第12話 紅茶戦隊と交易路整備と盗賊討伐
「さて、皆様」
わたくしは《ぷにぷに喫茶》の奥の部屋――いつの間にか作戦会議室になっていましたわ――で、仲間たちを集めました。
「本日は重大な提案がございますの」
ぴぎぃ?
「何だ、改まって」
ガルガさんが首を傾げます。
「オズワルド、地図をお願いしますわ」
「はい」
オズワルドさんが大きな地図を広げました。
アーシェとその周辺地域が詳細に描かれていますわ。
「見てくださいまし。この赤い線が、アーシェから近隣の街を繋ぐ主要交易路ですわ」
「ああ、商人たちが使う道だな」
「その通りですわ、ガルガさん。けれども――」
わたくしは地図上の何箇所かに印をつけました。
「この交易路、盗賊と魔物の出没が頻繁で、商人たちが通行を避けているのですの」
「確かに」
リーナさんが頷きました。
「わたしが傭兵だった頃も、護衛依頼が絶えませんでした」
「つまり、交易路が機能していない」
オズワルドさんが補足します。
「そのせいで物流が滞り、アーシェの経済発展が阻害されているのです」
「なるほど……で、クラリッサ様の提案というのは?」
「決まっておりますわ」
わたくしはにっこりと微笑みました。
「交易路を整備して、盗賊と魔物を一掃いたしますの!」
「「「……え?」」」
全員(ピギィ以外)が固まりましたわ。
ぴぎぃぃぃ!
ピギィだけが元気よく跳ねています。
「ちょ、ちょっと待て、クラリッサ」
ガルガさんが慌てた様子。
「交易路を整備って、お前どれだけの距離だと思ってんだ?」
「約五十キロメートルですわね」
「分かってんのかよ!?それに、盗賊と魔物を一掃って……」
「問題ありませんわ。わたくしたちは《紅茶戦隊クラリッサ隊》ですもの」
「その名前使うんかい!」
ガルガさんのツッコミ。
「あの、クラリッサさん」
リーナさんが恐る恐る手を挙げました。
「道路整備って、具体的にどうするんですか?」
「ああ、それは既に考えてありますわ」
オズワルドさんが別の書類を取り出しました。
「まず、ギルドに大規模依頼として申請。報酬は金貨五十枚」
「ご、五十枚!?」
「はい。その資金で人夫を雇い、道路の補修、橋の修理、休憩所の設置などを行います」
「そして、盗賊と魔物の討伐は――」
わたくしが引き継ぎます。
「わたくしたち《紅茶戦隊クラリッサ隊》が担当いたしますわ!」
「……やっぱりその名前使うのか」
ガルガさんが頭を抱えました。
「いいじゃないですか」
オズワルドさんがニヤリと笑います。
「既にギルド内で定着してますし、ある意味ブランドになってますよ」
「ブランドって……」
かぷぎぃ!
ピギィが賛成するように跳ねます。
「わ、わたしは……その、どちらでも……」
リーナさんが小声で呟きましたわ。
───
翌日。
わたくしたちは、交易路の視察に出発しましたわ。
「うわぁ……ひどいな、これ」
ガルガさんが呆れた声。
目の前の道は、ほとんど獣道。
ところどころに大きな石が転がり、草が生い茂っていますわ。
「これでは馬車も通れませんわね」
「ええ、商人たちが敬遠するのも無理ありません」
オズワルドさんがメモを取ります。
「まず、この区間は優先的に整備が必要ですね」
ぴぎぃ……
ピギィも残念そうに鳴いています。
「さあ、先に進みましょう」
さらに歩を進めると――。
ガサガサッ!
茂みから飛び出してきたのは、ゴブリンの群れ。
「ギギギ!」
「人間だ!」
「襲え!」
「まあ、早速お出ましですわね」
わたくしは優雅に指先に魔力を集めました。
「《アクア・スパイラル》!」
水流がゴブリンたちを吹き飛ばします。
「ぎゃああ!」
「リーナさん、お願いしますわ」
「はい!」
リーナさんが剣を抜き、残りのゴブリンに斬りかかります。
ザシュザシュザシュ!
あっという間に、ゴブリンたちは全滅。
「よし、これで――」
「まだいるぞ!」
ガルガさんが警告。
反対側の茂みから、今度はオークの集団が。
「ブヒー!」
「人間!」
「肉!」
「……数が多いですわね」
わたくしは少し考えました。
「ピギィ、《泡立て攻撃》をお願いできますの?」
ぴぎぃ?
「ええ、あの技ですわ」
わたくしが目配せすると、ピギィは理解した様子で跳躍。
そして――。
ぷくぷくぷくぷく!
大量の泡を放出しましたわ!
「ブヒ!?」
「何だこれ!?」
「前が見えない!」
オークたちが泡まみれになって混乱。
「今ですわ、リーナさん!」
「《連撃・水月》!」
リーナさんの剣が泡の中を駆け抜け、オークたちを次々と倒していきます。
「すげぇな、お前ら」
ガルガさんが感心した様子。
「連携が完璧じゃねぇか」
「ふふ、日々の訓練の賜物ですわ」
かぷぎぃ!
「では、次の区間へ――」
「待ってください」
オズワルドさんが手を挙げました。
「魔物の死骸、ちゃんと処理しておきましょう。素材は売れますから」
「さすがオズワルド、抜かりありませんわね」
こうして、わたくしたちは魔物討伐と素材回収を並行して進めていきましたの。
───
三日目。
交易路のちょうど中間地点。
そこには、明らかに人工的な砦が築かれていましたわ。
「これは……盗賊のアジトですわね」
「ああ、ここが一番の問題だな」
ガルガさんが警戒した様子。
「情報によれば、《黒狼団》という盗賊団が根城にしているそうです」
オズワルドさんが説明します。
「総勢五十名。リーダーは元騎士だとか」
「元騎士が盗賊に……」
リーナさんが悲しそうな顔。
「まあ、話は後ですわ。まずは――」
わたくしが言いかけたその時。
「そこの連中!何をしている!」
砦の門が開き、武装した盗賊たちが現れましたわ。
「やあやあ、ごきげんよう」
わたくしは優雅に手を振りました。
「わたくしたち《紅茶戦隊クラリッサ隊》と申しますの。本日は、皆様を討伐しに参りましたわ」
「……は?」
盗賊たちが間抜けな顔。
「紅茶戦隊?何だそれ」
「クラリッサ隊?女子供とスライムと狼じゃねぇか」
「舐めてんのか!」
盗賊たちが武器を構えます。
「ああ、クラリッサ様」
オズワルドさんが冷静に言いました。
「名乗る時は、もう少し威厳を持って――」
「細かいことは気にしませんわ。さあ、参りますわよ!」
わたくしは両手に魔力を集中。
「《フレアアロー》、連続発射!」
炎の矢が次々と放たれ、盗賊たちに命中。
「ぎゃああ!」
「燃える燃える!」
「《バースト》!」
ーードガガガガン!
連続爆発。
「うわああああ!」
盗賊たちが吹き飛ばされます。
「リーナさん、突入ですわ!」
「はい!」
リーナさんが砦に突入。
ザシュザシュザシュ!
剣技が冴え渡ります。
「ガルガさん、門を破壊してくださいまし!」
「任せろ!」
ガオォォォン!
ガルガさんが体当たり。
木製の門が粉々に。
ゴォォォッ!
ピギィが火炎を吐いて、逃げようとする盗賊たちを追い詰めます。
「ひいいい! スライムが!」
「炎を吐いてる!」
「化け物か!?」
「オズワルド、記録をお願いしますわ」
「はい、既に記録しております」
オズワルドさんが冷静にメモを取っていますわ。
「盗賊五十名のうち、三十名制圧。残り二十名」
「素晴らしい手際ですわね」
「ありがとうございます」
───
そして、砦の最奥。
そこには、一人の男性が座っていましたわ。
立派な鎧を着た、三十代くらいの男性。
元騎士、という雰囲気が漂っていますわね。
「……よくここまで来たな」
男性――盗賊団のリーダーが立ち上がりました。
「俺は《黒狼団》団長、グレゴール。元王国騎士だ」
「まあ、本当に元騎士でしたのね」
「理由は聞かないでくれ。俺にも事情がある」
グレゴールさんが剣を抜きます。
「だが、簡単には捕まらん。覚悟しろ!」
彼が踏み込んだ瞬間――。
キィィィン!
リーナさんの剣が、それを受け止めました。
「……!?」
グレゴールさんが驚愕の表情。
「この剣技……お前、《水月流》か!?」
「はい。元傭兵、リーナと申します」
「《水月流》の使い手が、こんな辺境に……!」
グレゴールさんとリーナさんの剣が交錯します。
キンキンキン!
火花が散る、激しい攻防。
「すげぇ……」
ガルガさんが呆然と見守ります。
けれども、徐々にリーナさんが優勢に。
「《昇竜剣》!」
ザシュッ!
リーナさんの一撃が、グレゴールさんの剣を弾き飛ばしました。
「……負けたか」
グレゴールさんが膝をつきます。
「見事だ、少女。お前の勝ちだ」
「……」
リーナさんが剣を納めます。
「グレゴールさん、どうして騎士を辞めて盗賊に?」
「……家族を養うためだ」
グレゴールさんが苦笑しました。
「騎士の給料じゃ、病気の妻と三人の子供を養えなくてな」
「……そうでしたの」
わたくしは少し考えました。
「グレゴール、あなた、わたくしの下で働きませんこと?」
「え?」
全員が驚いた顔。
「《クラリッサ商会》の護衛隊長として。給料は騎士時代の三倍お支払いしますわ」
「さ、三倍!?」
「ええ。ただし、二度と盗賊行為はしないこと。それが条件ですわ」
「……本気か?」
「当然ですわ。有能な人材は貴重ですもの」
わたくしは手を差し出しました。
「どうですの?」
グレゴールさんは、しばらく呆然としていましたけれど――。
「……分かった。恩に着る」
力強く、わたくしの手を握りましたわ。
ぴぎぃぃぃ!
ピギィが喜んで跳ね回ります。
「おいおい、また仲間が増えたのかよ」
ガルガさんが苦笑。
「いいんですか、クラリッサ様?元盗賊ですよ?」
オズワルドさんが心配そうに尋ねます。
「大丈夫ですわ。人は更生できますもの」
わたくしはにっこりと微笑みました。
「それに、家族のために盗賊になった人を、見捨てるわけにはいきませんわ」
「クラリッサさん……」
リーナさんが感動した様子。
「さて、では残りの盗賊団員も――」
「俺たちも働かせてくれ!」
残りの盗賊たちが土下座してきましたわ。
「俺たちも、本当は盗賊なんてやりたくなかったんだ!」
「仕事がなくて、仕方なく!」
「頼む、雇ってくれ!」
「……ちょっと待ってくださいまし」
わたくしはオズワルドさんに目配せ。
「オズワルド、商会で五十人も雇えますの?」
「護衛隊として十名、道路整備の人夫として四十名。ギリギリ雇えますね」
「では、決定ですわ」
わたくしは盗賊たちに向かって宣言しました。
「皆様、本日より《クラリッサ商会》の社員ですわ。給料は銀貨三十枚、週一日休み、それに紅茶飲み放題ですわよ」
「「「ありがとうございます!」」」
盗賊たち――いえ、新入社員たちが感激の涙。
「……お前、本当に商会やる気なのか?」
ガルガさんが呆れた顔。
「当然ですわ。これで交易路整備も捗りますもの」
かぷぎぃ!
こうして、《紅茶戦隊クラリッサ隊》は、盗賊団を丸ごと吸収してしまいましたの。
───
一週間後。
交易路は見違えるように整備されましたわ。道は平らに均され、橋は修理され、所々に休憩所も設置。
「完璧ですわね」
わたくしは満足そうに頷きました。
「ああ、これなら商人たちも安心して通れるな」
ガルガさんも尻尾を振っています。
「護衛隊も配置完了しました」
グレゴールさんが報告してきます。
「これで魔物が出ても、すぐに対処できます」
「素晴らしいですわ、グレゴール」
ぴぎぃ!
「それでは――」
わたくしは交易路の入口に立てられた看板を見上げました。
そこには、大きな文字で――。
『クラリッサ街道
安全・快適・紅茶の香り
by 紅茶戦隊クラリッサ隊』
「……誰ですの、こんな看板を作ったのは」
「わたしです」
オズワルドさんがニヤリと笑いました。
「宣伝効果抜群ですよ」
「恥ずかしいですわ!」
かぷぎぃぃぃ!
ピギィは大喜び。
「わたしは……その、素敵だと思います」
リーナさんが小声で。
「まあ、いいんじゃねぇか」
ガルガさんも笑っています。
「……もう、好きにしてくださいまし」
わたくしは観念してため息をつきましたわ。
けれども、心の中では――。
少し、誇らしい気持ちもありましたの。
そして後日、この《クラリッサ街道》は商人たちに大好評。
「安全で快適!」
「しかも所々で紅茶が飲める!」
「最高の交易路だ!」
アーシェの経済は、急速に発展していくことになりますわ。
――破滅フラグを踏み抜いた元悪役令嬢の、新たな伝説が始まりましたの。




