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第24話 外交で完全勝利

翌日。

正式な交易協定の調印式が、執務室で行われることになっていました。


「では、これより《辺境自由連合》と王国の間の交易協定に関する、最終交渉を行います」


オズワルドさんが、司会進行をしてくれます。

アルベルト王太子の隣には、王国から派遣された商務大臣が座っていますわ。

その顔は、かなり不満そう。


「ところで」

商務大臣が、いきなり言いました。


「《辺境自由連合》とやら、本当に独立国家なのですか?」

「ええ、独立国家ですわ」


わたくしが、涼しい顔で答えました。

「王国の国境をはるか南に超えた土地に存在する、完全なる自治国家ですわ」

「ふむ」


商務大臣が、眉をひそめました。

「しかし、王国の領土であった土地を、勝手に独立させるなど……」

「失礼ですわ」

わたくしが、ピシャリと言いました。


「わたくしたちが統治する土地は、王国の領土ではなく、王国の国境をはるか超えた、誰のものでもない荒れ地でありました」

「そ、それは……」

「ですから、わたくしたちが独立国家を建国することは、何ら問題ないのですわ」


わたくしが、優雅に言いました。


「それとも、王国は、『所有していない土地を自分たちのもの』と主張するつもりですの?」

「い、いえ、そんなことは――」

商務大臣が、あたふたします。


「それでしたら、交渉を続けますわ」

わたくしは、紅茶を一口飲みました。

「ふふ、紅茶が冷めてしまいますわね」


ぴぎぃぃぃ!

ピギィが、わたくしを援護するように跳ねます。


「ところで、王国商会の提示された金額ですが」

オズワルドさんが、資料を広げました。


「月に金貨五千枚というお話でしたが、これは妥当な金額ですか?」

「当然だ」

商務大臣が、胸を張りました。


「《アーシェ・ブレンド》の販売により、王国が得られる利益を考えれば――」

「いえ、足りませんわ」

わたくしが、冷たく言いました。


「月に金貨五千枚では、わたくしたちの製造コストを考えれば、利益がほぼ出ません」

「な、何だと!?」


「茶葉の栽培、乾燥、焙煎、ブレンド、梱包、運送――」

オズワルドさんが、詳細に説明します。


「全てを考慮すると、月に金貨八千枚が最低限の価格です」

「八千枚!?」

商務大臣が、声を上げました。


「そんな高額、王国が払えるはずがない!」

「それは、王国の財政状況の問題ですわ」

わたくしが、涼しく言いました。


「わたくしたちには関係ございませんわ」

「ですが――」

商務大臣が、言い張ります。


「《アーシェ・ブレンド》がなくても、王国は困りません」

「ふふ」

わたくしが、微笑みました。


「本当ですの? では、王国の貴族たちは、誰が紅茶を供給するおつもりですの?」

「それは――」


「現在、王国内では、《アーシェ・ブレンド》をめぐる争奪戦が起きているとお聞きしましたが」

わたくしが、優雅に言いました。


「もし、わたくしたちが供給をやめれば、王国内はパニックになるでしょうわね」

「脅迫ですか!」

商務大臣が、怒ります。


「脅迫ではなく、事実ですわ」

わたくしが、冷たく言いました。


「お茶の温度が下がるような話はお控えくださいませ」


ぴぎぃぃぃ!

ピギィが、わたくしの冷笑に同調するように、小さな炎を吐き出しました。


「ひいい!」

商務大臣が、椅子から転げ落ちました。


「スライムが炎を!」

「ピギィ、落ち着きなさい」

わたくしが、ピギィを優しく撫でました。


「本当にお気の毒ですわ。このような交渉は、市民たちをお怒らせします」

わたくしは、更に冷たく言いました。


「王国は、わたくしたちに申し訳ない態度で臨まれているおつもりですのに」

「ああああ、そ、そうだ!」

商務大臣が、顔色を変えました。


「わたくしは、失礼をいたしました!」

「そうですわね」

わたくしが、さらに追い打ちをかけます。


「かつて、わたくしを追放した王国が、今、わたくしに対して傲慢な態度で臨まれるとは」

「申し訳ありません!」

商務大臣が、土下座しそうな勢いで、何度も頭を下げました。


「では、月に金貨八千枚でよろしいですですわね」

「はい、承知いたしました!」

わたくしが勝利の微笑みを浮かべました。


ぴぎぃぃぃ!

ピギィが、小さく炎を吐いて、祝います。


「ところで」

わたくしが、さらに言いました。


「運送費についても、若干の調整が必要ですわね」

「運送費?」


「ええ。《アーシェ・ブレンド》を王国まで安全に運ぶには、護衛隊が必要ですわ」

わたくしが、涼しく言いました。


「その護衛費を、王国商会でお持ちいただきたいのですわ」

「護衛費!?」

「ええ、月に金貨千五百枚程度でよろしいでしょう」

わたくしが、笑みを浮かべました。


「つまり、全て合計すると――」

わたくしが、計算しました。


「月に金貨九千五百枚、ですわね」

「九千五百!?」

商務大臣が、倒れそうになりました。


「ですが、これは最低限の価格ですわ」

わたくしが、さらに追い打ちをかけます。


「もし、王国が不満でしたら、わたくしたちは隣国や、北方の王国に、独占販売権を譲渡いたしますわ」

「そ、そんな!」

商務大臣が、大慌てで手を上げました。


「わかりました、わかりました! 月に金貨九千五百枚でいいです!」

「ふふ、いい判断ですわね」

わたくしが、紅茶を一口飲みました。


「では、これで決定いたしましょう」



その日の午後。

正式な契約書に、両国の代表が署名しました。


サラサラッ

わたくしが署名すると――。


「お疲れ様でした、クラリッサ様」

オズワルドさんが、満足げに言いました。


「月に金貨九千五百枚。年間で金貨百十四万枚の収入ですね」

「素晴らしいですわね」

わたくしは、微笑みました。


「これで、わたくしたちの国は、さらに発展できますわ」

「クラリッサ」

アルベルト王太子が、近づいてきました。


「いや、本当に見事だった」

「何がですの?」

「お前の外交交渉」

アルベルト王太子が、感心した様子で言いました。


「あの商務大臣は、王国内でも有数の交渉人だったんだが」

「そうですの?」

「ああ。だが、お前は完全にやり込めた」

アルベルト王太子が、笑いました。


「『お茶の温度が下がるような話はお控えくださいませ』か」

「ふふ」

わたくしが、微笑みました。


「紅茶を大切にする身として、当然の対応ですわ」


ぴぎぃぃぃ!

ピギィも、誇らしげに跳ねています。


「ところで」

アルベルト王太子が、真摯な顔になりました。


「父上から、正式な通達をいただきました」

「通達?」

「ああ。《辺境自由連合》を、王国と同等の国家として扱う、という通達だ」

「同等?」

「ああ。つまり、お前は、王国の国家代表として扱われるということだ」


アルベルト王太子が、わたくしに一礼しました。


「クラリッサ・フォン・ヴァルシュタイン様。わが国は、貴殿を《辺境自由連合》の国家代表として認定いたします」

「まあ……」

わたくしは、思わず言葉を失いました。


国家代表として認定される。

つまり、わたくしは、王国と対等な立場で外交を行う権利を持つということですわ。


破滅フラグを踏み抜いた元悪役令嬢が、今や国家代表。

何という人生の転変。


「ありがとうございますわ、アルベルト」

わたくしが、深く一礼しました。


「王国の、そしてアルベルト様の御厚意に、感謝いたしますわ」



その夜。

《ぷにぷに喫茶》は、大いに盛り上がっていました。


外交交渉の勝利を祝う、スタッフたちの歓声。


「クラリッサ様、見事です!」

「あの商務大臣を、完全にやり込めましたね!」

「月に金貨九千五百枚!」

「素晴らしい!」


「ところで、オズワルド」

わたくしが、新たな課題について聞きました。


「この金貨で、次に何をいたしましょうか?」

「そうですね」

オズワルドさんが、書類を取り出しました。


「次は、《辺境自由連合》の通貨発行と、中央銀行の設立を提案します」

「通貨発行!?」

わたくしは、思わず叫んでしまいました。


「また新しい計画ですの!?」

「当然です」

オズワルドさんが、ニヤリと笑いました。


「クラリッサ様、わたしたちの国は、ますます大きくなっていくのです」

「ああ、疲れますわ」

わたくしは、ため息をつきました。


けれども、心の中では――少し、ワクワクしていますわ。


新しい挑戦。

新しい夢。

そして、仲間たちと共に歩む、確かな人生。


「ふふ、まあ、頑張りましょう」

わたくしは、紅茶を一口飲みました。

「紅茶があれば、何でもできますもの」


かぷぎぃ!

ピギィが、わたくしの決意を支持するように、跳ねました。


──こうして、《辺境自由連合》は、国際舞台での立場をさらに確固たるものにしたのですわ。

破滅フラグを踏み抜いた元悪役令嬢が、今や国家代表として、大国と対等に交渉する。

何という不思議な物語。

けれども、それがまた、人生という舞台の素晴らしさなのですわ。


窓の外、夜空に輝く星々。

《茶の香る国》は、着実に世界へ認知されていきました。

紅茶と共に。 仲間たちと共に。 そして、冷たい笑いと強かな交渉力を武器に――わたくしたちの国は、確実に歩を進めていくのですわ。

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