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偽勇者

作者: 隠れ魚。
掲載日:2025/12/17




 俺の名前は鈴木拓人(すずきたくと)。どこにでもいる、普通の高校生だった。

 

 だが、それはもう五年も前の話。



「タクト? 何水面と睨めっこしてるんですか?」

「ついに気でも狂ったか?」

「人類の希望の勇者様のことだ。きっと魔王の倒し方を考えてくださってるのだろう」


 突然聞こえた仲間たちの声に戸惑いつつ、俺は口を開く。


「お、おう、大丈夫だ。問題ない」

「ならいいけど、悩みがあるなら言ってよ? 一応、パーティなんだし」

「クリス……ありがとう。でも、ちょっと昔を思い出してただけだから」


 俺はすぐに膝についた土を払い、体を起こした。


 そう、俺は今、勇者として活動をしている。


 五年前のあの日、俺は交通事故に遭って死んだ。

 そして、気づけばこの世界にいたのだ。いわゆる異世界転生というやつだったのだろう。



「勇者様の過去……一体何人の方をお救いになられたのでしょうか」


 戯言を呟く神官を横目で睨みつつ、俺たちは旅を再開するのだった。

 向かうのは勇者と縁の深い場所。

 


 城塞都市ルッカ。



 人類が住む都市の内、魔王城に最も近い場所に位置している。

 城塞都市の名に恥じない重厚な城壁が備えられており、その数は三重にも及ぶ。クリーム色のレンガのような素材で構成されたそれは中世ヨーロッパを連想させる。


 まさにファンタジーの世界。


 

 その街の入り口に着くと、十人の門番が待ち構えていた。


「すまん、街に入りたいのだが、手続きをしてくれるか?」


 俺の隣に立つ魔法剣士、ルークが彼らに声をかけた。


 すると、門番はまじまじとルークを見つめ、めんどくさそうに小さくため息をついたのがわかった。

 そのまま、俺の方へと目を向ける。


 その瞬間、彼の両目が大きく開かれた。


 

「た、大変申し訳ございませんでした!!!勇者様御一行とは露知らず。すぐに手続きを済ませますので!」


 そう言うと、すぐに去って行ってしまった。


 そのあからさまな態度の変化に、ルークも思わずため息をつく。呆れた表情を浮かべ、その門番の後ろ姿を見送った。



「……人によって態度を変えるのはどうなんだ?」

「まぁ、このルッカでは魔王城が間近にあるせいで必要な手続きとか確認とかの数が段違いらしいし、めんどくさがるのも仕方ないのかも」

「書類の提出とか、大変そうですもんね」


 俺の言葉に、クリスも何度も頷いて同意を示す。


「流石、城塞都市ルッカ。門番も勇者様の重要性を理解しているのですな!」


 後ろの神官がなんか言っていたが、よくわからない。


 その後、すぐに俺たちは都市に入れるようになった。







「おぉ、なかなかうまいな。こんな食べ物初めてだ。たしか、“たこ焼き”だったか?」

「そうそう、この匂いがたまらないのだよ」


 俺たちは街に入った後、まず、この都市の長に会いに行った。

 長は貫禄があり、厳しそうな人だったが、話してみると案外優しく、城塞都市についてのさまざまな歴史を教えてくれた。

 特にルークのやつが興味津々で、陰で色々質問しているのが見えた。


 その後、長の元を離れた俺たちは美味しそうな匂いに釣られ、気づけば屋台の前に立っていたのだった。




 俺はハフハフとたこ焼きを食べつつ、熱気を孕んだその香ばしい香りを堪能する。外はカリッと中はとろりとしたその差もたまらない。

 ルークも俺も、あっという間に虜になった。


 無我夢中で食べていると、遠くから二人を見つめる視線が一つ。勇者パーティの魔法使い、クリスだ。

 その隣には、鳩に群がられてる神官がいる。


「むぅ、二人だけずるいです! すみません!私とこっちの神官にもください!」

 

 クリスは元気よく店主にたこ焼きを三人分注文した。


 どうやら、一人で二つ食べるつもりのようだ。



「クリス、魔法使いが剣士より食い意地張るのはどうなんですか……」

「う、うるさいな。美味しそうなんだから仕方ないでしょ!」


 ほおを膨らませたクリスに肩をペチリと叩かれた。


 その様子を見て、店主は苦笑いを浮かべる。頭をすっぽりと覆う、幾何学模様のバンダナが特徴的だった。



「ははは、お前たちは随分と仲がいいようだ。見たところ冒険者のパーティ……いや、もしかして勇者パーティか?」

「はい、魔王を倒す旅の最中です! あっちにいるのが勇者タクトですよ」

「へぇ、彼がそうか……真面目そうで好印象が持てるな」


 そんな店主とクリスの会話に耳を傾けつつ、俺はたこ焼きを平らげた。


 数分待つとたこ焼きが出来上がったようで、クリスは店主からたこ焼きを受け取っていた。そして、そのうちの一つが神官へと渡された。

 彼は満面の笑みでそれを受け取り、爪楊枝をたこ焼きに突き刺すのが見えた。


 その後、たこ焼きを鳩の口へと運ぶのが見えたが、きっと気のせいだろう。



「美味しいたこ焼き、ありがとうございました! また食べにきますね!」


 満面の笑みで店主にそう告げるクリス。

 それにつられ、店主も思わず笑みを浮かべる。


「おう! 待ってるからな。魔王討伐、頑張れよ!」



 店主の励ましの言葉を背中に受けて、俺たちは屋台を後にする。


 店主は徐々に小さくなっていく勇者一行の背中を、見えなくなるまで見続けていた。

 その表情は、どこか哀れんでいるようにも見えた。







 街を出た俺たちは、魔王城へと続く山道へと足を踏み入れた。街の活発な雰囲気とは打って変わって、不気味な雰囲気が辺りに漂っている。

 空を見上げても、鳥なんて微塵も見当たらない。


 その道中、俺は隣を歩くルークへと声をかけた。


「それにしても、魔王城の近くの街なのにあんなに栄えるものなんだな。もうちょっと暗い雰囲気かと思ってた」 

「なんでも、初代勇者の張った結界が今も効いてるらしいぞ」

 

 魔法剣士はどこで知ったのか、初代勇者の話を出してきた。



「初代勇者の力はまさに神の奇跡そのものだったらしい。刀を振れば大地が割れ、海が引き、空が裂けるだとかそういう話をよく聞く」

「それ、事実なのか? 人間離れしすぎだろ」

「さぁ? 真実は神のみぞ知るってやつだ」


 

 ルークと雑談しながら歩いていると突然、後ろから裾を引っ張られた。顔を向けると、そこにはクリスの姿がある。


「タクト、魔王城が見えてきましたよ」


 

 その言葉を受け、俺とルークはクリスの指差す先へと視線を向けた。


「おぉ、でかい……」



 一つの山ほどの大きさのある魔王城。そこは常に暗闇に包まれ、雷が高頻度で降り注いでいる。


 鳴り響く不気味な音。


 照らされる漆黒の壁。


 昔、勇者に迫る力を持つとされた剣豪でさえも、魔王に会う前に雷で打たれて気絶してしまったのだとか。



「本当に行けるのかな……」



 思わずそう溢してしまう。



「大丈夫です。タクトは勇者なんですから、胸を張って突っ込めばいいんです!」


 クリスはそう励ましてくれたが、それは俺にとっては逆効果だった。

 魔王という圧倒的な存在を前にして、かつてないほどの不安な感情が心の中をかき乱す。




「おい、タクト。魔物だ」


 ハッ、とルークの声が沈みかけていたタクトの心を呼び戻した。慌てて聖剣を鞘から引き抜き、そのまま正眼に構える。



「あれは……パズズ?」

 


 目の前には魔王城の門番と呼ばれる魔物、パズズがいた。



「どうやら、ここはすでに魔王のテリトリーのようだ。タクト、行くぞ」

「お、おう」


 俺とルークが先陣を切り、パズズに向かって一直線に突っ込んでいく。

 遅れて、神官とクリスも駆けつける。



 五分で勝負は決した。



 パズズは両腕をルークに切り飛ばされ、クリスの魔法で幻想を見させられる中、俺に心臓を貫かれて死亡した。



「た、倒した……」



 無惨な姿となったパズズを見て、呟けたのはその一言だけだった。

 一歩間違えていれば、命はなかった。


 戦場では、死ぬリスクは常に発生する。



「どうやら、安心するのはまだ早いみたいだぞ」


「え?」



 ルークが見据える先には、何百ものパズズが押し寄せてきていた。


「……けほっ」


 その土煙が風に乗せられ、俺は思わず咳き込んだ。









『無理だ。君には出来っこない』



 無心で刀を振るう中、誰かがそう言ったのが聞こえた。



「タクト? 大丈夫か?」



 ルークが心配そうに尋ねてくる。


 その表情にまた不安が煽られる。


 それを誤魔化すかのように、刀をいつも以上に力を込めて振り回した。

 同時に、五体のパズズの首が飛ぶのが見える。


 だが、その合間を縫うようにして、一体のパズズが俺へと腕を伸ばした。

 そいつは他の個体と比べて体がデカく、爪も鋭利。おそらく、パズズの進化個体と呼ばれるものだろう。

 その鋭い爪が、俺の胸元を貫こうとしている。


 すかさず、鞘へ聖剣をしまう。


 それは抜刀術、あるいは居合と呼ばれる構え。


 瞬きする間もなく、パズズの腕を切り落とした。


 返す刀で首を刎ねると、その巨体は動きを止めた。


 

「……うっ」


 突然の頭痛に、思わず顔を歪める。



『どんなに必死に刀を振るえど、君は所詮、紛い物だ』


 また、誰かの声が頭の中で響いた。



 周りを見渡しても、必死に戦う仲間しか見当たらない。


 幻聴? それとも、自分の心の声?


 ……よく分からない。



 目眩がし、思わず崩れそうになるところを見て、一匹のパズズがタクトへと迫る。

 そして、鋭利な爪で首を狙った。


 切り傷だらけで、疲労が溜まり切った肉体に鞭を打ち、その一体の首をやられる寸前で刎ねた。

 一瞬でも遅れていたら、そうなっていたのは自分だったに違いない。



 はぁ、はぁ、はぁ。

 


 思わず地面に膝をつく。剣を支えにして、何百もの死体に囲まれながら、息を整える。嫌な匂いが鼻から離れない。


 そして、みんなへと視線を向けて言った。



「これ以上は、無理だ……一旦撤退しよう」




 俺は完全に魔王城の雰囲気に呑まれていた。







―――



 

 月が夜空に浮かぶ、深夜の時間帯。俺たちは皆、撤退した後、宿で疲れを取ることにした。

 今日の戦いでは一応、パズズの大半を倒すことができた。

 この調子なら、明日は魔王にまで辿り着くことも十分に可能だろう。

 そのためには、休むことは欠かせない。


 みんなが寝静まる頃、俺はぼーっと窓辺に座り、そんなことを考えていた。


 すると、ルークが突然声をかけてきたのだった。



「寝なくていいのか? 明日は決戦だぞ?」



 俺はルークの方へ顔を向けず、夜空を見上げたまま口を走らせる。


「寝ないんじゃない。眠れないんだよ」


「……そうか」


 それっきり、ルークは何も言わなくなった。


 しばらく、辺りは静寂に包まれる。







 カチャ。


 突然、金属音が響いた。


 ふと、顔を向けると、そこには宿の鍵を持つルークの姿があった。



「……タクト。少し出かけないか?」


 いつになく真剣な表情だった。






 


 夜の街は綺麗だ。


 暗闇の中にぽつりぽつりと浮かぶ魔法の灯り。


 水面に映る月の光。


 宿屋の窓から漏れる人の光。


 様々な光がひっそりと存在している。そんな幻想的な景色を一歩一歩踏み締めて歩く。


 ……明日には、もう味わえないかもしれないしな。



「少しは落ち着いたか?」


 ルークは俺の顔色を伺いながらそう言った。


「……あぁ、心配かけて悪かった。おかげで少しマシになったよ」


 頰を掻きながらそう答える。そして、ポツリと言葉を漏らす。



「明日はいよいよ魔王との対決だってのに……何やってんだろうな、俺」



 それは決して大きい声ではなかったが、ルークの耳にはしっかりと届いていた。

 しかし、何も言わない。


 俺も、ルークを振り返りもせず歩き続けた。

 無意識のうちに、足の運びが早くなる。



「勇者は、折れないから勇者なのに」



 ルークはまた、何も言わない。


 だが、突然、俺の腕を掴んだ。


 思わず、前へ前へと向かう足が止まる。


 

「なぁ、タクト。前々から思ってたことなんだが……」



 そこで、ルークは言葉を切った。


 数秒の空白の後、ルークは意を決して言う。



「タクト、お前、本当は勇者じゃないんだろ?」


「は?」


 






「な、何言ってんだよ……俺が、勇者じゃない? 冗談は笑って言えよ……」


 驚きと焦り。それが胸の中をかき乱す。次の言葉が喉を出るまで何秒もかかった。その言葉も、途切れ途切れで聞き取りにくい。


 背中を冷や汗が伝うのがわかる。


 緊張に押しつぶされそうな心を奮い立たせるかのように、声を張り上げて言葉を繋げた。



「そもそも、お前だって知ってるだろ!?」



 そう言った後、俺は自分の髪の毛を指さす。

 自分でも、声が震えてるのがわかった。



「黒髪は、勇者の証なんだって……」



 そう、力無く呟くのが精一杯だった。




「俺は別に、タクトを責めたくて言った訳じゃない」



 ルークはそう断言した。


 その言葉に一切の迷いはなく、同時に、ルークの中では俺が勇者でないことは確信に限りなく近いのだと理解できた。


 何も言えずにいると、ルークは更に言葉を続ける。


「俺は、お前のことをすごい奴だと思ってるし、世界で一番信頼している。それこそ、勇者と言われても納得できるくらいにな」


 そう言うと、ルークはぽつりぽつりと語り始めた。


 冒険者として活動していた時、俺と森の中で出会った際は本当に驚き、思わず剣を抜きそうになったこと。


 一緒に二人で旅をしている間、一緒にワイバーンの大軍に襲われた時、死んだと思った。だが、タクトがいたおかげで乗り切れたこと。


 とあるパーティに捨て駒にされていたクリスを見かけた時、迷いもなく助けに入ったタクトをすごいと思ったこと。



「黒髪は勇者の証だと告げられた時は驚いた。だが、同時に疑問にも思った。なんで、勇者があんな森にいたのかってな」



 ルークは横目でこちらを見ながら話を続ける。



「聞いてみれば、気づいたらそこにいたんだろ? 勇者ってのは聖国の決まった貴族の元にだけ生まれる、一族の呪いのようなものだ。その勇者が失踪したなら、世界的に報じられて捜索が始まるはず。……だが、そうはなってない。そうだろ?」


「……」


「それに、タクトの所作は貴族の“き”の字もないしな!」


「……喧嘩なら買いますよ?」

 

 恨みがましくそう溢すと、ルークは笑いながら言った。


「だから、タクトはそんな風に素でいて欲しい。ただの人間でも、俺は構わない」


 

 夜の冷えた風が二人を吹き付ける。

 ルークは街灯の下でピタリと足を止め、タクトの目を見据えた。そして、大きくも小さくもない声ではっきりと言った。


 

「お前はお前だからいいんだよ、タクト」



「勇者でなくても、いいんですか?」


「良い」


「怖く、ないんですか?」


「何がだ?」


「勇者じゃない人と、魔王と決戦に臨むことが」


「怖くない」


 

 季節は冬。


 辺りをちらちらと雪が舞い落ちる。


 地面へ触れた瞬間に消え、また別の白が触れる。


 極寒の夜の街の中、肌を指すような寒さをおくびにも出さず、ルークははっきりと、言った。



「勇者なんていう舞台装置じゃない、ただの英雄になろうじゃないか。せっかくの旅だ。思い出は多い方がいい。そうだろ?」


 ルークはそっと手をこちらに差し出す。

 

 俺は何も言わず、その手を掴み、握り返した。


 











 翌朝、身支度を終えた俺たちは魔王城に行く前に、とある場所へと向かった。


 場所はそう、あの美味しいたこ焼きの屋台だ。



「らっしゃっせー!……おぉ、お前たち、またきてくれたのか!」



 昨日でもう屋台を終えた可能性も考えたが、店主は今日も元気に、幾何学模様のバンダナと共に屋台を続けていた。

 俺も、出来るだけ元気な声で声をかけた。


「店主さん、たこ焼きを五つください!」


「おう、任せとけ!」


 

 香ばしい匂いに腹を空かせながら、待つこと十分。


 店主はできたての五パック分を渡してくれた。


 容器からも、その熱々さは伝わってくる。



「ありがとうございます!」


「おう! また来てくれよ!……ん? もしかして、ついに魔王討伐へ向かうのか?」


「はい! 無事、魔王を倒しますから、楽しみにしててください」



 笑みを浮かべてそう言うと、店主は顎に手を当てて少し何かを考え始めた。


 そして、何を思ったか、「ちょっと待っててくれ」と言って屋台の奥へと引っ込んだ。



「なにかあるのか?」


「タクトにプレゼントとかかもな」


「まさか……たこ焼きをサービスしてくれるとか!?」


「クリスは根っからの食いしん坊だったか……」


 ルークと俺は苦笑いを浮かべ、クリスは不満げに頰を膨らませて抗議する。


「きっと、勇者様のサインを求めてるに違いありません!」


 などと意味不明なことを言う神官も一人いた。



 五分くらい経つと、店主が出てきた。


 その手には何やらお守りのようなものが握られている。



「それは……?」


「これは、お前らへの餞別。お守りという奴だ。身につけたら、気休め程度にはなるんじゃないか?」


「なるほど」


 俺は店主から大事に受け取り、四人全員に一つずつ渡した。そして、みんなで首にかけ、お揃いにする。


「こんなものまでくださって、ありがとうございます! 絶対に魔王を倒しますから!」

 

 

 クリスがそう言うと共に、俺たちはみんな揃って店主に頭を下げて感謝した。


 そして、ついに魔王城へと向かうのだった。





「ルーク、覚悟はいいですね?」

「おう! いつでもいいぞ」


 巨大な闇の門。ルークとタクトが手を添える。

 その後方ではクリスが弓を構え、神官はメイスを握りしめている。

 視線を向けると、二人は大きく頷いた。



 準備は万端。



「さて……間違えても単騎で突っ込んだりしないようにしてくださいね、ルーク」


「……するわけないだろ」


「魔法剣士は戦闘狂。内にある悍ましい殺戮欲求を抑えられない、でしょ?」


「なわけあるか!」


 ルークは声を大にして無実を主張する。

 そして、タクトの戯言に思わずため息をこぼした。


 だが、唇の端は僅かに上がっている。



「まったく……元気なやつだ」


 魔法剣士、ルーク。



「タクト、緊張してる?」


 魔法弓使い、クリス。



「伝説の幕開けですな」


 そして、教会から派遣された、神官。


 勇者パーティは世界を救う一歩を踏み出す。


 その顔にはもはや一切の恐れはなかった。


 

「行こう、世界を救いに!」



 その言葉を境に、二人が門を押す。


 勇者一行、最後の舞台が始まった。


 









「そろそろかね」


 たこ焼き屋の店主は一人、店番をしながらそう溢した。


 その手には彼らから受け取った小銭が握られている。

 それらは手の中で転がされ、時折金属の音が奏でられる。


 ジャラ……


 ポケットの中に手を突っ込み、立ち上がる。


 店主は『営業休止中』と書かれた立札を表に建て、屋台の裏へと引っ込んでいった。


 彼のトレードマークとも言える、幾何学模様のバンダナ。


 それをそっと外し、近くのハンガーにかける。



 場所は灯りに照らされる屋台裏。


 店主は夜の城塞都市に目を凝らした。


 夜の風にあてられ、その黒い髪の毛が静かになびいていた。


 



 


 

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