プロローグ
あまりの眩しさと騒音で目が覚めた。
窓の外を見ると空を舞う何かと赤く染まった村が目に入った。
燃えていた。
森が、村が、家が、畑が、人が、全てが、その存在自体を否定されるかのごとく炎に包まれ崩れてく。
間違いない、竜だ。
魔王によって、龍を模して造られた魔物。
知性が低い代わりにとてつもなく狂暴な、厄災の象徴。
そして、何十年も昔に魔王の死亡によりマナが得られなくなり滅んだ種族。
何でいるかは知らないが、今は関係無い。
戦うしか無い。
隠居してから長いがせめて村人達の逃げる時間くらいは稼ぎたい。
そう、覚悟を決めて剣を取った。
甘かった。
攻撃が通る通らない以前の問題だ。
奴の元にたどり着くことすら出来ず、炎に焼かれ、その爪で切り裂かれ、巨大な尻尾に払われる。
当たり前だ。
もう何十年も剣を握っていないような爺がまともに戦えるはずがない。
少し考えれば分かっただろう。
いくら英雄と呼ばれたところで所詮は人間だ。
鍛錬をしなければ衰える。
今の私にはこの竜が魔王よりも恐ろしい。
もう、動けない。
こいつが遊んでくれたおかげでだいぶ時間は稼げたがこれ以上は無理だ。
こいつも私が限界なのが分かっているのだろう。
もう逃げ回る獲物を虐めるような攻撃はして来ず、その口を大きく開いた。
ああ、かつて、これほどまでに死を感じたことはあっただろうか。
薄れゆく意識で、これが死だと悟った。
生きとし生けるものの避けられない定めだと、今まで私があらゆる魔の者達に与えて来たものなんだと。
懐かしい声が聞こえる。
もう二度と聴くことの叶わぬと思っていた声だ。
懐かしい景色が見える。
もう二度と見ることの叶わぬと思っていた景色だ。
そうか。
これが走馬灯というものか。
走馬灯は過去の経験から生き延びる術を見つける為にあると聞いたことがある。
だか、もう助からない。
生き延びる術などあるはずがない。
たとえ、この竜が倒されても私の体はもう限界なのだ。
ふと、思った。
助からないと理解しているなら、なぜこんなものを見るのか、と。
どうせ無駄なことなら要らないだろう。
そうか。
これは神の与えてくれた褒美なのだ。
死ぬ前の、己を振り返るチャンスなのだ。
罪を忘れた私への、審判の前の罪を思い出させる罰なのだ。
ならば、この褒美をありがたく頂戴しよう。チャンスを生かそう。
甘んじて罰を受け入れよう。
自分でも忘れかけていた過去へ、意識は遡っていく。