『第十九話 うそつきだーれだ』
唐突な提案に、まず最初に噛み付いたのはアリーだった。
「バカバカしいのよ」
提案を一言で評して、追撃を加える。
「由緒正しい家督をゲームで? 笑えるのよ。もっと、まともな手段で決めるべきなのよ」
「たとえば?」
面白がるように、いたぶるように、女性は反撃をする。反論するなら代替案を出せ、ということだ。その言葉に、アリーは動揺することなく言い返す。
「投票、なのよ」
アリーの発言に、イオリは思わず頭を抱えそうになった。どんなビックリドッキリな提案が出てくるのかと思えば、至って普通でオチの見えているものだった。
女性はくすりと笑って、短く指示を伝える。
「人数分の紙と、羽ペンを」
用意が済むのに数分。各自が名前を書くのに数秒。セバスがそれらを集め、結果を読み上げる。
「棄権一、他同数です」
ですよねー、と思わず出そうになる声を抑えて、イオリは雇い主を見る。自尊心の塊だと思っている少女が、どんな反応をしているのかが気になったからだ。
自分の案が不発に終わった時、少女はどんな顔色をしているのか。浮かべているのは、隠された笑みだった。
「みんな適当なことは言いつつも、結局は家督がほしいんですよ。それに、我が強いですからね、他人に入れるなんてこと、ありえないでしょう」
女性は俯いているアリーの表情など知らない様子で、諭すように続ける。
「それに、これはあなたにとっても悪い話ではないわよ」
「……どうして、なのよ?」
尋ねる声音に、女性は直接に応えるようなことはせず、すっかり蚊帳の外にな
っている他の三人に言い放った。
「このゲームの勝者は、誰の文句もなく家督の座につける。そう、誰の文句もね。文句をいう輩は、他の人で封殺する」
その言葉に、アリーは一層笑みを濃くする。女性はそれに気づかずに、最後の問いかけをする。
「参加するのもしないのも自由だけれども、どうします?」
反対の声は上がらなかった。
「やっぱりね、みんな嘘つきね」
女性は朗らかに笑いながら、ルールを決めていく。周りも、表には出していないもののノリ気ではあるようで、女性の言葉を黙って聞いている。
「一つ目、勝利条件だけれども、この家の秘密を解き明かすこと、でどうかしら?」
悪戯っ子のような笑みを浮かべている女性が言うには、この家には当主しか知ってはならない秘密があるということらしい。それをいち早く見つけたものが、勝者、つまりは次期当主の座につけるということらしい。
「しかし、そんあものがあったとはなぁ」
しみじみと呟いたのはベルトインだった。そして、一番やる気を出しているのもこの男だ。
「親父は何も言ってなかったが……そんなこと、どうしてハンナ、お前が知っているんだ?」
細めた目で、女性――ハンナに言及する。その問いが来ることは最初から分かっていたのか、ハンナはスラっと答えを口にした。
「お祖父様がよく言っていたのよ。この家には秘密がある、だから探してみなさい、ってね」
「あー、たしかに言いそうだ」
うんうんと、何度か頷いて納得したようだ。それは周りも同じようで、アリーも文句をいうようなことはせずに大人しく座っている。
「それで、二つ目だけれども、護衛も使っていいことにしましょう。いわゆる、協力ということですね」
ハンナは自分の後ろに立つ男に、小さく、おねがいね、と言い、周りの反応を伺う。護衛から反対なんてものは言えるわけもなく、イオリも変に一悶着を起こす気もないので黙って成り行きを見守る。
内心、面倒なことを押し付けられそうだ、と辟易としているが、努めて顔には出さない。
「敵ですね、私たち」
「お手柔らかに頼むぜ」
嬉しそうな隣の男に社交辞令を言っていると、
「じゃあ、今日はこれで終わりにしましょう」
閉幕が告げられ、なし崩しに話し合いは解散した。




