『二十六話 集合』
屋敷に微かな揺れと音が走ったのは、より昼に近づいた頃だった。
デニアンが追い出された部屋には暇が充満しており、この変化を歓迎するかのように三人とも椅子から立ち上がった。
「どこかしらね」
楽しげに口を開いたのはハンナだ。
全く動けなかった現状に一番の不満を抱いていたのは彼女で、動き出す好機がやって来たことに笑みを深くする。
「……さぁ、どこだろうな」
相槌を打ちながらも、乗り気じゃない顔を見せるのはアミラだ。
アリーの死、デニアンの退場、急速に動き出した事態に一番懐疑しているの彼女は、このまま何もないままであってほしいと願う。
「で、どうするんだ」
ハンナに次の言葉を促したのはベルトインだ。
彼はこのまま何も起こらないことよりも、すぐにゴタゴタが、自分が一番いいカタチで終わってくれることを望んでいた。
三人の思惑が絡みあい、それぞれの出方を伺う様相の場を、セバスが仕切った。
「私と、護衛の方々で様子を見てきましょう。それで如何ですかな?」
彼は自分が仕える家の血縁者を見渡し、不満がないかを確認する。彼らは自分の護衛に目配せをし、それを見た護衛らは同意を示すように一度頷く。
「では、参りましょうか」
セバスが先導する形で応接室から出て行き、その後ろを護衛の男たちが着いて行く。
その中の一人、優男のローレンは姿の見えないイオリを内心で心配しながらも、迷いなく歩いて行くセバスに声を掛けた。
「どこが発生源か、お分かりなんですか?」
「ええ、大方予想はついております」
護衛にも丁寧に言葉を返し、一定のスピードで歩いて行き、やがて階段を上がっていった。
「さっきの振動音は上の方からしてましたので、二階か三階、虱潰しに探せば当たるでしょう」
「なるほど」
セバスはそう言いながらも闇雲に一部屋一部屋を確認するわけでもなく、ある一室の前で足を止めた。
「しばし、ここでお待ちを」
扉が開けっ放しになっている部屋にセバスが入っていき、護衛の三人はおとなしく外で待つ。『執務室』の中からは埃の匂いと、微かな土の匂いが漂ってくる。
そう間を置かずにセバスは部屋から出てきて、
「誰か、応接室の皆様を呼んできてくれはしませんか?」
禿頭の男、スヴェンがすぐに動き、応接室の三人を引き連れて戻ってきた。
「何かあったのね?」
好奇心を隠さずに聞いてくるハンナに、セバスは大仰に頷き、
「見た方が、はやいかと」
その返答に、後継者の三人は執務室に入り、それに護衛たちも続き、目の前の光景に一瞬言葉を失った。
「……どうなっているんだ、これは?」
皆の言葉を代弁するかのようにアミラが呟き、ちぐはぐな光景を観察する。
建物の二階の部屋、そこに洞窟の入口が広がっている。
普通に考えて、繋がっていないはずのものが、こうして繋がっていることにどう反応すればいいか誰も分からなかった。
洞窟を照らしている魔石は、入ることを促すように明滅する。
「……私が先に行くわ」
横に護衛の男を立たせるハンナが先に足を踏み入れ、他の面子が後ろに続く。それなりに整えられた道をずっと歩き、彼らは光り輝く部屋にたどり着いた。
「……なに、ここは?」
目の前の光景に目を奪われながらも呟いた言葉は、洞窟に反響してよく響いた。
「さぁな、俺にも分からん」
そして、それは相手からの返答もよく響かせ、彼らの耳にまで届く。
朝から行方知らずのアリーの護衛、イオリは不躾な訪問者たちに言葉を返した。




