序章 悪役令嬢、見事に破滅しましたわ!
わたくしの名前はクラリッサ・フォン・ヴァルシュタイン。
由緒正しき侯爵家の令嬢にして、美貌・知性・教養の三拍子を兼ね備えた、未来の王妃候補……になるはずでした。
――なるはずでしたのよ。
だって、わたくし、この世界が乙女ゲームの舞台だと知っていたのですもの。
転生者として、シナリオもフラグもおおよそ把握済み。
ヒロインが王子と結ばれるまでの道筋も、悪役令嬢たるわたくしがどう破滅するかも。
「なるほど、つまりあれを避けて、これを潰して、あれを握りつぶせば……」
わたくしは万全のつもりで、未来のために立ち回ってきました。
けれども――結果をご覧になって。
婚約破棄。
財産没収。
そして国外追放。
……なんということでしょう。
見事にゲーム通りのバッドエンド・コンボ三点セットを踏み抜きましたわ!
⸻
「クラリッサ・フォン・ヴァルシュタイン!そなたとの婚約は破棄する!」
玉座の間に響き渡る王太子殿下の声。
お決まりの展開ですわね。わたくし、思わず笑みがこぼれてしまいましたの。
だって、ほら。
普通なら悪役令嬢は「そんなはずはございません!」と泣き喚くものですけれど、わたくしの場合は――
「まあ、殿下。やはりこうなりましたのね」
そう、半ば自業自得を悟っておりましたの。
だって、ヒロインに意地悪するつもりはなかったのですわ。
ただ、「彼女がいじめられるイベント」を潰そうとして……少々行き過ぎた“予防線”を張っただけ。
結果。
「ヒロインを孤立させる嫌がらせ」と記録され。
「彼女を庇う殿下」という好感度爆上がりイベントに繋がり。
――つまり、わたくしが“踏み抜いて”差し上げましたのよ。
未来の破滅フラグを!より強固に!ええ、どんとこい!
⸻
そして、さらに追い打ちをかけるように――
「クラリッサ・フォン・ヴァルシュタイン、王都の社交界から永久に追放とする!」
「加えて、その名を王都記録より抹消せよ!」
ほらほら、追加オプションまで揃いましたわ。
拍手喝采!ご丁寧に“悪役令嬢フルコース”の完成ですのね。
……あら、まぁ。形式的制裁を重ねてくださるなんて、まるで見世物ですわ。
(社交界?記録?どうせ国外追放なのですもの、意味などございませんのに)
と、内心くすりと笑ってしまいましたの。
観衆の令嬢たちはざまあみろと目を輝かせ、殿方たちは冷ややかな視線。
――けれども、妙に清々しかったのですわ。
「ふふ……ええ、承知いたしましたわ。すべて、ゲーム通りですものね」
その瞬間、周囲が「ゲーム?」と首を傾げましたけれど……まあ、気にしないことにしました。
⸻
そして今、わたくしはガタゴトと馬車に揺られながら、荒れ果てた辺境へ向かっております。
一応「処刑」ではなく「追放」という温情を賜りましたが……。
「処刑よりはマシ、ということですわね」
窓の外に広がるのは、荒野と森と……たまに盗賊。
どう見ても「人が暮らす土地」ではございません。
ですが――わたくし、ふと思いましたの。
ここからが本当の物語の始まりなのではなくて?
悪役令嬢クラリッサ。
破滅フラグを真正面から踏み抜いた女。
このわたくしが、辺境で何を築き上げるか……。
「まあ、せっかくの追放ですもの。ついでに国でも作って差し上げましょうか」
――そんな冗談を呟いたわたくし自身が、一番驚くことになるなんて、このときは夢にも思いませんでしたの。




