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元勇者の異世界職業体験記~二周目の世界を知り尽くしたい~  作者: さなぎ
第一章 職業体験①:幼女貴族の護衛 
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『第四話 煽り耐性0』

 青年がギルドへ近づいていくと、人集りからの野次が聞こえてくる。野次馬は円形状に二人の男を囲っていた。


 一人の男は革鎧を着込んだ、身長二メートルの大男。皺の刻まれた顔に、無精髭が目を引く顔をしている。背中には使い込まれた大斧を背負っていて、荒事に慣れているように見える。


 もう一人は、胸と腰に鉄鎧をした、スラリとした男だ。ブロンドの髪を横に流し、きざったらしい印象を受ける。腰にはレイピアを差し、どことなく高貴な身分の男のようだ。


 対照的な二人が向い合い、火花を散らしている。それを眺めて、青年は近くの男に質問した。


「これは一体なんの催しだ?」


 聞かれた猿顔の男は、肩をすくめて答える。


「あぁ、何でも受注したい依頼が被っちまったみたいでな。なら、一番強い奴が受けりゃあいいって話になったみたいだ。そんで、ついさっき一人敗北したとこだ」


 猿のような男は、ついさっき青年に向かって飛んできた男を指差す。地面で転がっていた男は、気絶しているようで未だに地面に伏している。


「こんなのは日常茶飯事なのか?」


「いんや、こんなことは稀さ。相当条件の良い仕事でもない限り、こんな面倒事起こそうとしねぇよ」


「ふぅん」


 青年は男の言った言葉に興味を持って、更に質問する。


「じゃあ、その仕事の条件ってなんだったんだ?」


「……たしか、護衛依頼だな。期間は一月で、給料は日払い。それなりの額が出るって話だ。しかも、貴族サマ直々の依頼だからな、信用できる」


「へぇ……護衛ねぇ。その貴族の評判はどうなんだ? 護衛を頼むくらいだから、結構悪かったりするのか?」


「別に、これといった話は聞いたことがないな。なんというか、至って普通の貴族サマって感じだな」


「なるほどね……」


 青年がうんうんと考えていると、もう一人、別の男が話しかけてくる。両手にザルとお金を持った男だ。男はいやらしい笑みを浮かべている。


「お兄さん、アンタはどっちに賭けるんだい?」


「どっちに賭ける……? あぁ、賭けね」


「あぁ、そうだよ。豪腕のベグアか、剣舞のカルラか、どっちに賭けるって聞いてんだ。今んとこベグアの方が人気だが、カルラも実力では劣ってねぇ。さぁ、どっちにする?」


「んじゃ、謎の闖入者が勝つに全賭けで」


 青年は正面の下衆い笑みを浮かべる男を押しのけて、野次馬の輪の中心へと歩いて行った。睨み合いをしていた二人、成り行きを見守っていた野次馬の視線が一挙に青年へと到来する。そんな中でも、青年は不敵な笑みを浮かべる。そして、警戒心むき出しの二人に、久し振りに会った友人に話しかけるかのように言った。


「やぁやぁ、お二人さん。なんでも割のいい仕事があるって聞いたんだけど、俺もやりたいんだわ。譲ってくれないか?」


 返答は斧の柄と、剣先。寸止めされた得物からの風圧で前髪が揺れる。


「ボウズ、出しゃばってくんじゃねぇ。テメェも飛んで行きたくなけりゃ、大人しく観戦してやがれ」


「この男の言うとおりさ。私は弱い者いじめは嫌いでね。それに、この仕事は君には荷が重い。自分に見合った仕事を選ぶといいよ」


「そうだな、あんたらが譲ってくれたのなら、俺も大人しくしといてやるさ」


 目の前から消えた剣先が身体を突き、大斧が頭上から振り下ろされる。が、剣先は空を切り、大斧は石畳を打つ。青年は見透かしていたかのように後ろへと飛び退いて、二人の攻撃をやり過ごす。


「ボウズに現実を教えてやるってのも、大人の務めか」


「趣味ではないが、しょうがないか」


 大男――ベグアは肩に斧を担ぎ、優男――カルラは細剣の先を向ける。


「二人がかりで来てもいいんだぜ」


 くいくい、と煽るかのように手招きをして、構えを取る青年。青年――もとい勇者は剣を抜こうとはせずに、素手のままだ。それが尚の事二人を舐めているように見え、ベグアは青筋を立て、カルラは眉間にしわを寄せる。だが、それでも迂闊に飛び込むような真似はせず、ジッと様子をうかがう。


「なに、こんなガキにビビってんの?」


 が、そんな我慢も青年の一言で切れ、二人同時に地面を蹴った。

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