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元勇者の異世界職業体験記~二周目の世界を知り尽くしたい~  作者: さなぎ
第一章 職業体験①:幼女貴族の護衛 
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『第六話 個性は口調に出る』

 屋内には老若男女、種族もサラダボウルと化していた。一階には五つのカウンターと、五人の受付嬢。その誰もが、赤を基調としたパンツスーツのようなものを着ている。


 カウンターの横には三枚の掲示板。そこには人集りができていて、何枚もの紙が貼り付けられている。遠目で見る限り、依頼書というもののようだ。一人が適当なものを選んで紙を取り、カウンターで職員が対応をする。


「まるでゲームの中みたいだな、懐かしい」


 青年の頭の中には、某狩りゲーが思い浮かんでいた。結局、あのゲームの続編はいくつまで出たのだろう、などとくだらないことを考えていると、目の前をずっと無言で歩いていた少女は二階へと繋がる階段に向かって歩いていく。


 それに従って階段を登り、やがて着いたのは幾つもの部屋が並んだ廊下だ。真ん中は一階から吹き抜けになっていて、ちょうど真下にある机でたむろっている冒険者が何人も見えた。


 資料室、休憩室、来賓室、幾つものネームプレートが下げられた部屋を通り過ぎ、やがて来賓室の一つの前で少女は立ち止まり、三回ほどノックをした。


「し、失礼します! 冒険者様をお連れしました!」


「そんな大声で言わなくても聞こえてるのよ。入ってくるといいのよ」


 す、すみません、と謝りながらゆっくりと扉を開け、どうぞ、と中に入るように促される。青年はそのまま部屋の中へと入り、それに続いて少女も入ってくる。


「よく来たのよ。まぁ、座るといいのよ」


「あー、どうも」


 青年は声の主と対面になるように置かれている一組のソファに腰掛け、少女は扉の近くに立つ形となる。そこで改めて青年は、目の前の相手を確認した。


「アンタが依頼主でいいのか?」


「ええ、そうなのよ」


 そう言いながら、用意されていたカップに口を付け、優雅に微笑む。その姿をみて、青年はふむ、と少しだけ考えてから口を開く。


「ちなみに歳は?」


「レディに歳を尋ねるのは失礼なのよ?」


「いや、うん、スマン」


「別に怒ってないのよ」


 ふふん、とでも擬音が聞こえそうに胸を張っている女性、というか少女。青年の目から見て、明らかに年下、それこそ十五歳ほどに見える。


 この世界では頻繁に見かける金髪を結い上げ、水色のドレスを着る少女は、まるで西洋人形のように思えた。眼がパチリとしている、我の強そうな少女だ。


「さて、まずはアナタの名前から教えて欲しいのよ?」


「俺の名前は、イオリ。ヤナギ・イオリだ」


「変わった名前なのよ。……名乗られたからには、返すのが礼儀なのよ」


 キメ顔でそう言って、少女は立ち上がり腕を組む。そして一呼吸入れて、


「ワタシの名前は、アリーシャ・カスピニャンなのよ。親しい者には、アリーと呼ばせているのよ。アナタも気軽にそう呼ぶといいのよ」


 別に親しくなったわけではないんだけどなぁ、と少し首を傾げながら、一貫して語尾を崩さない少女を尊敬の眼で青年――イオリは見上げる。それに気を良くしたのか、更に胸を張り、


「さぁ、アナタのランクを教えてちょうだいなのよ。腕利きを募集したわけだから、それ相応のランクのはずなのよ」


「ランク……? ランク?」


 はてさて、何を聞かれているのか分からないイオリは、助けを求めるように後ろに控えている少女を見遣った。ことの成り行きをヒッソリを見守っていた少女をは、いきなり向いた視線にビクリとしながら、たどたどしく説明する。


「ら、ランクっていうのはですね、冒険者様の貢献度を、こう、ランク化したもの? ですはい!」


 まぁ、どれだけ仕事をしたのかで、ランクというものが分けられ、じゃあアナタはどれだけ出来る人なのよ? とおおよそ聞かれていることをイオリは把握したものの、自分のランクというものが一体いくつなのか把握してはいない。


「……魔王討伐したら、ランクっていくつになるんだ」


「なにか言ったのよ?」


「いやあ、別に……」


 その事実を言ってしまうと、速攻で自分が勇者であったとバレてしまう。それはイオリとしては本意ではない。彼としては、勇者でない自分として世界を回りたい。その願いが出鼻で挫かれてしまっては、元も子もない。


「えーっと、言いづらいんだけど、ランクってものはないんだ。期待に添えなくてゴメンな」


 そう、あっけらかんと言うイオリに、後ろの少女はオロオロとし、目の前のアリーは、


「チェンジ! チェンジなのよ!」


 さっきまでの友好的な態度はどこへやら。猛烈に捲し立てて、シッシと追い払うような姿を見せた。


 どこで間違えたんだろうか、そう回想しながら、まぁ、成り行きに任せよう、とイオリはとりあえず笑っておいた。


 その、傍からすれば馬鹿にしているようにも見える笑顔が、アリーの追い出しに拍車を掛けたのは、言うまでもないことだろう。

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