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第17話 辺境の女領主と呼ばれて

《アーシェ街条例》施行から一ヶ月。

わたくしは、予期せぬ来客に困惑しておりましたわ。


「つまり、皆様は――」

執務室には、十名を超える村長や集落の代表者たち。


「はい、クラリッサ様」

北の村の村長が深々と頭を下げました。


「どうか、わたしたちの村も、アーシェの保護下に入れてください!」

「わたしたちの集落も!」

「うちの村も!」


次々と声が上がります。


「ちょ、ちょっと待ってくださいまし!」


わたくしは両手を挙げました。


「保護下、といいますと……?」

「つまり、クラリッサ様の領地に加えていただきたいのです」


東の村の代表が説明します。


「アーシェを見てください。水道が整備され、学校も病院もある。治安も完璧」

「それに比べて、わたしたちの村は……」


西の村の代表が悲しそうに言いました。


「水は井戸から汲まねばならず、教育施設もなく、盗賊の襲撃に怯える日々」

「……」


わたくしは、オズワルドさんと目を合わせました。


「オズワルド、これは……」

「チャンスですね」


オズワルドさんがニヤリと笑いました。


「領土拡大の絶好の機会です」


ぴぎぃ?

ピギィが首を傾げています。


「でも、領土が広がれば、統治の負担も増えますわよ?」

「それも既に計算済みです」


オズワルドさんが地図を広げました。


「現在、《ぷにぷに喫茶》の支店がある四つの拠点。これらを地方行政の中心とすれば、統治は可能です」

「なるほど……」


「それに――」

オズワルドさんが別の書類を示しました。


「各村・集落からの税収を考えれば、十分に利益が出ます」

「……分かりましたわ」


わたくしは決意を固めました。


「皆様、お受けいたしますわ」

「本当ですか!?」


村長たちが喜びの声。


「ただし、条件がございますの」

わたくしは指を立てました。


「第一に、《アーシェ街条例》を遵守すること」

「当然です!」


「第二に、《ぷにぷに喫茶》を必ず利用すること」

「喜んで!」


「第三に――」


わたくしは微笑みました。


「紅茶を愛すること」

「「「承知いたしました!」」」


全員が即答でしたわ。


───


それから一週間。

わたくしたちは、各村・集落を巡回しておりましたわ。


「これが、北の村ですわね」


目の前に広がるのは、小さな農村。

家々は古く、道も整備されていません。


「うわぁ……本当に何もないな」

ガルガさんが呆れた顔。


「だからこそ、やりがいがありますわ」


ぴぎぃ!


「クラリッサ様!」

村長が駆け寄ってきました。


「ようこそ、北の村へ!」


「ごきげんよう。早速ですが、視察をさせていただきますわ」

「はい、どうぞ!」


村を歩いて回ると――。


「まあ、井戸が一つしかありませんの?」

「はい……村人全員が、この井戸の水を使っています」


「それは不便ですわね」


「学校は?」

リーナさんが尋ねます。


「ありません……子供たちは、親から読み書きを習う程度で」


「病院は?」

「それも……近くの街まで行かねばならず、重病人は運べずに……」


村長が悲しそうに言いました。


「……分かりましたわ」


わたくしは決意しました。


「この村を、必ず発展させて見せますわ」


───


その日の夕方。


村の広場に、全村民が集まりましたわ。


「皆様、本日より、この村はアーシェの保護下に入りますわ」


わたくしの声が響きます。


「それに伴い、いくつかの改革を行いますの」

「改革、ですか?」


村人たちがざわめきます。


「第一に、水道の整備。一ヶ月以内に完成させますわ」


「みず、みずどう!?」

村人たちが驚きの声。


「第二に、学校と診療所の建設。これも二ヶ月以内に」

「学校!?診療所!?」


「第三に、《ぷにぷに喫茶》北店の拡張。より多くの方が紅茶を楽しめるように」

「紅茶!」


村人たちが喜びの声を上げました。


「ただし――」

わたくしは真剣な表情になりました。


「これらの改革には、皆様の協力が必要ですわ。建設作業の手伝い、材料の調達――」

「喜んで!」


村長が即答。


「わたしたちも、この村を良くしたい。何でも協力します!」

「「「協力します!」」」


村人たちも口々に。


ぴぎぃぃぃ!

ピギィが感動して跳ね回ります。


「では、決定ですわ。明日から、工事を開始いたしますわ!」


わああああ!


大歓声。


───


同じような光景が、東の村、西の村、南の集落でも繰り広げられました。


そして一ヶ月後――。


「オズワルド、報告をお願いしますわ」

「はい」


オズワルドさんが書類を読み上げます。


「北の村、水道整備完了。学校建設中、診療所は来週完成予定」


「東の村、水道整備完了。学校・診療所ともに完成」


「西の村、水道整備完了。学校完成、診療所建設中」


「南の集落、水道整備完了。学校・診療所ともに完成」


「素晴らしいですわね」

わたくしは満足そうに頷きました。


「それと――」

オズワルドさんがニヤリと笑います。


「各地で、クラリッサ様の評判が上がっています」

「評判、ですの?」


「はい。《辺境の女領主》と呼ばれているそうです」

「辺境の女領主……」


ぴぎぃ?


「悪くない二つ名ですね」

リーナさんが微笑みます。


「《紅茶戦隊クラリッサ隊》よりは、ずっとマシだな」

ガルガさんが笑いました。


「まあ、確かに……」

わたくしも苦笑。


その時、扉が開き、グレゴールさんが駆け込んできました。


「クラリッサ様、大変です!」


「何事ですの、グレゴール?」

「隣国の商人団が、大量に押し寄せています!」


「商人団?」

「はい。《アーシェ・ブレンド》を大量に買い付けたいと!」


「まあ、それは嬉しいですわね」

「それが――」


グレゴールさんが困った顔。

「あまりに数が多くて、《ぷにぷに喫茶》が対応しきれません!」


「……これは、嬉しい悲鳴ですわね」


───


翌日。

アーシェの街には、見たこともない数の商人たちが押し寄せていましたわ。


「《アーシェ・ブレンド》をください!」

「わたしは百袋!」

「わたしは二百袋!」

「《ぷにぷに喫茶》で紅茶も飲みたい!」


ぴぎぃぃぃ!?

ピギィが大混乱。


「皆様、お待ちくださいまし!順番に――」

「クラリッサ様!」


商人の一人が前に出ました。


「わたしは隣国の大商会の代表です。ぜひ、正式な取引を!」

「わたしも!」

「わたしも!」


次々と商人たちが名乗りを上げます。


「……オズワルド、助けてくださいまし」

「既に対策を考えてあります」


オズワルドさんが書類を取り出しました。


「《アーシェ商業ギルド》を設立しましょう。大口取引の窓口として」

「素晴らしい案ですわ!」


「それと、茶葉の増産も必要です。《緑の谷》の茶畑を拡張しましょう」

「分かりましたわ。すぐに手配を」


───


それから三ヶ月。

アーシェは、辺境随一の商業都市へと発展しておりましたわ。


《アーシェ商業ギルド》が設立され、大商人たちとの取引が始まり――。

《緑の谷》の茶畑は三倍に拡張され、生産量も飛躍的に増加。


そして、周辺の村々・集落もインフラが整備され、豊かになっていきましたの。


「クラリッサ、お前、すごいな」

ガルガさんが感心した様子で言いました。


「数ヶ月前まで、この辺境は荒れ果てていたのに」


「ええ、わたくし自身も驚いておりますわ」


わたくしは窓の外を眺めました。

活気に溢れる街。

行き交う商人たち。

笑顔で暮らす人々。


「でも、これはまだ始まりですわ」

「始まり?」


「ええ。わたくしの夢は、この辺境全体を豊かにすること」


わたくしは微笑みました。


「《紅茶の香る国》を作ることですわ」


ぴぎぃぃぃ!

ピギィが全力で賛同。


「国って……お前、どこまで行くつもりだ」

ガルガさんが呆れた顔。


「決まっておりますわ。破滅フラグを踏み抜いた先で、新しい国を作る。それが、わたくしの使命ですもの」

「……やれやれ」


ガルガさんが笑いました。

「まあ、お前ならやれるだろうな」


───


その夜。

《ぷにぷに喫茶》にて。

わたくしたちは、領土拡大の成功を祝って乾杯しておりましたわ。


「《辺境の女領主》クラリッサ、万歳!」


グレゴールさんが掲げたカップ。


「万歳!」

「乾杯ですわ!」


ぴぎぃ!

ガオン!


カップが重なります。


「それにしても、《辺境の女領主》か」

オズワルドさんが笑いました。


「良い二つ名ですね」

「ええ、《紅茶戦隊》よりはずっと」


「おい、その話はもういいだろ」

ガルガさんがツッコミ。


かぷぎぃぃぃ!

ピギィが笑っています。


「さて、次の計画ですが――」

オズワルドさんが新しい書類を。


「まだありますの!?」

「当然です。次は、国際貿易の確立と――」


「ちょっと待ってくださいまし! 少しは休ませてくださいまし!」


わたくしは思わず叫んでしまいましたわ。

けれども、心の中では――少し、ワクワクしていましたの。


新しい挑戦。

新しい夢。


「ふふ、まあ、やりましょう」

「クラリッサさん、無理しないでくださいね」


リーナさんが心配そうに。


「大丈夫ですわ。紅茶があれば、何でもできますもの」


ぴぎぃぃぃ!


――《辺境の女領主》クラリッサ・フォン・ヴァルシュタイン。


その名声は、もはや辺境全体に轟いていましたわ。


そして、その野望は――まだまだ、これからですの。



「あ、そうだ。明日、王都から使者が来るそうですわ」


「王都から!?」

「ええ。どうやら、わたくしの噂が王都にまで届いたようですわね」


「……クラリッサ、お前、追放されたんじゃなかったのか?」

「ええ、追放されましたわよ? でも、今はもう関係ありませんわ」


わたくしは優雅に微笑みました。


「わたくしは《辺境の女領主》ですもの」


紅茶の香りに包まれて。

新しい物語が、また始まろうとしておりましたわ。

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