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九花


「けほっ…んー」


寝室で抱き合ってぐったりした彼女を俺はバスルームに運び、再び強引に抱いた。


声を出し過ぎたのだろう。先ほどからたまに咳をしている。


「…ごめん、優香さん。身体大丈夫?」


再び寝室に戻って寄り添うと、ゆっくりとした時間が流れる。


「…ちょっとつらい…」


「ごめんね?」


まだしめっている髪に指をからませると、すねたように払われてしまった。

「…ごめん」


「すっごく怒ってるわけじゃないわよ、ちょっといじめすぎちゃったかしら」


よほど情けない声だったのだろう。彼女はくすくすと笑い始めた。


「でも、どうしてあんなことしたの?」


「…言いたくないって言ったら?」


理由はもちろんあったし、自分の欲求のままに暴力的な行為ではなかった。


「そうね…言いたくない気持ちはわかるけれど、私としては聞きたいわねぇ。…もし言わないかったらしばらくここには来ないわ」


「…声を抑えてる優香さんを見たら、いろいろ思った。それだけっ」


「いろいろって?聞きたくなるなぁ…けほっ」


彼女はにこにこしながらわざとらしく咳きこんだ。


「…だからっ、僕のところにいる時くらいは、もっと自由にして欲しいなって!!僕に対してもバリアがあるんだって思ったら、壊したくなった。…そのバリアと、優香さん自身を……あー!!ほんっとに恥ずかしいっ!!」


「…ありがと、ヒース」


「…今日、まさかこれから帰るとか言わないでしょ?隣で眠ってよ」


「うん…おやすみなさい」


しばらくすると小さな寝息が聞こえてきた。俺は体を起して寝室を出る。彼女は一度寝てしまうとなかなか起きない。


「はぁー…疲れたな」


厚いカーテンを開けると、濃紺の空に月が明るく輝いている。


「…ゆうか、悠華っ…」


実はさっき彼女に言ったことが今日の態度の全てではなかった。


午前中にアイラから受け取った手紙を読み返す。


「…はっ、ほんとに馬鹿なのは俺だよな…」


あいつと同じ名前で、何となく似たような態度をとる彼女に、俺は『ヒース』でいられなくなった。


彼女にとって俺という存在は何の障害もなく美しい羽を思い切り伸ばせる場所であって欲しいと思っていた。


―――あいつにとっても。




――――…


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