第22話 英雄認定
ピギィの巨大化による魔物一掃から一週間。
わたくしとピギィは、ようやく療養から回復いたしましたわ。
「クラリッサ様、お体の具合はいかがですか?」
マリア先生が、最終検査をしてくれました。
「ええ、もう完全に回復いたしましたわ」
ぴぎぃ!
ピギィも、元気に跳ね回っています。
「では、外出してもよろしいですね」
「ありがとうございますわ」
わたくしはティーセットを持ち、ピギィと共に、医療施設を後にしました。
─
街に出ると――。
「あ、クラリッサ様だ!」
「ピギィちゃんだ!」
市民たちが、わたくしたちを見つけると、一斉に駆け寄ってきました。
「クラリッサ様!」
「本当にありがとうございました!」
「あの時は、本当に怖かった……」
市民たちが、わたくしの手を握り、感謝の言葉を述べます。
ぴぎぃぃぃ!
ピギィも、抱き上げられて、頭を撫でられています。
「ピギィちゃん、本当に強いね!」
「あんな大きくなっちゃって!」
「我が家の娘が、ピギィを見て『大きくなりたい』だと言い出しました」
ぷぎぃぃぃ!
ピギィが、嬉しそうに跳ねています。
「皆様、ありがとうございますわ」
わたくしは、市民たちに優雅に一礼しました。
「ですが、わたくしたちは、ただ皆様を守ったまでですわ」
「いえいえ」
北の村の村長が現れました。
「クラリッサ様、わたしたちから、大切なお願いがございます」
「お願い?」
「はい」
村長が膝をつきました。
すると、周囲の市民たちも、次々と膝をつき始めたのですわ。
「ちょ、ちょっと待ってくださいまし!」
わたくしは慌てて止めようとしましたが――。
「クラリッサ様!」
東の村の村長が、力強く声を上げました。
「どうか、わたしたちの《女王》になってください!」
「女王!?」
わたくしは思わず叫んでしまいました。
「現在、わたしたちは《連合主席》という名の統治者を持っています。しかし、それだけでは足りません」
西の村の代表が続けます。
「わたしたちは、女王を求めています。この地を治め、この地を守り、この地を愛する――」
「クラリッサ・フォン・ヴァルシュタイン様を、わたしたちの女王に!」
わああああああ!
市民たちから、大合唱。
「クラリッサ様を女王に!」
「クラリッサ女王万歳!」
「紅茶の女王様!」
ぴぎぃぃぃぃ!
ピギィも、その歓声に包まれて、得意げに跳ねています。
「え、ええ……」
わたくしは、思わず言葉を失いました。
「皆様、そんな……わたくしは、ただ――」
「クラリッサ様!」
南の集落の長老が、杖をついて前に出ました。
「わたしは長く、この地に住んでいます。破滅した辺境が、どうして今、これほどまでに繁栄したか」
「それは、クラリッサ様のおかげです」
長老が、涙を流しました。
「わたしたちが飲む水も、わたしたちの子供が学ぶ学校も、わたしたちが病気になった時の病院も――」
「全てが、クラリッサ様のおかげ」
「そして、今回、あの恐ろしい魔物の群れから、わたしたちを守ってくれたのも――」
「クラリッサ様とピギィです」
長老が、わたくしに向かって深々と頭を下げました。
「だからこそ、わたしたちは望むのです」
「この地の統治者として、この地の守護者として――」
「クラリッサ様を女王に!」
「「「女王に! 女王に!」」」
市民たちの声が、街中に響き渡ります。
わたくしは、圧倒されてしまいましたわ。
ぴぎぃ……
ピギィが、心配そうにわたくしを見上げています。
「わたくし……」
わたくしは、深く息を吸い込みました。
王国から追放された元悪役令嬢が、今、女王として推戴されている。
何という運命の転換。
けれども、市民たちの心からの声を、わたくしは無視することはできませんでした。
わたくしは、ゆっくりと立ち上がり――。
「皆様の想いを、受けさせていただきますわ」
市民たちから、歓声。
「ですが、一つだけ条件がございますの」
市民たちが、静まりました。
「わたくしが女王となる場合、わたくしは《クラリッサ女王陛下》ではなく――」
わたくしは微笑みました。
「《紅茶女王クラリッサ》と呼ばれたいのですわ」
「紅茶女王!」
「素敵な名前だ!」
「紅茶女王クラリッサ様万歳!」
ぴぎぃぃぃぃ!
再び、市民たちから大歓声。
─
翌日。
街の広場には、再び市民が集まりました。
今度は、《紅茶女王クラリッサ》の戴冠式を行うためにですわ。
「皆様、本日ここに、歴史的な瞬間を迎えます!」
オズワルドさんが、司会進行をしてくれます。
「《辺境自由連合》の《連合主席》から、《紅茶女王》への昇格!」
市民たちから、拍手と歓声。
わたくしは、祭壇の前に立ちました。
頭には、紅茶をモチーフにした王冠。
身には、紅茶色のドレス。
そして、足には――。
「ピギィ、大丈夫ですの?」
ぴぎぃ!
ピギィが、わたくしの肩の上に乗っています。
まるで、王冠のように。
「では、即位宣言をさせていただきますわ」
わたくしが、市民たちを見回しました。
「わたくし、クラリッサ・フォン・ヴァルシュタインは――」
わたくしは、力強く宣言しました。
「《辺境自由連合》の《紅茶女王》として、ここに即位いたしますわ!」
わああああああああああ!!!
市民たちから、最高の歓声。
花びらが空から舞い降ります。
(どうやら、準備した者がいるようですわ)
ぴぎぃぃぃぃぃ!!!
ピギィが、最高の喜びを表現。
小さな炎を吐き出して、祝の花火のように。
「ああ、ピギィ、そこは炎を吐かなくてもよろしいのに!」
わたくしは、思わず笑ってしまいました。
けれども、市民たちは、その光景を見て、さらに喜びました。
「ピギィもお祝いしてくれてる!」
「紅茶女王とピギィ!」
「素敵なコンビだ!」
ぷぎぃぃぃ!
ピギィが、さらに得意げになります。
─
戴冠式の後。
《ぷにぷに喫茶》で、小規模な祝宴が開かれました。
「クラリッサ様、いえ、女王陛下!」
グレゴールさんが、王冠をかぶったわたくしを見て、頭を下げました。
「グレゴール、『陛下』は要りませんわ。『クラリッサ』で十分ですわ」
「そ、そうですか?」
「ええ。わたくしは、王国の貴族ではなく、市民たちのために統治する女王でありたいのですわ」
かぷぎぃ!
ピギィも賛同するように跳ねます。
「さすがクラリッサ様」
リーナさんが、紅茶を注ぎました。
「女王様になっても、変わりませんね」
「ふふ、変わるわけがありませんわ。わたくしは、相変わらず紅茶好きの元悪役令嬢ですもの」
わたくしは紅茶を一口飲みました。
「ああ、やはり紅茶は最高ですわね。女王になっても、この気持ちは変わりませんわ」
「ところで、クラリッサ」
ガルガさんが、ミルクティーを飲みながら言いました。
「これで、お前は本当に女王だな」
「ええ、形式上はそうなりましたわ」
「形式上か」
ガルガさんが笑いました。
「お前の場合、形式も実質も関係ねぇ。すでに女王そのものだったんだ」
「ふふ、そうですわね」
わたくしは、ガルガさんに微笑みかけました。
「ガルガさんたち、仲間たちがいるからこそ、ですわ」
「おいおい、照れるじゃねぇか」
ガルガさんが、赤くなりながらミルクティーをすすります。
「ところで、オズワルド」
わたくしがオズワルドさんに目を向けました。
「次の計画は、まさか既に?」
「当然です」
オズワルドさんが、新しい書類を取り出しました。
「女王即位に伴い、統治体制の変更が必要です」
「また!?」
わたくしは思わず叫んでしまいました。
「少しは休ませてくださいまし!」
「そうですね」
オズワルドさんが優しく笑いました。
「では、本日は休みにして、明日から準備を始めましょう」
「ありがとうございますわ」
わたくしは、ほっと一息つきました。
ぴぎぃ!
ピギィも、安心した様子。
─
その夜。
わたくしは、一人、王宮(元々はギルドの執務室を改装したもの)の窓から、夜空を眺めていました。
「ふふ……」
わたくしは、王冠を被ったまま、紅茶を飲んでいましたわ。
王国から追放された元悪役令嬢。
破滅フラグをフルコンボした女。
そして、今は――《紅茶女王クラリッサ》
「ふふふ、不思議な人生ですわね」
かぷぎぃ……
ピギィが、わたくしの膝の上で、気持ちよさそうに寝ています。
わたくしは、ピギィを優しく撫でながら、つぶやきました。
「ピギィ、これからも、一緒に頑張りましょうね」
ぷぎぃ……ぷぎぃ……
ピギィが、寝ながら応答します。
わたくしは、紅茶を一口飲みました。
温かい。
優しい味。
王冠を被ろうとも、ティータイムは変わらず。
「ああ、やはり紅茶は最高ですわ」
──《辺境自由連合》の《紅茶女王クラリッサ》の物語は、今、新たな章へと進んでいきますの。
王国から追放された身が、独立国家の女王となり――。
紅茶と共に、市民たちの心を満たしていく。
破滅フラグを踏み抜いた先に見つけた、新しい人生。
それは、何よりも素敵なことだったのですわ。
窓の外、満点の星空。
《茶の香る国》の夜は、静かに更けていきました。
わたくしたち仲間たちと共に。
紅茶の香りに包まれながら。
そして、市民たちの信頼と愛に包まれながら――。
新しい国の女王として、わたくしの物語は続いていくのですわ。




