十一花
その日は結局1日ずっとアイラの部屋で過ごした。
「ねえ、泊まってもいい?」
このまま一人で眠りたくなくて俺はアイラに頼んだ。
「いいわよ、別に。あなたと眠るのなんて本当に久しぶりね」
「そりゃそうだろ、俺だって思春期ってやつがあったんだから」
俺が客を取り始める少し前、アイラといることは苦痛になった。
別にアイラに恋心を抱いていたわけではないが、弟のように変わらず接してくるアイラの行為に素直に甘えられる様な時期ではなく、一緒に過ごす時間は減った。
もちろん売れっ子のアイラの夜があいていることが少なかったせいもあるのだが。
アイラのベッドで隣に横になると、アイラは俺の髪に指を絡ませてきた。
「…ねえ、昼間ソファーで眠っていた時、あなた泣いてたわよ」
「…どうしてだろうね?」
俺がなんでもないように答えるとアイラは困ったように微笑んだ。
「あーあ…どうして私のかわいい弟くんはこんなにかっこいい男になっちゃったんでしょうね?ぜーんぶ自分で抱え込んで、誰にも頼らなくて」
「ずっと、素晴らしいお姉さんを身近で見てきたからね」
俺が微笑んで答える。
「…そんなこと言って。あなたがもっとダメ男になるように振る舞えばよかったわ」
そう言ってくすくすと笑いだした。
「…ね、アイラ」
「ん…なぁに?」
「…ありがとう」
「…ほんとに大人になったのね、少しさみしいわ」
俺は疲れていたこともあり、話しながらも瞼が重くなってきた。
「…と、思ったけどやっぱりまだお子様かしら?我慢しないで寝ちゃいなさい」
うとうとする俺をみてアイラは微笑みながら寝かしつけるように頭を撫でる。
「うん、おやすみ。アイラ…」
そんな心地よさに包まれて俺は眠りについた。
翌朝あんな事が起きるとも思わずに…