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元勇者の異世界職業体験記~二周目の世界を知り尽くしたい~  作者: さなぎ
第一章 職業体験①:幼女貴族の護衛 
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『三十七話 傷跡』

 全身が痛かった。痛くない所を探すほうが困難で、気力だけでなんとか立てていた。


 周りには身動ぎしながら倒れている仲間たちと、離れた所で四肢を投げ出している満身創痍の魔王。


 激闘の後には瓦礫の山が築かれ、もはやどこで戦っていたのか分からない有様だ。


 そんな破壊の跡で、二人は短いやり取りをする。


「……見事だ、勇者よ」


「そりゃどうも」


 敵からの賞賛を素直に受け取って、杖代わりにしていた聖剣を構える。気付いてみれば、あっと言う間だった。


 魔王の猛攻を防いでは反撃し、一人一人と仲間が倒れていく中で、自分と魔王だけが戦い続けた。戦い続けて、いつの間にか終わっていた。


 長いこと戦っていた気もするし、そうじゃない気もする。極限の集中状態が続いたせいか、時間感覚が曖昧だ。


 だが、そんなことは終わった後にはどうだって良かった。あとは魔王にとどめを刺して、帰るだけだ。それで全てが終わる。


「……なぁ、勇者よ」


「なんだ?」


 限界を超えた身体を引きずるように、魔王のもとに近づいていく。


「戦うのは、楽しいか?」


「…………」


 一瞬止まりかけた足を、気付かれない内に動かす。一歩一歩と魔王の命を奪おうと進む。


「楽しくないのだろう……図星か?」


「……関係ないだろ、そんなこと」


 おざなりに答えて、ようやく魔王の前に着いた。魔王の目には悲観の色はなく、ただ勇者に対する愉悦のようなものだけがあった。


「お主、名は何という」


「答える義理がない」


「我を倒したもの名だ。胸に刻んでから死なせてくれ」


 別に教えた所で支障はないだろうと高を括った勇者は、聖剣を掲げながら答えた。


「イオリ、ヤナギ・イオリだ」


「そうか、そうか、感謝しよう、イオリよ」


 魔王は散り際だというのに、勝ち誇ったかのように笑う。その笑いがイオリには不気味に映り、


「じゃあ、死ね、魔王」


「じゃあ、死ね、勇者」


 魔王の身体から光が漏れ、胸に聖剣が突き刺さる。魔を祓う聖剣に胸を貫かれ、魔王は傷口から止めどなく血を流す。


 胸に突き立てた聖剣を抜き、勇者は魔王の亡骸をあとにする。立ち去ろうとする勇者の後ろを、追いかけるように魔王の血液が流れる。


 流れた血液は、よろめく勇者の背後に追いつき、


「――っ!」


 『魔を倒す勇者』を殺すための傷を刻みこんだ。それは魔王から、勇者への『呪い』だった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 イオリはアリーを自分の背後に回らせ、三体の魔物達からの攻撃を受け流す。受けるのではなく、他の方向に力を逃してやり、体勢を崩してみせる。


「魔物は専門外なんだが、別料金払ってくれたりする?」


「……考えておくのよ」


 軽口を交わし合う雇い主とその従者に、デニアンは苛立ちを募らせた声で叫ぶ。


「早く、早くその男を殺せ!」


 体勢を立て直した魔物たちが、イオリに飛びかかり、いとも簡単に受け流される。魔物たちが遊ばれているかのように見えて、なおのことデニアンの苛立ちが高まっていく。


「なぁ、諦めろって。コイツらじゃ俺には勝てないって」


「うるさいうるさいうるさい……」


 余裕なイオリの声を遮断して、デニアンは必死に思考を巡らせる。この場をどう切り抜けるのか、どうやって目の前の障害を排除しようか。考えて、考えて、ようやく思いたる。


「集まれ、魔物ども! コイツを殺れ!」


 その声に答えるように、森から、執務室に繋がる通路から、魔物が出てきてはイオリに襲いかかる。


「……マジかよ」


 イオリから余裕が消え、ここで初めて真剣味を帯びた顔になる。アリーの作戦のためには、もう少し時間を稼がねばならないが、流石にしんどい。


「なぁ、君。ボクから君の弱点を教えてあげようか?」


「そりゃ! なにか! 聞きたい、な!」


 魔物の猛攻を凌ぎながらも、イオリはデニアンの声に律儀に反応する。その様子に、ようやくデニアンは愉快そうに笑い、


「君、魔物に攻撃できないんだろう」


 その声に、イオリは苛立ち混じりに、


「大正解だよ、クソ野郎!」

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