『三十話 勇者(元)は働かない』
「いやあ、楽なもんだ」
「いやいやいやいや、楽じゃないですよ!」
足元に伸びてきた蔦を切り刻みながら、ローレンが戦おうとしないイオリに叫ぶ。屋敷から赤い光が溢れだしたかと思うと、それまで襲って来なかった魔物達が急襲。護衛達が各々武器を持って応戦していた。
「手伝ってくださいよ!」
「あー、俺、魔物はダメなんだよ」
「どんな! 言い訳! ですか!」
三連撃で空から急降下してきた鳥型の魔物を斬り落とし、ローレンは汗を拭う。他の護衛たちも、とりあえず凌ぎ切り、一呼吸置いていた。
「ふぅ……一体、いつになったら屋敷に着くのでしょうね」
ぼやきながらローレンが空を見上げると、太陽は傾き始め、山際に沈んでいこうとしていた。旧鉱山から歩き始めてしばらく経つが、疲労が溜まっていくばかりで、ちっとも進んでいる気にならない。同じような風景が続く森の中を、屋敷の方へと一直線に進んでいるはずだが、なかなか辿り着かないことに、少しばかり歯痒かった。
「このまま進んでりゃ、そのうち着くだろうさ。方向は間違っていないんだからな」
「確かにそうですけど……」
一人、護衛の中で戦闘に参加していないイオリは、特に焦る様子もなく、泰然としたまま付いてきている。彼の言い分としては、魔物は専門外だとか、護衛対象がいないだとか。とりあえず、今のところ目立った活躍をしていない。
「いつになったら働いてくれるんですか?」
ローレンからのちょっぴり棘のある質問に、イオリはニヤニヤと笑いながら、
「屋敷に着いたら、かね」
「本当、ですね?」
「ホントホント、ホントだよ―」
「一気に胡散臭くなったんですけど……」
「おい! 早く行くぞ!」
鼻息荒く先頭を進むベルトインが言い、またゾロゾロと歩いて行く。
何度かの魔物からの襲撃を退け、屋敷に着いた頃には日が暮れようとしていた。




