第3話 追放令嬢の優雅な盗賊討伐とティータイム
冒険者登録から三日後。
わたくしは、ギルドの依頼掲示板の前で悩んでおりましたわ。
「薬草採取……いえ、これは報酬が少なすぎますわね」
「魔物の素材回収……これも微妙ですわ」
「森の盗賊団討伐……報酬は銀貨五十枚、まあまあですわね」
ぴぎぃ?
ピギィが帽子を揺らしながら、わたくしを見上げてきます。
「ええ、ピギィ。これにいたしましょう」
わたくしが依頼書を手に取ると、隣にいた冒険者――髭面の大男――が驚いた顔をしましたわ。
「お嬢ちゃん、それはやめときな。盗賊討伐は銅ランクには厳しいぜ」
「まあ、ご忠告ありがとうございますわ。でも大丈夫ですの」
「大丈夫って……あんた、戦闘経験は?」
「三日前に、グレイウルフ五匹を撃退いたしましたわ」
「……マジかよ」
大男は呆れたように頭を掻きました。
「まあ、止めても聞かなそうだな。気をつけろよ」
「ありがとうございますわ」
わたくしは優雅に一礼し、受付へ向かいました。
───
森へ向かう道中、わたくしはピギィと作戦会議。
「盗賊団のアジトは、森の北部にあるそうですわ。人数は十名前後とのことですけれど」
ぴぎぃ!
「ええ、わたくしが魔法で牽制して、あなたが炎で――」
かぷぎぃ!
ピギィは意気揚々と頷きました。
頼もしい相棒ですわね。
それにしても、この森。
木々が鬱蒼と茂り、昼間なのに薄暗い。
魔物の気配もそこかしこに感じられますわ。
「……まあ、盗賊がアジトを構えるには最適な場所、ということですわね」
しばらく歩くと、視界が開けました。
そこには粗末な木造の小屋が数棟。
周囲には見張りらしき男が二人。
「あれが、盗賊団のアジトですわね」
わたくしは物陰に隠れながら観察します。
見張りは明らかに油断しておりますわ。
一人は居眠り、もう一人は何か食べながらぼんやりと。
「では、参りましょうか」
わたくしは堂々と歩み出ました。
ぴぎぃ!?
ピギィが慌てて止めようとしましたけれど、遅いですわ。
「ごきげんよう、皆様」
わたくしが優雅に手を振ると、見張りの二人が飛び上がりました。
「な、何だお前!?」
「わたくしは冒険者のクラリッサと申しますわ。本日は、皆様を討伐させていただきに参りましたの」
「……はァ?」
見張りの一人が間抜けな声を出しました。
無理もありませんわね。ドレス姿の令嬢が「討伐しに来た」なんて言うのですもの。
「お、おい!変な女が来たぞ!」
もう一人が小屋に向かって叫びます。
すると、ガラガラと扉が開き、次々と盗賊たちが出てきましたわ。
ざっと数えて……十二名。情報より少し多いですわね。
「何だ何だ、お嬢ちゃんが討伐だって?」
「ひゃはは!面白れぇ!」
盗賊たちが下品に笑います。
わたくしはため息をつきました。
「皆様、降伏なさる気はございませんの?」
「するわけねぇだろ!逆にお前を人質に――」
「では、仕方ありませんわね」
わたくしは右手を掲げ、魔力を集中させました。
「――《アクア・スパイラル》!」
指先から螺旋状の水流が放たれ、先頭の盗賊三名を吹き飛ばします。
「うわあああ!?」
「な、何だこの女!?」
残りの盗賊たちが武器を構えますけれど、わたくしは冷静に次の魔法を。
「《エアランス》!」
風の槍が横薙ぎに放たれ、左側の盗賊四名を薙ぎ払いますわ。
「ぐああああ!」
「ば、化け物かこいつ!」
「ま、まだ五名おりますわね」
わたくしは残りの盗賊たちを見据えました。
すると、盗賊のリーダーらしき男が叫びます。
「くそ、魔法使いか!なら、こっちも飛び道具だ! 弓を持て!」
部下たちが慌てて弓矢を取り出し、一斉にわたくしへ向けて――。
「《フレアアロー》!」
わたくしの方が速かったですわ。
炎の矢が五本、それぞれの盗賊に命中。
彼らの服に火が燃え移り始めます。
「あちちちち!」
「消せ!水だ、水!」
盗賊たちが慌てふためく様子を見て、わたくしは優雅に宣言いたしました。
「皆様、これから爆発いたしますわよ?――《バースト》!」
ーードカァァァン!
一人目の盗賊の周囲で、フレアアローが爆発。
彼は吹き飛ばされ、地面に倒れましたわ。
「ひ、ひいいい!」
「に、逃げろぉぉぉ!」
残りの盗賊たちが逃げようとしますけれど。
「まだ四名残っておりますわね。では――《フルバースト》!」
ーードガガガガァァァン!
四つの爆発が連鎖し、森中に轟音が響き渡りました。
煙が晴れると、そこには黒焦げになった盗賊たちが転がっておりますわ。
もちろん、気絶しているだけで命に別状はございません。侯爵令嬢としての加減は完璧ですわよ。
「さて、これで――」
わたくしがそう言いかけた時。
ガサガサッ!
小屋の影から、まだ三名の盗賊が飛び出してきましたわ!
彼らは弓を構え、わたくしに狙いを定めて――。
ぴぎぃぃぃぃぃ!
その瞬間、ピギィが猛烈な勢いで飛び出し。
ゴォォォォォォッ!
三人まとめて、火炎で吹き飛ばしましたの!
「きゃああああ!」
盗賊たちは黒焦げになって倒れました。
「ピギィ、完璧なタイミングでしたわ!」
かぷぎぃ!
ピギィが得意げに胸を張ります(張っているように見えますわ)。
「では、ギルドに報告いたしましょう。それと――」
わたくしは銀のティーセットを取り出しました。
「まずは紅茶で一息、ですわね」
───
盗賊たちを縄で縛り、ギルドの護衛に引き渡した後。
わたくしたちはギルドの受付で報酬を受け取りました。
「銀貨五十枚、確かに」
受付嬢が感心したように言います。
「まさか、本当に一人で盗賊団を全滅させるなんて……しかも、ティータイムまで楽しんで」
「ええ、戦闘後の紅茶は格別ですわ」
わたくしが答えると、周囲の冒険者たちがざわめきました。
「あれが噂の紅茶令嬢か……」
「盗賊十五人を一人で倒したってマジかよ」
「しかも、戦闘中も優雅だったらしいぜ」
「スライムが炎を吐くって話も本当なのか?」
ぴぎぃ!
ピギィが誇らしげに鳴きました。
その日の夕方。
わたくしが宿屋で紅茶を楽しんでいると、宿の主人が話しかけてきましたわ。
「お嬢さん、街中で噂になってますよ。《紅茶香るお貴族冒険者》って」
「まあ、そんな二つ名が?」
「ええ。優雅に戦って、戦闘後は紅茶を楽しむ貴族様の冒険者だって」
「……まあ、間違ってはおりませんわね」
ぴぎぃ!
ピギィが嬉しそうに跳ねます。
「それと、《炎を吐く帽子スライム》も一緒に有名になってますよ」
かぷぎぃ!
ピギィが帽子を揺らして喜んでおりますわ。
「ふふ、これも予想外の展開ですわね」
わたくしは紅茶を一口飲み、窓の外を眺めました。
夕日に染まるアーシェの街。
まだ荒れ果てた辺境ではありますけれど――。
「ピギィ、わたくしたち、なんだか良いスタートが切れた気がいたしますわ」
ぴぎぃ!
「ええ、この調子で頑張りましょう。いつかこの街を、素敵な場所に変えて差し上げますわよ」
――元悪役令嬢の、新たな野望。
それは、破滅フラグを踏み抜いた先で見つけた、新しい夢。
紅茶とスライムと共に、辺境で国を作る――。
まだ誰も知らない、クラリッサ・フォン・ヴァルシュタインの物語が、今、静かに動き始めましたの。
「さて、次の依頼は何にいたしましょうか。ピギィ、明日もティータイムを忘れずにですわよ?」
ぴぎぃぃぃ!
夕日の中、紅茶の香りと共に、二人(?)の笑い声が響いておりましたわ。




