『二十一話 朝食は五つ』
使用人の朝は早い。各自に与えられた仕事を十全に行えるよう、早い時間から仕込みをしたりと、独特の忙しさがある。
使用人の一人である女性は、なるべく足音を殺して、早歩きで廊下を進んでいた。頭の中では、今日一日の仕事を整理している。
彼女が担当するのは二階、そこの掃除が主な仕事だ。いつものように用具倉庫に行き、窓を磨いて、シーツを整えて、使用人仲間と雑談して。そうやって、整理をしていた時だ。
女性の前に、黒く汚れた絨毯と、そこに横たわる少女の姿が。女性は恐る恐る近づいて、絨毯に横たわる少女に声をかけた。
「……どうか、したんですか」
女性の口から細々と呟かれた声は少女には届かず、受取人がいない質問はやがて消えてしまう。
使用人は、少女の身体をまじまじと眺めて、大きく貫かれた傷口を見付けてしまった。
「――――ッ!!」
女性の喉から出た、声にならない悲鳴は、その場に人を集めるのには充分なものだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
女性の悲鳴に導かれてやってきたのは、八人の男女。少女の死体を囲み、三者三様な顔を見せている。
その中でも最も悲壮感にくれている男、セバスは喉から絞り出すように声を出した。
「アナタが来た時から、こうだったんですか……?」
その問いかけに、女性はビクリと肩を浮かせながらも、
「……はい、そうでした」
動揺の隠せない声のまま答え、セバスはどうしたものかと唸る。
辺りに漂い始めた沈黙と不信感、それらを振り払うかのように、笑顔を貼り付けている女性、ハンナは全員の顔を見ながら提案した。
「とりあえず、移動しません? ここにいても何も変わらないと思いますし、一旦色々と整理しましょう」
その提案に反論するものは居らず、使用人の女性を覗いた全員が、頷き返して先を歩き始めたハンナに続いていく。
再び彼らが集まったのは顔合わせをした応接間で、一組の主従がいないこと以外は昨日と同じだった。
「アリーの護衛はどうした?」
ベルトインは投げやりそうに質問を投げ掛け、周りの反応を伺う。誰もが、そういえば、という反応を見せた。
彼はセバスの方に視線をやり、その視線を受けて執事は静かに首を振る。誰も何も言わない時間が少し経ち、やがてハンナは提案した。
「朝食を、食べませんか?」
呑気とも取れる提案に誰も反論することなく、少しすると給仕が慣れた手つきで配膳をし、護衛を除いた分、五つの食事が机の上に並べられる。
誰も会話することなく食事は進み、一つの食事だけがポツリと取り残された。




