三花
コンコン…
「う、ん…」
ノックの音で目を覚ました。
(…今、何時だ?)
俺たちの部屋は昼間でも仕事がしやすいように厚いカーテンが掛かっているため、カーテンを閉めてしまうと明かりが入りにくい。
(5時半…寝よ)
非常識な時間なため、俺はノックを無視して再び枕に顔を埋めた。
ドンドン!!…ドンドンドン!!
そのとたんにノックというには荒っぽくドアが叩かれた。
仕方なく起きて寝室を出る。
(誰だよ、こんな中途半端な時間に…まさか誰かの客じゃないだろうな)
「はい、どなたですか?」
俺はドアを開けずに返事をした。
「こんな時間にすみません、警察の方がいらっしゃっていてヒースさんにお会いしたいということです。急いで管理室に来てください」
どうやらノックをしたのは館の職員のようだ。
「わかりました。10分ほどお待ち頂きたいと伝えて下さい」
そう答えて俺は身支度にかかった。
(警察ねー、最近変わった客なんていたかな?ってかわざわざこんな時間に来なくてもいいだろ)
仕事がら警察が聴取に来ることは珍しくないのだ。
管理室に行くとどうやら呼び出されたのは俺だけじゃないようで、ユリウスにアイラ、他にも数人がいた。
「おはよう、ヒース。せっかく早く仕事が終わったのに残念ね」
言葉とは裏腹に嬉しそうな表情でアイラが言った。
「本当にね…」
そこに警察官が2人表れた。
「こんな時間にお呼び立てして申し訳ありません。実は昨夜未明に殺人事件がありまして、その容疑者についてお話を聞きたいのです」
「つまり容疑者がうちの客ってこと?ってか逮捕はすんでんの?」
ユリウスが尋ねた。
「そうです。逮捕についてはまだで、現在捜索中です。容疑者は……」
話をまとめると、どうやら容疑者はユリウスの客だが呼び出された俺達とも面識のある男であり、居場所や動機についての情報を集めに来たらしい。
「何かご存じではありませんか?」
(そんなこと言われてもな…ユリウス以外は親しくもないし)
案の定ユリウスも含めて皆特に思いあたるふしは無いようだった。
「残念ながら特にないですね。俺のところでもあまり話をする人じゃなかったし…」
代表するようにユリウスが答えた。
「そうですか…ご協力ありがとうございました。またなにか思い出したらご連絡下さい」
そう言って警察官は帰っていった。
「殺人ねぇ…特に変わった客でもなかったし、そんなによく来てたわけでもないからなぁ」
ユリウスが言った。
「逮捕がまだって言うのが嫌だね。たまに勘違いな客がいるからさ」
俺が言うと周りも同意した。
花街は閉鎖的なために潜伏しやすい。その上に客のなかには『俺とお前のなかだろう?俺が逮捕されたら嫌だろう!?』などと言い出す勘違いな人間もいるのだ。
「確かにね…気をつけるよ」
「じゃあもう部屋に戻ってもいいかしらね?」
アイラのこの言葉をきっかけに解散となった。
結局この容疑者は1週間ほど後に逮捕されたと連絡がきた。