『二十七話 足りないのは誰?』
小洒落た応接室から、ただの洞窟に場所を移して出会った、イオリ達『八人』。彼らは行方知れずだったイオリに再会の言葉を述べるようなことをせず、ただただ目の前の光景に圧倒されていた。
「……昔の採掘場ですかな」
ボソリと呟いたのは、長年カスピニャン家に仕えてきたセバスだ。周囲の様子から心当たりを言うと、視線がセバスの方に集まる。
自然と続きを促されているような気がして、セバスは説明口調で語る。
「まだカスピニャン家が、まだ一介の商家だった頃から使われていた鉱山、それがここです。今では、魔石を掘り尽くしてしまったので閉鎖されていたのですが……」
鉱山がいつ閉鎖されたかは知らないが、一通りの物品を見たイオリは、そこまで長い間放置されていたわけではないことを察していた。それは、特別重要ではなく、なぜこの部屋があるのか、彼にはそれが疑問でしょうがなかった。
それと、もう一つ。
「俺の依頼主さんは、どこに?」
イオリは揃った面々を見ながら、ひぃ、ふぅ、みぃと数えていく。
「俺を含めて、『九人』。アリーだけいないのは、どうしてだ」
「おいおい、は?」
その言葉に、真っ先に反応したのはベルトイン。護衛の三人と、候補者が三人、セバスとイオリ、その『八人』しかいないはずなのに、一人増えている。そのおかしさに気づいた護衛の三人は、すぐに辺りを警戒し、声を上げた。
「あそこだ!」
スキンヘッドの男が指差した方にいたのは、洞窟の奥に走り去っていく一人の男。
「追え!」
アミラがすぐに指示を飛ばし、護衛の三人が追いかけるが、男のほうが僅かながらに速かった。先に部屋と洞窟が繋がっている入り口にたどり着き、ガタンッという大きな音とともに扉が閉ざされる。
「こっちからは開けないのか!?」
焦ったように言うベルトインに、ローレンは静かに首を振り、
「こちら側からは、開けれない仕組みになっているようです」
そう言い、扉の一部分を指差す。そこには付いているはずのドアノブがなかった。
「あの男、間違いなくデニアンだ! クソッ、どうやってここまで来やがった!!」
ここにいないはずの男の名を叫び、地面の小石を蹴る。地面をはねた石は、とんとんとん、飛んで扉に当たり、固く閉ざされた扉はうんともすんとも言わなかった。
力任せに開こうとしていた護衛二人も、やがて無駄であることを察して、指示を待つように依頼主の方を向いた。
「他に出入り口はないのかしら? もともと使われていた通路とか」
ハンナが落ち着いた様子で、セバスに問いかけ、
「ええ。ありますとも」
「案内をお願い」
セバスは、こちらです、と言ってから先導する。ゾロゾロと着いて行く面子の中で、一人だけ腑に落ちない顔をイオリはしていた。
「で、アリーはどこなんだよ?」
デニアンがここに来て彼らを閉じ込めた事はイオリにとってはどうだってよくて、自分の依頼主の行方のほうが気にかかってしょうがなかった。
他の候補者達が口を噤む中、ローレンがイオリの横へ行き、静かに今日の朝のことを話始めた。その話を聞き、イオリが抱いた感想は、
「なるほど、そういうことか」
というものだった。




