『三十二話 手荒い歓迎』
「本当に何なんですかあなたは!?」
ローレンの怒声がエントランスに響き、魔物の断末にかき消される。赤い絨毯は魔物の血で汚れ、元の色を失っていく。
血飛沫が舞う戦いの場で、ローレンは華麗な剣戟を披露しながら、一人で突貫していったイオリを庇うかのように戦っていた。
「いやぁ、イケる! と思ったんだけどなぁ」
「にしては、ダメダメですけどね!」
地面を這うように迫ってきた森狼を斬り払い、天井から急襲してくる木猿を斬り伏せる。
護衛たちの中でも際立った腕を持つローレンが前衛を受け持ち、ベルトインを始めとした後継者たちや使用人たちの前に他の護衛が立ち塞がり、倒し漏らした魔物を凌いでいる状態だ。
イオリがたてた轟音を聞きつけた魔物たちが、次々とエントランスに雪崩れ込んでくる。幸いにして、屋敷の外から来る魔物は居らず、ここを凌ぎきれば何とかなるように思われた。
「ということで、ここは任せる」
「は?」
一瞬の出来事だった。誰よりも速く戦いの場を駆け抜け、魔物の群れをも躱しながらイオリは真っ直ぐに突き進んでいく。誰にも止める時間を与えずに、彼は二階へと続く階段を駆け上がって行く。
二階の魔物が密集しているところをスルーして、さらに上の階へと。
三階に上がると魔物の姿は見えず、薄暗い廊下が静かに続いていた。イオリは面倒を起こさないため、足跡を立てないように気を遣いながら、自分に割り当てられた部屋の前に辿り着く。
「ん?」
ドアノブに触れようした指先が、微かに痺れた。昔の仲間の魔術師が使っていた結界とよく似た感触を指先で感じ取り、イオリはそれを無理矢理に破ってドアノブを掴んで開けた。
朝見たままの部屋と、置きっぱなしにしていた荷物がそのままにされていて、ベッドの掛け布団だけが不自然に膨れていた。
イオリは躊躇することなくそれを捲った。
「そこ、俺のベッドなんだけど」
「分かってるのよ……!!」
白と黒の給仕服を着たアリーが、ベッドに蹲ったままイオリを睨めつけていた。




