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元勇者の異世界職業体験記~二周目の世界を知り尽くしたい~  作者: さなぎ
第一章 職業体験①:幼女貴族の護衛 
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『二十五話 洞窟を抜けるとそこは』

 『魔石』が埋め込まれた洞窟は、仄かに明るかった。イオリに昔、家族で行った鍾乳洞を思いださせるような通路を、足元に不自由することなく、彼は奥へと歩いて行く。


 通路はときおり曲がったりするくらいで、分かれ道などはなかった。迷うことなく足を進め、彼は広い空間に出た。


 広い空間の全体に物が置かれているわけではなく、部屋の真ん中に道具が集められているからだろう。広い割に、こじんまりとした印象を受ける空間だった。


 真ん中の方に寄せられた家具は、どれもがありふれた物で、わざわざ隠すほどのものかとイオリは遠目で印象を受けた。


 部屋の端、通ってきた唯一の入り口から、彼は家具類に近づく。何の加工もされていない地面を歩いて行き、机の上に置かれていたものを見た。


 机の上には古ぼけた羊皮紙と、年季の入った羽ペン、ほとんど空のインク壺に、机の上に飛び散ったインク。その中でイオリの目を特に惹いたのは、羊皮紙に書かれた図形だった。


 机に四隅を固定されている羊皮紙にはビッシリと、曲線と直線が群がっていて、幾何学的な模様を作り出していた。


 イオリには何の図形か分からなかった。が、右上端に小さく書かれた文字を読んで、ようやくこれが何か知る。


 『魔石022』と書かれた癖のある文字が、羊皮紙に滲んでいた。


「魔石の開発部屋、みたいなもんか?」


 簡素な部屋、と言うよりは洞窟の用途への推測を口にし、イオリは物色を始める。机の引き出しを開け、足元に何か転がっていないかを目を凝らして探す。


 机の横に置いてある棚には、何枚もの羊皮紙が丸められた状態で入れられている。一枚一枚を広げてみていくのも手間だと感じたイオリは、その中でも気になったものだけを開けて眺める。が、


「……全く分かんねぇ」


 魔石に対する知識を持ち合わせていないイオリには、ただの線にしか見えず、最初の何枚かだけ見ると元の通りに仕舞った。


 調べ尽くしたイオリは、長らく誰にも使われていなかった椅子に腰を落ち着け、どこか気になる場所はないかと、洞窟内を見渡す。


 魔石の光源で仄かに見ることの出来る洞窟内には、所々に魔石ではない光があり、ほぅと見るものに息をつかせるような美しさがあった。


 イオリも例に漏れず、ゆったりとした気持ちで景色を楽しみ、


「……なに、ここは?」


 訪問者の声に対して不満気な視線を向けるのだった。

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