5~6.魔王の正体
5.魔王の正体
朝。
私は机の上のスク水を見ていた。
胸。
あやめ。
油性マジック。
極太。
書いた覚えはない。
「……」
私はつぶやいた。
「魔法少女」
シビルが言う。
「はい!」
「ダサい」
「機能性重視です!」
私はスク水を畳んだ。
「で」
シビルを見る。
「仕事」
シビルが姿勢を正す。
「はい!」
「魔王」
「はい!」
「どこ」
シビルは少しだけ黙った。
「……います」
「それは聞いた」
「場所」
シビルは部屋を見回した。
そして小声で言う。
「……このアパートです」
私は眉をひそめた。
「近い」
「はい」
「何号室」
シビルは言いにくそうな顔をした。
「それは……」
コンコン。
ドアがノックされた。
「あやめちゃん?」
私はドアを見る。
「はい」
ドアの向こうから声がする。
「起きてる?」
シビルが青ざめた。
「……」
私は普通に答える。
「起きてます」
ドアが開く。
水森しずくが顔を出した。
「おはよう」
「おはようございます」
しずくはにこっと笑った。
「昨日スーパー行ったんだけど」
袋を差し出す。
「野菜多かったから」
「少しどう?」
私は受け取る。
「ありがとうございます」
シビルは机の上で固まっていた。
しずくはそれに気づく。
「あら」
指をさした。
「その子」
シビルが震える。
「……」
しずくは言った。
「妖精?」
シビルの顔が真っ白になる。
私は言う。
「知り合いですか?」
しずくは首をかしげた。
「うーん」
少し考える。
「たぶん」
シビルが小さくつぶやく。
「女王……」
私は聞き取れなかった。
しずくは言う。
「あやめちゃん」
「はい」
「朝ごはん食べた?」
私は答える。
「まだです」
しずくは笑った。
「じゃあ」
「あとで庭で会いましょう」
「はい?」
しずくはにこっと笑った。
「お話があるの」
そう言って部屋を出ていった。
ドアが閉まる。
静かになった。
私はシビルを見る。
シビルは震えていた。
「……」
私は聞く。
「何」
シビルは顔面蒼白になった。
「魔王です」
私は言った。
「大家さんだよ」
シビルは叫んだ。
「だからです!」
6.魔王城のルール
庭。
フェアリーハイツの小さな庭だ。
私はそこに立っていた。
肩の上にはシビル。
かなり落ち着かない様子だ。
玄関のドアが開く。
水森しずくが出てきた。
「おはよう、あやめちゃん」
「おはようございます」
しずくは首をかしげた。
「どうしたの?」
私は答える。
「魔王討伐です」
シビルが震えた。
しずくは少し考えた。
「……そう」
シビルが震えながら言う。
「女王……」
私は聞き返す。
「女王?」
しずくは小さくため息をついた。
「その子」
シビルを指さす。
「余計なこと言ってない?」
シビルが固まる。
私は言う。
「魔王らしいです」
しずくは少し考えた。
「まあ」
「そうね」
あっさり認めた。
私は頷いた。
「なるほど」
シビルが叫ぶ。
「なるほどじゃありません!」
しずくは肩をすくめた。
「戻れって言うのよ、この子」
「戻ってください!」
シビルが必死に言う。
「妖精界が回りません!」
しずくは空を見上げた。
「つまらないのよ」
「え?」
「妖精界」
私は聞いた。
「どんなところですか」
しずくは少し考えた。
「何もない」
「……」
「食べ物は出る」
「漫画もゲームもある」
「でも」
しずくは言った。
「何も起きない」
私は少し考えた。
しずくは続ける。
「何もしなくても暮らせる」
「でも」
「生きてる感じもしない」
シビルが言う。
「楽園ですよ!」
しずくは笑った。
「退屈」
私は頷いた。
「なるほど」
シビルが頭を抱える。
「だから戻ってください!」
しずくは私を見る。
「で?」
「はい」
「あやめちゃん」
「はい」
「魔王倒すの?」
「契約しました」
しずくは少し考えた。
「じゃあ」
指を立てる。
「こうしましょう」
「はい?」
「私のしもべを倒したら」
私は聞く。
「しもべ」
しずくはアパートを指さした。
「住人」
私はアパートを見る。
「住人」
しずくは頷いた。
「勝ったら」
「私への挑戦権」
シビルが慌てる。
「そんなルール聞いてません!」
しずくは微笑む。
「勝負方法は」
私を見る。
「お互い決めていい」
私は頷いた。
「自由」
「ええ」
私は言った。
「では、戦い方はこちらで決めて良いですか?」
しずくは楽しそうに笑う。
「いいわよ」
「魔王戦だもの」
「そのくらい自由じゃないと」
私は続けた。
「あと、勝ったら」
「負けた人は」
「勝った人の手下になってもらいます」
しずくは少し目を細めた。
「いいわね」
シビルが青ざめる。
「どんどんルールが増えていく……」
しずくはアパートを見る。
「ここ」
「はい」
「魔王城」
私は黙った。
しずくは少し考えて言った。
「正確には」
「間王城かな」




