープン」
オボロ モチヅキ (18)
レベル 1
恩恵 未選択
生命力 79/79
魔力 81/81
力 12
頑丈 7
速さ 10
器用 6
魔操 0
スキル
言語理解
魔法
称号
竪山大地捕獲作戦隊長 異世界人 勇者
「上から順に、その人の名前・年齢、レベル、恩恵、ステータス値、スキル、魔法、称号が書かれています。
名前と年齢は説明するまでもないと思いますので、レベルから説明させてもらいます。
レベルと言うのは、敵に勝ったり、人のためになる事をした時に手に入る『経験値』というものが蓄積される事で上昇するものです。
レベルが高くなると身体能力が上昇しやすくなります。
なのであまり正確ではありませんが簡単な強さの目安にはなります」
って事はレベルが高くても鍛えなかったら弱いままって事か。
過去の光景と共に思い出された当時の思考に、この走馬灯を見る原因となった竜との戦いがあそこまで一方的な展開になった理由が脳裏をよぎる。
素振りでも続けてれば少しは変わったのだろうか。いや、今更反省した所でもう遅いか。
そう自分に言い聞かせ、無意味な反省にけりをつける。
「レベルについてはこれくらいですね。
えっと、次は……恩恵については最後の方がいいので、ステータス値ですね。
これは諸々の身体能力を数値化したもので、上から生命力、魔力、力、頑丈、速さ、器用、魔操となっています。
先ずは生命力ですが、これはいかに死から遠い状態にあるかを示しています。
怪我をしたり、病気になるなどして命が危なくなるほど数値が下がり、0は死亡した事を示しています。
これは頑丈の値や防御技術などで上下します。
次は魔力です。
皆さんはマナについてはアイラ様から聞いていますか?」
「簡単にだけど」
委員長の言葉に続くようにみんなが頷く。
「確か魔法を使う時に用いられる力、だったか?」
「概ねその通りです。
マナの状態は大きく3つに分けられます。
先ずは、大気中に漂っているマナ。
特に区別する言い方をしなければ、基本的にマナと言うとこれを指します。
次に、受肉し魔物となったマナ。
そして、大気中から生き物の体内に取り込まれ、蓄積されたマナ。
特に、体内に蓄積されたマナのことを魔力と言います。
魔法などは、この魔力を用いて行使します。
消費した魔力は瞑想で回復することができます。
後、余り効率的ではありませんが、食事や睡眠でも回復できます」
「はい、質問」
「はい、どうぞ。
何が分かりませんか?」
「魔法とか使った事無いのに魔力が最大値まで無いのはなんで?」
なんの事だろうか?
「その事でしたら心配要りませんよ、アオイ様。
話を聞く限りですと、皆さんの世界にはマナが無かった様なので、それが理由だと思われます。
器があってもそこに入れる物がなければ空っぽですから。
ただ、先ほども言った様に、食事や睡眠でマナを取り込むことが出来るので、ある程度溜まっているとは思います。
特に男性の方は昨日沢山食べてたので魔力量が多過ぎない限り、満タンになってると思いますよ?」
そういえばそんな事もあったな。後々必要になる事が無かったからすっかり忘れていた。
「満タンだな」
「同じく」
「俺もだ」
「俺はちょっと足りねーな」
「僕は満タンだよ〜」
どうやら満タンになってないのは、信司だけらしい。
「つまり、何か問題があって魔力が一杯になってない訳ではないのね?」
「はい。
むしろ満タンになってる方がおかしいぐらいなので、安心してください」
「そう、ありがとう」
さらっとディスられた気がする
「いえいえ。では、続けますね。
えっと、魔力の回復の話だったから……魔力の増やし方ですね。
魔力だけは他と違って、レベルアップ時に上昇します。
どれだけ上昇するかは個人差があります。
次は力です。
これが高いと相手により高いダメージを与えられたり、重い物を持てたりします。
続いて頑丈です。
これは相手から受けるダメージや生命力に影響します。
そして速さ。
これは移動速度や攻撃速度、動体視力などに関わります。
この3つは、筋トレや走り込みなどで上げられます。
次は器用です。
これは視力やスキルの精度、戦闘中の小手先の技術から料理や裁縫などの日常的な技術まで、とにかくいろんな事に関わります。
関わってる数がものすごく多いので、なんかこれやったら器用になりそうだなって事をしていれば大体の確率で上がります」
「なんか雑だな」
「器用なのにね」
「そこはまぁ、触れないでおいてあげましょう。
続けますね。
ステータス値の最後は魔操です。
これは魔力をいかに上手く操れるか、というのを表した物です。
魔力の操作が上手いと、魔法を使う時、魔力の消費を抑えたり、上位の魔法を安定して放ったりする事ができます。
難しければ、器用の魔法版と考えて下さい。これは魔法を使いまくってれば上がります。
ここまでは大丈夫ですか?
特にダイチ様。煙が出てますよ?」
「なんとか……
でもちょっと休ませてくれ」
「分かりました。
一回休憩にしましょう」
「大地!ついてこれたのか!」
「良く頑張ったな。偉いぞ」
「凄いわね、竪山君!」
「うん。凄い」
「お前ら、馬鹿にしてんだろ……」
「馬鹿になんてしてないさ。純粋に褒めてるぞ」
だって大地がついてこれるとは思って無かったし。
ギリギリでもついてこれただけ凄いだろ。
30分程の休憩を挟み、授業が再開した。
うん、たったあれだけの量に休憩時間が30分もあったのは驚かないからな。
いやだって大地だし。
「それでは続きから行きたいと思います。
スキルと魔法についてです。
これらはマナを用いて世界に干渉する技術の総称です。
言ってしまえば『世界に溢れてる不思議な力を使って不思議な凄い事を起こしてしまおう』と言う事ですね。
この2つはマナを用いて発動する、という共通点があります。
違いとしては、使うマナが体外のものであるか、体内のものであるかです。
先ずは体外のマナを使う方、これをスキルと言います。
魔力ではなく大気中に沢山あるマナを使うので、基本的にいくらでも繰り出せるのが特徴です。
中には所持しているだけで勝手にマナを使って、常時発動しているスキルもあります。
逆に、魔力を使う方を魔法と言います。
自分の中にあるものを使う為、威力や効果の高さの調整が可能で、汎用性もスキルに比べると高いのが特徴です。
これらは誰でも努力次第で修得可能なものと、条件を満たす事で修得可能なものがあります。
次は称号ですね。
何か条件を満たした時に付与されます。
中にはステータス値に影響したり、稀なのだとスキルを修得出来るものもあります」
「便利だね〜」
「多分皆さんも所持していますよ。
『異世界人』と言う称号があると思います。
それに『言語理解』のスキルを付与する効果があります。
こうやって普通に話が通じてるのはそのおかげなんですよ」
「英語のテスト満点取れんじゃん!」
「「おおっ!」」
それを聞いた大地が発した言葉に、佐藤と山本が歓喜の声を上げるが、
「そもそも英語のテストもう無くね?」
小さな希望は儚く散った。
「「「意味が無いっ‼︎」」」
世の中そんなに甘くない。
「えっと、進みますね?
それでは、恩恵について説明します。
恩恵は1人1つだけ授かる事の出来る加護の事です。
これは職業の名前を冠していて、その職業で必要なステータス値の上昇補正やスキル・魔法の修得補助などの効果が得られます。
これは好きなものを選ぶことが出来るので、これから皆さんに選んでいただきたいと思います」
「もしかして、それが恩恵の説明を最後にした理由?」
「あっ、はい。そうですよ。
それではやってみましょう。
皆さん、恩恵の所に触れて下さい」
ソフィの指示に従って恩恵の欄に触れると、目の前に新しいプレートが現れた。
・旅人
・見習い魔術士
・自警団
・見習い商人
「そこに表示されているものが皆さんの選べる恩恵です。
触れれば説明が現れるので、お好きなものを選んで下さい」
ソフィの指示を受けて、みんな自分の恩恵を選び始めた。
・旅人
冒険者系統初級恩恵。
力、頑丈、速さに上昇の微補正。
レベルの上昇で全属性の生活級魔法を修得可。
・見習い魔術士
魔術士系統初級恩恵。
魔力、器用、魔操に上昇の微補正。
レベルの上昇で全属性の初級魔法までの魔法を修得可。
・自警団
騎士系統初級恩恵。
力、頑丈に上昇の小補正。
戦闘時、敵味方を問わず1番最初に行われた攻撃から10秒間与えるダメージと受けるダメージが1/2になる。
レベルの上昇で火と水の生活級魔法を修得可。
・見習い商人
商人系統初級恩恵。
器用に上昇の微補正。
非戦闘系スキルと生活級魔法の修得効率上昇に補正。
一通り確認して、アイラがなぜ騎士ではいけないと言っていたのか理解する。
自警団の所に書かれた、おそらく騎士系統の特徴と思われる一定時間の与ダメと被ダメの減少。
守るのが目的なら強そうだが、攻めるとなると話は変わる。
こちらの受けるダメージが少なくても、相手にダメージを与えられなければ何の意味もない。
神経を無駄にすり減らすだけだ。
そして私達が受けた依頼は魔王の討伐。
つまり攻めることだ。
よって騎士系統である自警団は無し。
次に見習い商人だが、戦う必要があるのに非戦闘系のものを選ぶなんて無謀な事をする勇気はない。
よって却下。
となると旅人か見習い魔術士だが、後方支援というのはどうも合わない。
それに旅人という名称。
男子として物凄く惹かれる。
「よし、決めた。俺は旅人にする」
そう宣言すると、プレートは表記を変えて黄色くなった。
決定すると変更出来ません。
本当に『旅人』でよろしいですか?
はい いいえ
ああ、最終確認か。こういう所ゲームみたいだな。
そう思いながら「はい」に触れる。
すると目の前のプレートは細かく砕け散って、私を中心にして回り、空気に解けるようにして消えていった。
その光景を惚けるように見ていると、またプレートが現れた。
恩恵「旅人」を取得しました。
そのプレートは5秒程すると消えて、最初のプレートだけが残った。
オボロ モチヅキ (18)
レベル 1
恩恵 旅人 1
生命力 79/79
魔力 81/81
力 12
頑丈 7
速さ 10
器用 6
魔操 0
スキル
言語理解
魔法
称号
竪山大地捕獲作戦隊長 異世界人 勇者
見ると恩恵の所が旅人になっている。
「よし、終わったぞ。」
「分かりました。他の方が終わるまで待ってもらえますか?」
見回すとみんなも決定したようで周りをプレートのカケラが舞っていた。
この時の私は少し舞い上がっていたのかもしれない。
少し綺麗だと思っていた。
しかし、この光景を落ち着いて見てみよう。
場所。
あまりにも無骨過ぎる訓練場。
広さは千人が同時に模擬戦をしてもかなりの余裕がある程らしい。
状況。
現代日本で売られているアウトドアに向いた服を着ている7人の周りをファンタジーな光がクルクルと回っている。
時間。
授業が始まってから多分1時間も経っていない。
当然日は高く、何かが光っていてもかなり見づらい。
要約するとこうだ。
幻想的とは程遠い場所で、ファンタジーとは程遠い格好をした人達の周りを、いまいち幻想的になりきれてないキラキラがせっせと舞っている。
……初めて走馬灯で良かったと思った。
強くてニューゲーム的な感じだったら、このシュールな光景に笑いを堪えられた自信がない。
「終わりましたね。では、説明の続きを。
選ぶ際に確認があったと思いますが、恩恵は原則として、1度決定すると変える事は出来ません。ただ、恩恵にもレベルがあって、一定のレベルまで上がるとより上位の恩恵に変える『ランクアップ』が出来る様になります」
「出来る様に、って事は任意なんだ」
「はい。
下位の恩恵じゃ無いと手に入らないスキルなんかも結構あったりするので、自分が必要な所までレベルを上げるのが一般的です」
「そういうのって分かるもんなのか?」
「下位のものなら過去にその恩恵を選んだ方々の記録がありますので。
さすがに上位のものまで完全に分かりきってる訳じゃありませんけどね」
言い方からして、分かりきって無いだけでかなりの量が分かっているらしい。
「少し話を戻しますね。
恩恵の強化方法とも言えるランクアップですが、先ほど皆さんが恩恵を選んだ様に、いくつかある上位の恩恵から自分で選ぶことになるので、自分にあったものを選んで魔王討伐に役立ててください。
恩恵についてはこれぐらいです。
最後にプレートについてですが、消える様に念じれば消えます。
それと、開く際の言葉ですが、『オープン』は周りの人にも見える様にするための言葉なので『ステータス』だけで開きます。今回は説明しやすくするために可視化させてもらいましたけど、基本的に人がいる所では可視化させない様にしてください。
では、これでステータスについての説明を終わりにします。
城内の案内は20分後に行います。お手洗い等はそれまでに済ませておいてください」