十二花
「――…なさい!!」
「…は?部屋に…いな…ぞ!!」
廊下の騒ぎで俺が目を覚ますとすでにアイラはいなかった。時計を見ると9時…そろそろ昨日の泊まりの客が帰り、一番静かな時間のはずである。
「おはよう、ずいぶん騒がしいけど…何かあったの?」
リビングへ行くとアイラは緊張した様子で電話をしていた。
「おはよう、今起こしに行こうと思っていたのよ。はい、オーナーからよ」
そう言って俺に受話器を差し出してきた。
「俺に?」
わざわざアイラの部屋にまでかけてくるなんて、何の用事だろうと思いながら俺は受け取った。
「はい、ヒースです。おはようございます」
『あぁ、おはよう…館の中が騒がしいのはわかっているな?』
「ええ、もちろん…何か俺にかかわることですか?」
こんな騒ぎを起こすような客に覚えはないが、オーナーの話しぶりからして俺がらみのようだ。
『実はさっき受付に氷室財閥のお嬢さんがきてな…お前に会いたいと言うんだ。もちろん断ったんだが、すると妙な事を大声で言い出した』
「はぁ…」
俺はその子の顔を思い出そうとしたが、思い出せなかった。
『お前がこの館に監禁されている、と言い出したんだ』
「へー…よく知ってますね、その子。実際、もう1か月以上は監禁状態ですもんね」
『真面目に聞け。…で、警備員の制止を振り切って館内をお前を助け出すために走り回っているんだ。一応氷室財閥のお嬢さんだからあんまり手荒なまねもできなくてな…というわけだから、部屋から出るなよ!!ドアにも…一応窓にも鍵をかけてカーテンも閉めておけ。わかったか?』
「はいはい、りょーかいです」
俺が電話を切る頃にはアイラがしっかりと鍵や、カーテンを閉めていた。
「あーあ…せっかく今日から頑張ろうって思った矢先にこれかよ…」
相変わらず廊下からはバタバタと足音が聞こえたりしている。
「本当に災難ね。どんなお客さんだったの?」
心配そうにアイラが尋ねてきた。
「客じゃないし…顔も思い出せないよ。勘違いしたただの女の子」
「…早く捕まえて欲しいわね。この部屋には入れないから大丈夫だとは思うけど…」
「そうだね…」