アイシテイル
信念とは、思考停止だ。
それについて疑う事を止め、無条件に正しいと断定し前提する。
自分がどこから来てどこへ行くのか自分が本当は何者なのかさえ知らない無知な存在が、何事も確かでない世界に放り込まれながらそれでも生きていく為に足場を定める行為こそ信念という名の思考停止だ。
その意味で、いつからか———否。多分最初から———私はアイシテいた。
只々、無性にアイシテいた。
〓〓に対する無条件的で徹底的で根源的で偏執的な肯定。
それが、この世に私を有らしめる原点にして、私の世界の不動の定点だ。
ところが、〓〓が何か私には分からない。
こんなにも絶望的にアイシテいるのに、私は自分が何をアイシテいるのか知らない。この矢印の先に何があるのか、私がこんなにも憎悪し、歓喜し、祝福し、渇望するもの。私の全存在がそれに向けて現に流れ込み続けているその場所に何が在るのか。全く想像も付かないのだった。
〓〓を知りたいと願ったのはそういう訳だ。
※ ※ ※
気の遠くなるような時間の果てに、私は人を愛してみようと思い立った。
人と時間を共にした。
番い、育み、養い、悼んだ。
それで私は、人をアイシテいるのではないと思った。
気の遠くなるような時間の果てに、私は知を愛してみようと思い立った。
論理と体系の海に沈んだ。
法則は解明され、しかし世界は変わる事なくそこに在った。
それで私は、知をアイシテいるのではないと思った。
気の遠くなるような時間の果てに、私は悪を憎んでみようと思い立った。
天秤の担い手となった。
理不尽は廃され、衡平で静死した社会が残った。
それで私は、正義をアイシテいるのではないと思った。
気の遠くなるような時間の果てに、私は神を崇めてみようと思い立った。
神殿を築き、神に祈った。
主は私に罰を与えなかった。
それで私は、神をアイシテいるのではないと思った。
※ ※ ※
最後に。
一切合切を真っ白な光が塗り潰し、洗い流した。
愛した人も、叡智の集積も、正義の天秤も、白亜の神殿も。
意味のある全てが焼却され、滅却された。
形ある全てが無に還った。
これでまた、独りに戻る。
実のところ、私は最初から独りだったのだ。
始まりに戻っただけ。
それなのに———。
流れている。
涙とはこんなにも熱いものだったか。
心の臓が軋む感覚に歯を食い縛る。
私の涙が、アイシテもいないものの為に流れている?
———否。
それでは私は、失われたもの達をアイシテいた?
———再び、否。
それでも私は、アイシテイル。アイシテイル!
それは最早、意味を包摂しない純然たる存在証明だった。
何という事はない。〓〓など初めから存在しなかったのだ。
私はただ、アイシテイル。それだけだ。
それは、世界に対する開かれた問いであり同時にその問い、可能性が私だったのだ。
目的など必要としない。私は、憎悪し、歓喜し、祝福し、渇望する。
分かってしまえば随分と空虚な答えだった。
結局、私にとって私は在るということしか存在しない。それは、私の実在性さえ担保しない幽かな答えだ。
けれど、私は確信した。
———ああ、アイシテイル。