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元勇者の異世界職業体験記~二周目の世界を知り尽くしたい~  作者: さなぎ
第一章 職業体験①:幼女貴族の護衛 
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『第十八話 方法はシンプルに』

 セバスの宣言に、これといって反応するものはいない。今更言われなくても、そんな態度がイオリには見て取れた。彼はアリーの近くの壁に背を預け、始まったばかりの話し合いがどんな顛末を辿るのかを観察する。


「横、良いですか?」


「……ん」


 相手を確認してから、イオリは半歩ずれる。ローレンは人受けの良い笑顔を浮かべながら、イオリと同じく壁にもたれかかる。


「依頼主の近くにいなくても良いのか?」


「特に言われているわけではないので、大丈夫かと」


「あっそ」


 イオリは視線を話し合いの場に向ける。座っているのは五人。イオリたちと同じく立ち見をしているのが四人。それなりの身なりをした護衛たちは、ピタリと対象の後ろに控えるようにしている。イオリたちとは大違いだ。


「しっかしアレだ。どうやって決めるんだ、家督ってのは?」


 ここにきて話し合いの根本について、イオリはローレンに聞く。アリーから聞いていたのは、彼女の家が面倒なことになっているということだけだった。その面倒事の解決方法、その部分に関しては全く聞いていない。


「普通なら世襲ですね。ですが、聞いた話では近い者から順に殺されていますので、誰が選ばれてもおかしくは無いですね」


 その話はイオリも一度は耳にしていた。これまで三人の親族が殺され、残った面子で後継者争い。それが、この場で行われているものだろう。


「ま、すぐには終わらなさそうだな」


「そうですねぇ」


 進行のいない話し合いは、開始数分で停止していた。迂闊な発言を避けているせいか、それとも口を滑らせる間抜けを待つかのように、時間は黙して流れていく。


「話し合いなのに話さないって、斬新だな」


 イオリの素直な感想に、横の優男は同意にもとれる笑みを浮かべる。無言の時間がただ過ぎていくのかと思われた場に、声が差し込まれる。


「デニアン、あなたは護衛を連れてはいないの?」


 物腰の落ち着いた女性だ。アリーから見たら、年齢的にはオバに当たるのだろうか。後ろには緑髪の成年が控えている。


「ボクはどうもひとを信用出来ないのでねぇ」


 話を振られたデニアンという男は、痩けた頬に薄ら暗い笑みを浮かべながら答えた。


「まぁ、ボクの場合、後継者なんてモノから一番遠いから、そういうことには巻き込まれなさそうですし」


「確かに、そうかもしれませんわね」


 場の主導権を握った女性は、次々と周囲に話題を振っていく。


「アミラは、嫁ぎ先ではどうなのかしら。夫婦仲は良好?」


「……言われるまでもないな」


 答えたのは、鋭い目付きの女性。後ろには悠然と構えている禿頭の男。


「ベルトインは、商業の方はどうですか?」


「心配されるまでもない。……大きな商談前だ、早く終わらせないか」


 ストレスで少なくなった髪を揺らし、ベルトインは腕を組む。後ろに護衛の姿はないが、イオリの隣でにこやかに微笑んでいる姿を見て、彼は頬を引きつらせる。


「……おい、あのオッサン、めっちゃお前のこと見てんぞ」


「あぁ、気にしなくてもいいよ」


 そんなやり取りを交わしながら動向を注視していると、、女性が最後の一人に会話を振った。


「アリーは、少し背が伸びましたね。元気でしたか?」


「見ての通りなのよ、叔母様。叔母様も変わらずのようなのよ」


 相手がどうであろうと、少女の不遜な態度は変わらない。その姿勢に女性はさしても興味がないようで、


「セバス」


 短く名前を告げ、使用人を近くに呼ぶ。そして、誰にも聞こえるような声で、こう言った。


「少し、ゲームをしませんか。それの勝者が家督を継ぐ、ということでどうかしら?」

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