『第十六話 家探しは勇者の特権』
ベッドに飛び込んでゴロゴロしてくつろいでいたが、ものの数分ですぐに飽きてしまう。落ち着きが無いことをよく通知表に書かれていたイオリにとっては、ずっと同じ所でじっとしている事が嫌いだった。
「ここにいろって、一言もいってなかったもんな」
屁理屈じみた言い訳を口にして、イオリはベッドから飛び降りる。荷物は置いたまま、静かに廊下に出る。
赤い絨毯と陽光が眩しい廊下に人気はなく、明るいながらも寂しい様子だ。どこまで続いているのか分からない廊下を、端からイオリは歩き出す。
等間隔に配置された客間は、どれもあまり使われた様子がなく、家主の無計画さが滲み出ていた。とりあえずで作ってみたけれど、使う機会はあまりなかった感が満載だ。
ある程度歩くと、ついさっき登ってきた階段がイオリの目の前に現れる。ちょうど屋敷の真ん中にある階段は、踊り場を挟んで大きく向きを変えている。下の様子は分からないが、イオリは降りてみた。
屋敷の二階部分も、正直言えば面白みのないものであった。構造はこれといって特筆するものはなく、三階と似ったりよったりであった。
違いがあるといえば、三階では感じなかった人の気配が、二階で幾つか感じるということくらいだろう。何部屋からは話し声が聞こえては来ているものの、いきなりドアを開けて突撃するような豪胆さをイオリは持ち合わせていない。なにより、それをすれば面倒になること間違いなしだ。
自分より明らかに年下の幼女に、それはもうやたら滅多に怒鳴られるという姿を想像しながら、イオリは二階のある部屋の前で足を止める。執務室、というネームプレートが下げられた部屋。
その部屋は、他と比べて明らかに日常的に使われ続けている形跡があった。これまでとは様子の異なる部屋の扉に手を押し付けてから、イオリは注意深く左右を見てから中に滑りこむ。
興味の方が勝って入った部屋の中は、埃の匂いで充満していた。ろくに換気されていない部屋の隅々には、どれだけ掃除されていないかを物語るように埃が溜まっている。
部屋の中に一歩、一歩と踏むと、足元の埃が舞い上がる。よくもまぁ、こんなになるまで放置できたものだ、と関心を抱いていると、イオリは部屋の違和感にようやく気がつく。
「なんでここだけ……?」
来客用の応接セットに、部屋の両脇の本棚、シックな執務机。それらが置かれているだけの部屋の中で、たった一つ執務机だけが埃を何度も払われているようだった。
何度も入った形跡があるのに、掃除されていない執務室。まるで、大事な何かをそのままにしておこうと、そんな気持ちが見え隠れしているように感じられた。そして、その光景を椅子に座って眺めている光景をイオリは想像した。
「……まぁ、それだけかぁ」
考えるだけ考えて、これといった発見をすることなく、イオリは落胆する。毛色の異なるこの部屋でなら、退屈を紛らわせてくれる何かがあると思っていたのだが。
「魔王の城のほうが、数百倍面白かったのになぁ……」
ゲームの中でしか体験できないトラップ満載の城と、この屋敷を比べるのは酷だろう。
「ま、もう少し漁ってみるか」
今から戻ったところで暇になることは変わりないだろうと、この部屋をもう少し漁る、もとい探索しようとするイオリ。
隠し通路がないか埃だらけの床を、注意深く見ていると
「――」
それを邪魔するかのように、イオリの後ろから首に手が伸び--。




