『二十五話 洞窟を抜けるとそこは』
『魔石』が埋め込まれた洞窟は、仄かに明るかった。イオリに昔、家族で行った鍾乳洞を思いださせるような通路を、足元に不自由することなく、彼は奥へと歩いて行く。
通路はときおり曲がったりするくらいで、分かれ道などはなかった。迷うことなく足を進め、彼は広い空間に出た。
広い空間の全体に物が置かれているわけではなく、部屋の真ん中に道具が集められているからだろう。広い割に、こじんまりとした印象を受ける空間だった。
真ん中の方に寄せられた家具は、どれもがありふれた物で、わざわざ隠すほどのものかとイオリは遠目で印象を受けた。
部屋の端、通ってきた唯一の入り口から、彼は家具類に近づく。何の加工もされていない地面を歩いて行き、机の上に置かれていたものを見た。
机の上には古ぼけた羊皮紙と、年季の入った羽ペン、ほとんど空のインク壺に、机の上に飛び散ったインク。その中でイオリの目を特に惹いたのは、羊皮紙に書かれた図形だった。
机に四隅を固定されている羊皮紙にはビッシリと、曲線と直線が群がっていて、幾何学的な模様を作り出していた。
イオリには何の図形か分からなかった。が、右上端に小さく書かれた文字を読んで、ようやくこれが何か知る。
『魔石022』と書かれた癖のある文字が、羊皮紙に滲んでいた。
「魔石の開発部屋、みたいなもんか?」
簡素な部屋、と言うよりは洞窟の用途への推測を口にし、イオリは物色を始める。机の引き出しを開け、足元に何か転がっていないかを目を凝らして探す。
机の横に置いてある棚には、何枚もの羊皮紙が丸められた状態で入れられている。一枚一枚を広げてみていくのも手間だと感じたイオリは、その中でも気になったものだけを開けて眺める。が、
「……全く分かんねぇ」
魔石に対する知識を持ち合わせていないイオリには、ただの線にしか見えず、最初の何枚かだけ見ると元の通りに仕舞った。
調べ尽くしたイオリは、長らく誰にも使われていなかった椅子に腰を落ち着け、どこか気になる場所はないかと、洞窟内を見渡す。
魔石の光源で仄かに見ることの出来る洞窟内には、所々に魔石ではない光があり、ほぅと見るものに息をつかせるような美しさがあった。
イオリも例に漏れず、ゆったりとした気持ちで景色を楽しみ、
「……なに、ここは?」
訪問者の声に対して不満気な視線を向けるのだった。




