五花
優香さんを見送ってすぐに新規の客を迎える準備をし始めた。
資料をみながら服装や話し方を考え、客の望むヒースを作っていくのだ。
(氷室あかね、氷室財閥のご令嬢ね。年は…18歳!?こんな年から花街に出入りか。しかも同い年…やりにくそうだし面倒くさいなー…)
若い女性の中には花街をホストクラブのように思っている者もいる。
「勘違いされないように一切プライベートは話さないようにしないとだな…服装は地味なスーツでいいか」
悩んだ末にどこにでもいるサラリーマンのような服装で出迎えに行った。
エントランスホールに着くと既に客はソファーに座っていた。
(早いな…まだ予約の時間まで20分もあるのに…)
そこへ受付の男がそっと声を掛けてきた。
「ヒースさん、あの女の子3時間位前から居たんですよ…外の庭園を歩いたりしてたのですが…1時間位前にあそこに座って。それに、すごく怒ってました…気をつけて下さい」
「うわー…前途多難だな。わかった」
俺は覚悟を決めてしっかりと営業用の笑顔を作って女の子に声をかけた。
「お待たせしてすみません。氷室あかね様ですね?僕がヒースです、スカーレットにようこ…」
「どういうことよ!!!!」
俺が最後まで挨拶をする前に急に目の前の少女が叫んだ。
「あなたは私を待たせて何をやってたのかしら??」
「お待たせしたのは大変申し訳ありませんが、お約束の時刻は7時でしたよね?」
俺は彼女が怒っている理由がわからなかった。
「そんなの関係ないじゃないの!!あなたは私に買われたのよ!?なのに…あんな品のないおばさんと勝手にセックスして…
ねぇ、どういうこと!!!」
(庭園から部屋を覗いてたのか?最悪だな…勘違いも甚だしい…)
彼女の様子から俺は顧客として認められないと判断した。
「どういうことと言われましても…申し訳ありませんが少々お待ち下さい」
俺は受付に事情を話に行こうと彼女に背を向けた。すると彼女は態度を一変させ背中にしがみついてきた。
「うわっ…どうし…」
「やだ!!行かないで…ねぇ、怒ったの?ごめんなさい、謝るから行かないで!!あなたが好きなの」
(くそっ…最悪以下だろ!!どんな教育してるんだよ…)
人の出入りが多い時間のエントランスホール、周りの人が横目でヒース達を見ていく。
「怒ってなどいません、ですから落ち着いてソファーに座って下さい」
再び優しそうに見える笑顔を作って言った。とにかく受付に状況を伝えて早急に帰ってもらわなければらない。
「ねぇ、本当に怒ってない?ねぇ!!…」
ソファーには座らせたが彼女は俺の腕を掴んで離さない。
俺が困っていると館の職員が来るのが見えた。
(誰かが手配してくれたのか、助かった…)
職員が穏便に済まそうと話しかけるが彼女が騒ぎたてたため、残念ながら拘束されて連行されていった。
「ちょっと…!!なにするのよ!!離してっ…ヒース、助けて!!私に会いたかったわよね?私の事好きでしょ?…ねぇ!!」
連れられていく彼女に俺はすぐに背を向け管理室に報告に行った。
こういう事もたまにはあるため、どうということでもない。