第7話 紅茶令嬢、クラリッサ商会の旗揚げですわ!
商人組合への加入から一週間。
わたくしは、アーシェの市場に新しい屋台を構えましたわ。
「完成ですわ、ピギィ!」
ぴぎぃぃぃ!
目の前にあるのは、木造ながらも品のある造りの屋台。
看板には――。
『ピギィのぷにぷに喫茶』
可愛らしい文字と共に、帽子を被ったピギィのイラストが描かれていますわ。
「この看板、職人さんに頼んで良かったですわね」
かぷぎぃ!
ピギィが看板の前で誇らしげに跳ねています。
屋台の中には、わたくしの銀のティーセット、それに大量の《アーシェ・ブレンド》茶葉。
さらに、バルトロメオさんの紹介で手に入れた上質なミルクと砂糖。
「さあ、開店の準備を整えますわよ」
───
正午。
わたくしは屋台の前に立ち、優雅に声を上げました。
「皆様、本日より《ピギィのぷにぷに喫茶》正式開店いたしますわ!」
ぴぎぃぃぃ!
ピギィも全力でアピール。
すると――。
「待ってました!」
「紅茶令嬢の店だ!」
「ピギィちゃん、可愛い!」
わずか数分で、行列ができましたわ。
しかも、その中には――。
「おう、クラリッサ!」
見覚えのある顔。
試験官のガルドさんですわ。
「まあ、ガルドさん。いらっしゃいませ」
「さっき盗賊討伐から戻ってきてな。疲れたから紅茶が飲みたくなった」
「ふふ、それは嬉しいお言葉ですわね」
わたくしは手際よく紅茶を淹れ始めました。
「本日のおすすめは、《アーシェ・ブレンド・ストレート》と《ピギィ特製ミルクティー》ですわ」
「ピギィ特製?」
ガルドさんが首を傾げます。
「ええ、実はピギィには特別な才能がございまして――」
わたくしはピギィに目配せしました。
ぴぎぃ!
ピギィがカップの上で跳ねると――。
ぷくぷくぷく……
ミルクが細かい泡に変わり、ふわふわのフォームが完成しましたわ!
「な、何だこれ!?」
「ピギィの《泡立て魔法》ですわ。体内の空気を細かく調整して、完璧なミルクフォームを作れるのですの」
かぷぎぃ!
「すげぇ……!スライムがバリスタかよ!」
周囲の人々も驚愕の声。
わたくしはその泡立てミルクを紅茶に注ぎ、優雅にカップを差し出しました。
「どうぞ、《ピギィ特製ミルクティー》ですわ」
ガルドさんが一口飲み――。
「――うまい!めちゃくちゃうまい!」
「ありがとうございますわ」
「この泡がすげぇな。口当たりが柔らかくて、でも味はしっかりしてる」
「ピギィの泡立ては魔法ですから、通常の泡立て器とは比較になりませんわ」
ぴぎぃぃぃ!
───
それから、怒涛の勢いで客が押し寄せましたわ。
「俺も《ピギィ特製》で!」
「わたしはストレートで!」
「三杯まとめて頼む!」
わたくしとピギィは息の合った連携で、次々と紅茶を提供していきます。
わたくしが茶葉を選び、お湯を注ぐ。
ピギィがミルクを泡立て、トッピングする。
ぴぎぃ!かぷぎぃ!ぷぎぃ!
ピギィの鳴き声が、まるでリズムのよう。
「まあ、ピギィ。あなた、完全に接客業に向いていますわね」
ぴぎぃぃぃ!
そして、特筆すべきは――。
「おう、クラリッサ!さっき魔物討伐してきたんだけどよ」
筋骨隆々の冒険者が、疲れた様子で近づいてきました。
「紅茶一杯、頼む。疲れが吹っ飛ぶやつな」
「承知いたしましたわ。戦闘後には、少し濃いめの《リフレッシュブレンド》がおすすめですわよ」
「おお、そんなのもあるのか!」
わたくしは特別に調合した、カフェイン多めの茶葉で紅茶を淹れました。
「どうぞ」
冒険者が一口飲むと――。
「――っ!これだ!疲れが一気に取れる!」
「戦闘後には、体が糖分とカフェインを求めますの。それを考慮したブレンドですわ」
「すげぇ……お前、ただの令嬢じゃないな」
「ふふ、侯爵家で学んだ知識ですわ」
───
その噂はすぐに広まり――。
「戦闘後は《ぷにぷに喫茶》で紅茶を飲むと回復が早い」
「疲労回復に最適らしいぞ」
「ピギィちゃんの泡立てミルクティーは絶品だ」
冒険者ギルドの依頼から戻ってきた冒険者たちが、次々と訪れるようになりましたわ。
「おう、クラリッサ! 今日も頼む!」
「いらっしゃいませ」
「ピギィちゃん、泡立てお願い!」
かぷぎぃ!
屋台の前には常に行列。
わたくしは忙しくも、充実した日々を過ごしておりましたわ。
───
そして、開店から三日目の夕方。
「……疲れましたわね、ピギィ」
ぴぎぃ……
ピギィもぐったりと、帽子を傾けています。
一日で百杯以上の紅茶を提供。
これは予想以上の繁盛ぶりですわ。
「でも、嬉しい悲鳴ですわね」
わたくしは売上を数えました。
「本日の売上、銀貨三百五十枚……素晴らしいですわ」
ぴぎぃ?
「ええ、これだけあれば、次の計画に移れますわ」
わたくしは地図を広げました。
「茶葉の安定供給のために、茶畑を確保する。それに、従業員も雇わなければなりませんわね」
かぷぎぃ?
「ピギィ、あなたは看板娘として引き続きお願いしますわよ?お客様、あなたのファンがたくさんいらっしゃいますもの」
ぴぎぃぃぃ!
ピギィが嬉しそうに跳ねます。
その時、屋台に一人の女性が近づいてきましたわ。
「あの……まだ営業してますか?」
見れば、若い女性。
服装から察するに、一般の町民でしょうか。
「ええ、どうぞ。お疲れのご様子ですわね」
「はい……仕事が終わって、少し休みたくて」
「では、《リラックスブレンド》をお出ししますわ。心を落ち着ける効果がございますの」
わたくしは優しい香りの茶葉を選び、丁寧に紅茶を淹れました。
「どうぞ」
女性が一口飲むと――。
「……あ」
涙を浮かべましたわ。
「大丈夫ですの?」
「はい……すみません。あまりにも美味しくて、それに……優しくて」
女性は微笑みました。
「この街に来てから、ずっと大変で。でも、この紅茶を飲んだら、頑張れそうな気がします」
「……そう仰っていただけると、わたくしも嬉しいですわ」
ぴぎぃ……
ピギィも優しく鳴きました。
女性は紅茶を飲み終えると、銀貨二枚を置いて――。
「ありがとうございました。また来ます」
笑顔で去っていきましたわ。
わたくしはその背中を見送りながら、思いましたの。
「……そうですわね。わたくしの紅茶は、ただの商品ではない」
ぴぎぃ?
「人々の心を癒し、明日への活力を与える。それが、本当の紅茶の価値ですわ」
わたくしは空を見上げました。
夕焼けに染まる空。
市場から聞こえる人々の笑い声。
「ピギィ、わたくしたち、良い仕事をしていますわね」
かぷぎぃ!
「ええ。この《ぷにぷに喫茶》を、アーシェの人々の憩いの場所にいたしましょう」
ぴぎぃぃぃ!
───
その夜、宿に戻ったわたくしは、日記に記しましたわ。
『本日、《クラリッサ商会》として、正式に旗揚げいたしました。
屋台《ピギィのぷにぷに喫茶》は大盛況。
予想以上の反響に、わたくし自身も驚いておりますわ。
けれども、これはまだ始まりに過ぎません。
この先、もっと大きな商会に育て上げ、いつかはこの辺境を豊かな土地にして見せますわ。
破滅フラグを踏み抜いた先で見つけた、新しい夢。
それは、紅茶で人々を幸せにすること。
ピギィと共に、わたくしは前に進みますわ』
ぴぎぃ……
すでに眠っているピギィの隣で、わたくしも目を閉じました。
明日もまた、忙しい一日になるでしょう。
けれども――それが、とても楽しみですわ。
「おやすみなさい、ピギィ。明日も頑張りましょうね」
zzz……かぷぎぃ……zzz……
夜の静けさの中、紅茶の香りが優しく漂っておりましたわ。
そして、新しい冒険の予感が――。
窓の外、満点の星空が、まるでわたくしたちを祝福するかのように輝いていましたの。




