『三十五話 犯人は犯行現場に戻るってやつ』
斬れども斬れども、終りが見えなかった。ローレンは切れ味が落ちていく愛剣を捨て、予備で持ってきていた剣を手にする。
いくら休息を取ったからと言っても疲労は溜まるし、現状に対する焦りも出てくる。状況に改善の余地が見えない。物量が違う。
こっちはたったの三人。相手は数が底知れない魔物たち。エントランスで戦った魔物よりも数は多い、多すぎる。
濁流のように攻めてくる魔物たちを捌いて捌いて捌いて、捌ききれずに腕に裂傷が走る。ローレンの白を基調とした燕尾服に、自分のか魔物のか分からない血がつく。
「……一旦、引きませんかね?」
「同意したいが、下がれるか……?」
「ちょっと厳しいですかね……」
ローレンは提案したものの、禿頭の護衛の言う通りだった。前には大量の魔物。そして――、
「もう、うざったいですね!」
――横槍を入れるような、窓の外から伸びてくる蔦を斬り落とし、再び前方に向き合う。ここに来て、屋敷を覆っていた悪趣味な蔦が、合間合間に妨害を仕掛けてきた。強力ではないものの、厄介なことこの上なかった。
何か、何か状況に変化が欲しかった。
「ジリ貧で、徐々に押されつつある現状。何か状況を変える一手がほしい、って顔してるぜ」
「……、いや、猫の手も借りたいですけど」
後ろから声を掛けられ、その声だけでローレンは誰が来たのかが分かった。
「え、じゃあ帰ってもいい?」
自称他称『役立たず』がやって来た。肩に見覚えのある人物を担いでの登場だ。彼の名前は聞く機会がなかったので知らなかったが、道中で魔物と戦えないというのをローレンは知っていた。正直に言えば、邪魔でしかなかった。
猛然と駆けてきた魔物を斬りつけ、刀身の血を払う。休んでいる暇もなければ、彼に構っている暇もなかった。
「なぁ、あとどれくらい保ちそう?」
「半刻は保つんじゃないですかね!」
自分の内心を知ってか知らずか話しかけてくるイオリに、ローレンはおざなりに返事をする。返事をしながらも、あと半刻も戦うなど、ゾッとした。
「そっか、じゃあ頑張ってくれ」
イオリはそう言うと、ローレンたちの前に躍り出る。腰には剣、肩には人を乗せ、イオリは前進していく。
魔物の攻撃を受け止めることなく、全て躱しながらどんどん前へ。
「俺らは、ちょっくら犯人倒してくるから。目星は、ついてるしな」
そのまま暢気な声音で続ける。
「犯人は、現場に戻るって言うしな」




