『二十八話 変貌』
デニアンは、幼少期のほとんどを独りで過ごした。別に、両親に不幸があったからなど寵愛を受けなかったなど、決してそんな理由ではない。ただ、彼は独りでいることが好きだったのだ。
それに、彼の家柄上、独りでいても時間を持て余すことはなかった。魔石を発見した一族、その末席に加わっていた彼の家には、それに関連した書物が数多く置かれていた。
彼はそれを読みながら一日の大半を過ごし、晴れだろうが、雨だろうが、吹雪だろうが、関係なく家にいた。
そんな少年が成長していくにつれて変わっていく、ことはなく本の虫だった彼は魔石の研究へと更にのめり込んでいった。その頭脳を認められ、カスピニャン家の研究室に入る頃には、彼はほとんどの書物を読みきり、新しい知識に飢えていた。
自宅の本棚をどれだけ読んでも、研究所の書物も読みきり。彼はさらなる知識を求め、一つの噂を耳にする事になる。
曰く、カスピニャン家、その本家には表に出さない、出せないような書物が眠っているという。
その噂を聞いた彼は、本家に行くきっかけを求めていた。そして、絶好の機会が巡り、彼は万全の準備の元、本邸へと向かったのだ。
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出口に至るまでは、そう時間を要さなかった。八人は隊列を組み、ゾロゾロと行動から出てくる。そして、一人一人、目の前の光景を見ていった。
「あれは……蔓、か?」
「はぁ、そうかと……」
セバスとベルトインが短くやり取りをし、屋敷があるであろう所を見た。そこには、周りの森と同色となっている屋敷が。
「動いてるのは、気のせいかしら」
「あぁ、私にもそう見えるな」
蔦のような触手は蠢きながら、屋敷の周囲を覆っている。
「まるで、魔物の城のようですね。悪趣味です」
「いや、それ魔王に失礼だから」
ローレンとイオリが、ふざけたやり取りをしながら遠くの屋敷を見据える。すっかり変貌してしまった屋敷に向けて、彼らは歩き出す。




