『第八話 カスピニャン家の事情』
パタパタと、慌ただしい足音が遠ざかっていき、やがてパタリという音と一緒に聞こえなくなる。
「さて、詳しい話をするのよ」
座りながら足を組み、憮然とした態度で呟く。
「詳しい話って?」
「そのままの意味なのよ。依頼についての詳しい話なのよ」
小馬鹿にしたように鼻を鳴らすアリーと、どこか納得のいかないイオリ。
「それはさっきしたばかりだろ?」
「部外者がいる中で、より詳しい話をしろとでも言うのよ? 冗談じゃないのよ」
目を吊り上げて言うアリーを、どうどうどう、と何とか宥める。ふぅと息を吐いてから、アリーは思い出したかのように言い放った。
「そういえば、報酬の話をしてなかったのよ」
あ、言われてみればそうだった。当初の目的を綺麗サッパリ忘れていたイオリは、わずかに前のめりになりつつ話に耳を傾ける。
「で、いくら貰えるんだ!?」
「ハァ……どれだけお金に飢えているのよ……」
「それはもう、何を投げ打ってまでも欲しいに決まってんだろ!」
呆れ果てたような視線なんてもの気にせず、早く早くとでも言いたげにズイズイと身を乗り出すイオリ。
「そんなにお金に困っているかなのよ? 一体、今いくら位持ってるのよ?」
「……一晩の宿代くらいしかねぇな」
具体的な金額で言うと、銀貨五枚ほど。並みの宿屋で、一食と寝泊まりをすれば尽きてしまうほどの所持金だ。世界一周する、など夢のまた夢の話である。
「……若いのに苦労しているのよ」
「お前に言われたかねぇよ……」
しみじみとした様子で言うアリー。見た目年齢が若い相手からそう言われ、何となくではあるがイオリは悲しくなってしまう。ゴホン、と咳払いを一つ、イオリは一度ソファに座りなおして、
「じゃあ、報酬の話は後でみっちりやるとして、詳しい話ってなんだ?」
「みっちりぎっちりと、お金の話をする気はないのよ。ワタシの周囲とかを含めた話、なのよ」
脱線しかかっていた話を半ば強引に戻して、一旦場を仕切りなおす。イオリはソファに深く座りなおして、話を促すように黙する。
「カスピニャン家の跡継ぎ問題については話したかなのよ?」
「あぁ、アリーのじいさんが跡継ぎを指名せずに死んじまったって話だろ?」
「何だか腹の立つ言い方なのよ。まぁ、だいたいそれで合ってるのよ」
これまでの話をきちんと聞いていた事に、アリーは満足気に頷く。
「それで任命式を行うから、その道中と式の最中の護衛を頼むってことだろ」
「そうそう、そういうことなのよ」
うんうん、と大きく頷いてから、アリーはそのまま話を続ける。
「今から話すのは、どんな奴等がやってくるのかという話なのよ」
「奴等って……結構な言い草だな。一応、親族なんだろ?」
「金のために親族を殺す、そんな奴等をそう呼んで、なにか悪いかなのよ?」
ふん、と嫌悪感丸出しの色を顔に浮かべる。その表情は年齢不相応で、この歳で幾つもの苦労をしてきたことが、同じ苦労人であるイオリには推測できた。もっとも、いきなり別世界に連れて来られて魔王を倒すように言われた、なんてものとは雲泥の差はあるが。
「というか、どうして親族同士が殺し合ってるって分かるんだよ?」
「ここ一月、それこそお祖父様が亡くなってから、親族がバタバタ死んでいったのよ。毒殺、刺殺、暗殺、聞いているだけで三人が殺されているのよ。タイミング的に、跡継ぎ候補を減らすために身内が潰し合っていると、そう思うのよ」
やれやれとでも言いたげな様子で、アリーは肩をすくめる。まるで不出来だと、こんな簡単ななこともわからないのかと言外に言われているような気がして、イオリは少しムッとしてしまう。
その様子を横目で見つつ、アリーは話し続ける。
「まず、ワタシの伯父が死んで、その次に従兄なのよ。最近死んだのは、叔母なのよ。死んでいった順番を辿ってくと、お祖父様と親しくしていて、血縁関係が近い者から順に殺されているなのよ」
指折り数えながら、アリーは表情を暗くしていく。それは、親族が殺されていったという悲劇のせいではなく、別の要因であるかのようにイオリには感じられた。
アリーは一呼吸吐き、ゆっくりと事実を噛みしめるかのように言った。
「その順番で行くと、次に殺されるのはワタシなのよ。だから、依頼を出したのよ」
そして、一人の少女は作り物めいた笑みを浮かべて、
「ワタシをちゃんと守ってほしい、それがワタシからの依頼なのよ」




