抱き枕屋さん
純文学のジャンルから変更しました。
内容に変更はありません。
「バイト、なくなっちゃった・・・・・・」
私は上田莉緒。
現在大学3年生。東京の音楽大学に通っている。
成績は―まあ普通。高校ではやれてる方だと思ってたけど甘くなかった。
家で夕食を食べていたらママがバイトの話をしてきた。
「リオ~、バイトなくなっちゃったんでしょ? おじさんが店出したって言ってて、バイト募集中だって。やれば?」
「なにするの?」
「なんか洋服屋の延長だって。レジとか品出しだけできればいいってさ。1人だけとるって言ってたから早いほうがいいんじゃない?」
「時給は?」
「1600円だって」
「やる!」
その店は東京の某所にあった。
大学からはそんなに離れてないし、定期券内だ。
(通勤代貰えるっていってたしラッキー)
音楽をやるにも色々お金がかかるのだ。
『7月26日オープン!』
一週間後の日付が書いてある。2階へ上がるシャッターに張り紙。
中にはおじさんがいるはずだが・・・・・・
LINEで連絡する。
『店の前ついたけど』
『いま開ける』
ガラガラとシャッターが開いて準備中の店があらわになる。
⑱にバッテンがついているカーテンで仕切られていた。
「・・・・・・おじさん。もしかしてアレな店なの?」
「・・・・・・そうだよ」
「・・・・・・なら時給倍にしてよ」
「それは無理だな」
眼鏡をかけたスラっとしたおじさん。
髭は綺麗になく。全身脱毛済みだそうだ。
おじさんの後ろについて店内に入ってみた。
そこかしこに段ボールが積みあがった店内。
(布? コスプレ衣装とか?)
勝手に開いていた段ボールから一つ取り出した。
微笑むアニメの美少女キャラが書いてあった。
ほぼ半裸で。
「ビニール袋から出さないでよ。売り物なんだから」
「はあ。コレいくらするの?」
「1万3千円」
「!? たっか!」
品出しの位置とかを教わり、中古品の買い取りの手順などもおじさんで練習した。
オープン当日。店内には数人の客が入っている。
「はい、こちらを一枚ですね」
基本的に店内には作品の名前が書かれたファイルの中にQRコードがあり、それで見本の絵をスマホで見てから客は商品を選ぶ。
そして注文された商品は店の裏から出して客に見せて確認するだけ。
その場でビニールの中を開けることはしないので、どんな絵が描いてあるか具体的に見ることはなかった。
(これで時給1600円♪)
オープンしてから数日後。大学終わりの17時からバイトに入っている。
客はまばらだが、そこそこ繁盛はしていそうだ。
大量に中古品を買い取り持ち込みをしてきた客がいた。
サングラスにマスク、いかにも怪しい。
「おじさん、査定お願い」
「はいよ」
カウンター裏の部屋にいるおじさんがカバーを全部持って行った。
「しばらくお待ちください」
客にはそう言って、私もおじさんの様子を見に裏へ。
「ねぇ、めっちゃ怪しいよあの客。偽物じゃないの?」
「う~ん。そんなことはないと思うけどなぁ。大事に抱かれてきてるよ」
「きもいなぁ」
「ちゃんとジッ〇ロックに畳まれて、個別に湿気取りが入ってるし」
「だからなんなの?」
「もし、偽造品だったとして、外側の袋のほうが高価だってことはないでしょう?」
「たしかに、言われてみれば」
「中国やらで作られた偽物だった場合、だいたい数百円。ジッ〇ロックと防湿材もそれと値段は変わらない」
「触った感じも問題なし。正規の生地、ファスナーも。印刷も問題ない、顕微鏡での組成も同一」
「満額買取でいいよ」
「そっちの洗濯品に入れて置いて」
「わかった」
また翌日、似たような客がやってきた。
「未開封なんだけど。いくらくらいになりますかね?」
スーツケースから20枚もの大量買い取り品を出してきた若い男。
受け取った買い取り品をカウンター裏のおじさんへ回す。
すぐにおじさんはカウンター裏から出てきた。全部の買い取り品を持って。
「住所氏名その他もろもろ、書いて貰って。あと身分証をコピーして」
「わかったよ」
客に色々やらせたのち。
「これさぁ、本物じゃあないですよね?」
「いや知らないですけど。通販で買ったものなので」
「指摘したいことは山ほどあるけど、ウチでは偽物、特に生地の質が悪いものはお断りしています。警察に提出しておくのでもう来ないでください」
店長が買い取りを拒否していた。
客の男は椅子を蹴り倒して店から出て行った。
じつはおじさんは柔道黒帯だから、そう危険はない。
「どこに問題があったの?」
「まずは品質台紙がついてない。プリントが荒い。チャックの形が違う。袋越しでもこれだけはわかる」
「開けたらもっとバレバレだろう。絵もAIか何かで補正したパクリもんだ」
「だけども、世の中、全部本物で回っている訳じゃない。贋作でも出来が良ければいいという人間は山ほどいる」
「ただし、この店で扱うものは全て本物。正規品。規格外品はキッチリそう書く」
『ジャンク品。飾るのに最適!!』
抱き枕というのは実は等身大の両面タペストリーとして需要があるらしい。
そこで、店では中古の状態が悪いものを1枚2千円という金額にてワゴンで売っている。
横には飾るための専用ハンガーもあり、そこそこ買われていくのだ。
大体問題が起きるのは買い取りだ。
今日だって、
「プレミアがついてるとは言え、複数枚持ち込みは値段が落ちます」
「1枚につき―1500円、下がります」
「未開封だぞ! なんでそんなに下がるんだ」
「まあ需要っていうのがありますからねぇ。3枚ほど出して、残りはネットオークションにでも出したらどうでしょう?」
「疑問だったんだけど、これって古着とか扱いなの?」
「そうだよ。いろいろ取り扱いの許可証そこに張ってあるでしょ?」
カウンターの横にアクリル板があり、そこには様々な許可シールが貼られていた。
「なんでおじさんはこんな店を?」
「まあ趣味の延長だよ」
「きもいなぁ」
「一万数千円で好みの子を抱けるんだぜ」
「きもいなぁ」
持ち込み専用の棚がある。
初めてその棚の利用者が現れた。
おおきなスーツケースを転がした地味な恰好をした女性だった。
「こ、こ、こ、こんにちは―」
「こんにちは。あの大丈夫ですか?」
「そ、その男の人が苦手でして―」
「あ、店長、裏に行ってて」
「あいよ」
おじさんを裏においやり、話を聞く。
彼女は同人作家なのだが、調子に乗って注文しすぎて買い手が付かなくなって困っているとのこと。
『ウチで買い取るかい? それとも売り上げの1割回収でここにおいてみるかい~』
奥からおじさんの声が聞こえる。
「どうします?」
「えっと、ここに置かせてもらっていいですか?」
「おじさ~ん、ここに置くって~」
『じゃあ書類書いて貰って~。こっちにあるから取りに来て~』
色々あって値段設定。
「いくらがいいでしょうか?」
『通販で幾らで出してる~? その1000円引きくらいがいいよ~』
「ですって」
「じゃあ11500円にします」
『そこから1割はウチでもらうからね~』
「赤字に近いですが勉強代だと思います」
「大変ですね~」
(楽なバイトだ。大学卒業までずっとやろ)




