『二十二話 何も知らない男』
朝と言うには少し遅い、昼と言うにはまだ早い、そんな中歩半端な時間に目を覚ましたイオリ、彼は起きてから直ぐに行動を開始した。
「なんかやっぱ気になんだよなぁ」
思い出されるのは昨日のやり取り。アリーは怪しいところはないのか、という質問に対して、そんな部屋はなかったと答えた。
この問答は、おかしい。
いつ、どうして、アリーは部屋を洗いざらい調べたのか。肝心なそれを聞き忘れていた。
「ま、聞いたところで答えてくれるかは怪しい、か……」
必要なことには答えるが、真意は言わない。例えば、応接間での一幕など、結局何がしたかったのか、イオリは教えてもらっていない。その後の反応も、イオリからすれば不可解にしか見えなかった。
自分の提案が無碍に扱われ、場の主導権は叔母の手に移った。それはアリーにとって狙ったものなのか、それすらもイオリには測りかねていた。
強かで、計算高い、それでいて年相応な反応を見せる雇い主。彼女の考えていることはサッパリだが、目的だけはハッキリしている。
「んじゃ、動きますか」
そう宣言して、イオリは屋敷の捜索を開始した。
彼がまずはじめに向かったのは、三階。部屋をですぐ、屋敷の端から端まで続く廊下を練り歩く。三階より上に続く階段はないので、上から順に虱潰しにしていこうというのがイオリの考えだ。
役割を振られていない空室は無視して、プレートの下げられた部屋を中心に探っていく。三階にあるのは、数多くの客室のみ。これといった収穫もなく、イオリは二階へと降りる。
二階も代わり映えしない、ただ扉が並ぶ廊下が続いているだけだ。昨日と違うのは、濃密な血の匂い。
「……一悶着あったか?」
目を凝らすと、廊下の片隅に凝固した血が見えるような気がした。
「でも、関係ないしなぁ……たぶん」
イオリはそう割りきって、家探しの方を優先する。人気のない廊下を歩き、客室、執務室を無視して進む。
「何もねぇな、おい」
客室がほとんどを占める三階と、二階。一階も似たようなものか、と早合点しそうになるが、とりあえずは、ということで階段を気怠そうに降りる。
一階に人の集まっている雰囲気を感じたが、イオリは特に注意も払わずに歩きまわる。
玄関、応接室、一度来たところは見送って、新しい部屋を通る度にプレートを確認する。一階には倉庫、厨房があるくらいだ。客室は全く無く、倉庫がいくつか点在している。
「来たかいは、あったか」
イオリは倉庫を開け、中の様子を伺う。一つ目、用途は荷物置きのようで、中は整理されている様子もなく、一旦ここに置いておこう、と雑に木箱などが入れられている。この中を探すのは一苦労しそうだ。
二つ目、小さめの一室には掃除用具が置かれ、中もきちんと整頓されている。見渡すかぎりでは不審な点もなく、候補から外す。
三つ目、開けた瞬間ひんやりとした空気が流れてきた部屋は、食料庫になっていた。何かの肉、新鮮な野菜が所狭しと並んでいる。関係ないものがあると悪目立ちをするので、隠し場所としては違うなー、と判断して廊下に出る。
「厨房もなさそうだしなー」
人の出入りが激しいところにはない、ような気がする。隠すのなら誰もが入るのに躊躇しそうなところだろうな、と独り言ちて、イオリは少し考え、閃いた。
「ま、あとはあそこだけか」
歩調を速めて、イオリは目的地に急ぐ。階段を上がり、扉を開けた。




