表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/14

1~4.妖精と魔法少女のゆるい日常 ―はじまり―

1 家賃八千円のアパート


私の名前は風見あやめ。

春から中学生になる、小学六年生だ。


最近、両親が交通事故で他界した。


生命保険のおかげで、すぐ生活に困るわけじゃない。

でも節約できるところは節約したい。


今住んでいるのは、フェアリーハイツ。


大家さんのご厚意で、月八千円で住まわせてもらっている。


大家さんの名前は水森しずくさん。

美人で素敵な、少しおっとりしたお姉さんだ。


部屋は四畳半。


ユニットバス付きトイレと、小さいキッチンと押し入れ。

一人なら全然平気。


最近は授業料が無償化してるらしいけど、高校卒業まで考えると生活費はそれなりにいる。


自炊して倹約だな。


そんなことをぼんやり考えていたら、呼び鈴が鳴った。


ピンポーン。


宅配かな?


ドアを開ける。


――誰もいない。


おかしいな。


そう思った瞬間。


「僕と契約し――」


声がした。


足元から。


視線を下げると、そこにいたのは――


なんか白い生き物だった。


白くて、丸くて、耳が長い。

なんか見覚えのある感じの。


そして白い生き物は、やたら神妙な顔で言った。


「僕と契約し――」


言わせねぇ。


私は反射的に首根っこをつかんだ。


「グエッ!」


白い生き物が変な声を出す。


「何?」


私はそのまま聞いた。


白い生き物は、しばらくもがいたあと観念したように言った。


「えっと……」


「魔法少女になりませんか?」


私は一瞬だけ考えた。


そして聞いた。


「それって、報酬出ます?」


2 労働条件


白い生き物は固まった。


「……え?」


「だから」


私は首根っこをつかんだまま言う。


「報酬」


「えっと……」


「出ます?」


白い生き物はぱちぱちと瞬きをした。


「いや、魔法少女っていうのはですね」


「はい」


「正義の心で――」


「無理」


即答した。


白い生き物はショックを受けた顔をした。


「えぇ……」


「生活費いる」


私は淡々と言う。


「今小学生」


「はい」


「収入なし」


「はい」


「高校卒業まで七年」


「長いですね」


「生活費必要」


白い生き物は黙った。


私は続ける。


「だから」


「はい」


「報酬」


「……」


白い生き物は小さく咳払いした。


「仕事内容を説明してもいいですか?」


「どうぞ」


「魔王を倒してほしいんです」


私は少し考えた。


「危険?」


白い生き物は一瞬だけ言葉に詰まった。


「……戦いです」


「具体的に」


「魔王です」


「説明になってない」


白い生き物は頭を抱えた。


「普通は契約してから説明なんですが……」


「無理」


「ブラック」


「ブラックじゃないです!」


白い生き物は慌てて言った。


「えっと……」


「私はシビルといいます」


「妖精です」


「名前」


私は頷いた。


「風見あやめ」


「よろしく」


「こちらこそ……」


シビルは少し落ち着いてから言った。


「では仕事内容ですが――」


私は手を上げた。


「待って」


「え?」


「労働条件」


シビルの動きが止まった。


「……ろうどう?」


「私はまだ児童」


「はい」


「だから働ける条件がある」


「え?」


私は指を一本立てた。


「十三歳以上の児童は」


「軽い仕事なら例外的に働ける」


シビルは完全に固まった。


「魔法少女ってそういう扱いなんですか?」


「知らない」


私は続ける。


「学校優先」


「はい……」


「平日」


「はい」


「十六時から十七時」


「一時間!?」


「移動時間込み」


シビルは目を見開いた。


私はさらに言う。


「テスト期間」


「はい」


「活動なし」


「えぇ!?」


「テスト勉強期間も」


「魔王待ってくれませんよ!?」


「知らない」


私は肩をすくめた。


「成績落ちると困る」


シビルは頭を抱えた。


私はさらに続ける。


「土日」


「はい」


「九時から十七時」


「長いですね!」


「昼休憩一時間」


「休憩!?」


「労働基準」


シビルは遠い目をした。


「魔法少女ってこんなんでしたっけ……」


私は最後に聞いた。


「あと」


「はい……」


「時給?」


「え?」


「月給?」


「え?」


「私は収入ない」


「……」


「きっちりいただきます」


シビルは完全に黙った。


3 条件確認


それから三十分くらいして。


窓の外から、ばたばたと羽音が聞こえた。


シビルが戻ってきた。

かなり疲れた顔をしている。


「……ただいま戻りました」


「おかえり」


私は鍋をかき混ぜながら言う。


「確認できた?」


シビルは机の上に降りた。


「確認しました」


「まず報酬ですが」


「生活費、出ます」


「よし」


「ただし上限があります」


「いくら」


「月六万円」


私は少し考えた。


「足りる」


シビルは明らかに安心した顔をした。


「よかった……」


私はさらに聞く。


「戦力」


「はい」


「武器」


シビルは紙を見た。


「ありません」


「は?」


「素手です」


私は沈黙した。


「身体能力は上がります!」


「どのくらい」


「ちょっと強い中学生くらい」


「弱い」


私はもう一つ聞く。


「衣装」


「あります!」


光が広がる。


数秒後。


私は鏡を見た。


紺色のジャージ。


胸。


白色の油性マジックの極太文字。


まほうしようじよ


「……」


「どうですか!」


「ダサい」


「機能性重視です!」


私はため息をついた。


「……まあいい」


「戦えればいい」


シビルはつぶやいた。


「史上一番現実的な魔法少女だ……」


4 契約


翌朝。


私はテーブルに肘をついて考えていた。


生活費、月六万円。


家賃八千円。

食費三万円。


「やるしかないか」


そこへシビルが飛び込んできた。


「契約」


「その前に」


「まだあるんですか!?」


「衣装」


「夏」


光が集まる。


半袖。

ブルマ。


胸。


油性マジック。


あやめ


もう一つ。


スクール水着。


胸。


白い布にあやめ


「……」


「衣装です!」


「お前の趣味か」


「違います!」


私はしばらく考えた。


生活費。


六万円。


「……まあいい」


「いいんですか!?」


「生活費」


「強い」


私は手を差し出した。


「契約」


「本当にいいんですね?」


「魔王ですよ?」


私は答えた。


「生活費の方が怖い」


シビルは遠い目をした。


「魔王より現実が強い……」


私はさらに言った。


「成功報酬」


「三百万」


シビルは頭を抱えた。


「交渉強い……」


「生活かかってる」


「……わかりました」


「成功報酬三百万円」


光が広がる。


「契約成立です」


私は頷いた。


「よろしく」


シビルが言った。


「史上一番現実的な魔法少女が誕生しました……」


私はスク水を見た。


胸。


あやめ


そして言った。


「……まず」


「文字」


「どうにかならない?」


シビルは言った。


「油性です」


私は言った。


「最悪だ」


こうして――


私の貧乏魔法少女生活が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ