19話:何だか教室の中がざわついているんだが
翌日の朝。
「ふぁあ……ふぅ。今日も眠いなー」
俺は欠伸をしながら学校へと向かっていた。昨日は夜遅くまで学校の課題をやってたからちょっとだけ寝不足になっていた。
シュミレーションゲームばっかりやってて学校の課題を疎かにするなんて駄目だよな……これからちゃんと学校の課題をやってから遊ぶ事にしよう。
「ふぅ、教室に着いた……うん?」
―― ざわざわ
という事で欠伸をしながらノンビリと教室の中に入っていくと、何だか教室の中がざわざわとしている事にすぐ気が付いた。
俺はこのざわざわとした光景を不思議に思って、すぐに友人の黒木に話を聞いてみる事にした。
「おはようっす。黒木。何か教室の中が凄くざわついてるけどどうしたんだ?」
「ん? あぁ、神崎。おはよっす。いや、実は大ニュースなんだ。この学校のジム室にあるトレーニング設備で次々に新記録を出していってるヤツがいるんだとさ。それで先輩曰くソイツは新入生の可能性が非常に高いらしいんだ」
「ジム室? へぇ、そんな部屋があったなんて知らなかったな。しかも新記録を出しまくってる新入生がいるって……そんな凄いヤツが新入生にいるのか?」
「あぁ。あくまで噂だけどな。そんで全派閥の長たちがその新入生を血眼になって探しているんだ。そんな即戦力になる新入生は是が非でも自分たちの派閥に入れたいって事でさ。新入生達の間でもそのニュースが広がってざわつき始めたんだ。全派閥の長たちから欲しがられてる新入生がいるなんて凄すぎるからな」
「ふぅん。なるほどな」
こんなにもざわざわとしている理由は、どうやらそのトレーニング設備とやらで新記録を取りまくった新入生がいるという噂が流れたからのようだ。
(でもトレーニング設備で新記録を取りまくるってどういう事なんだろう?)
よくわからんけど、ベンチプレスで何キロを持ち上げたとか、ランニングマシンで何キロ走ったとかそういう事かな? まぁ知らんけどそんな話なんだろうな。
「だけど即戦力って言うけどさ……そもそも派閥にとってそんな即戦力になるヤツなんて必要なのか?」
「もちろん必要さ。派閥の勉強会ではダンジョンに行く事だってよくあるし、派閥間での模擬戦とか交流戦とかも活発的に行われたりするからな。だから即戦力になるヤツがいるんだったら派閥に引き込みたいって思うのは当たり前だろ」
「派閥の勉強会って模擬戦とか交流戦とかもやるんだな。そんな武闘派な事も行われるなんて意外だな。ぶっちゃけ派閥って由緒ある家系の子供達と交流を深めるためだけの会派だと思ってたよ」
「はは、お前ぶっちゃけすぎだろ。もちろん由緒ある家系の人達と交流を深めるのも目的の一つだけど、でも派閥の本分はやっぱり勉強だからな。だからどの派閥の中でも魔法の実験や研究は活発に行われてるのさ。でも実験に必要な素材は自分達で手に入れなきゃいけないし、ダンジョンでしか手に入らないアイテムが必要になる事もあるからな。だから必要なアイテムを手に入れるためにもダンジョン探索が出来るくらいに強くないといけないから、そのために模擬戦とか交流戦も活発に行われてるって訳さ」
黒木に派閥について少しだけ詳しく教えて貰った。確かに今の話を聞くと即戦力になるヤツがいるなら派閥に引き込みたいというのは当たり前だな。
「なるほどな。そう聞くと即戦力になるヤツがいるなら欲しいに決まってるな。それにしても今の話を聞いてたら、派閥って部活とかサークルよりも大学の研究室みたいな立ち位置になってるんだな」
「そうだな。研究室とかゼミに近いかもな。あとはその年で一番優秀だった派閥には校長から表彰状と勲章が派閥の長に授与されるんだ。この表彰と勲章が聖凛高校では一番の名誉になっているから、これを目指して全派閥の長は勉強会とかを活発的に行っているという訳さ」
「ふぅん。何だか思っていた以上に派閥って奥が深いんだな。ちなみに黒瀬はもう派閥には属してるのか?」
「俺は紫家が中心となって取りまとめている“晴嵐会”に所属する事にしたよ。長である紫八雲先輩は凄く温厚で穏やかな人格者だから、その人柄もあって所属する事にしたんだ」
「紫家って事は……前に黒木が教えてくれた“紫魔法製薬”って有名な会社の家系の人なのか?」
「そうそう。その紫家だよ。ちなみに紫八雲先輩ってのは歓迎会で和服を着てた女性の先輩だよ。あの人が紫家の御令嬢なのさ」
「あー、あの先輩か! 物凄い和風美人だったあの人が紫先輩だったんだな!」
黒木にそう言われてすぐに思い出した。どうやら紫先輩は歓迎会にいた着物を着ていたあの和風美人な女性だったらしい。
あの歓迎会では紫先輩の周りには常に沢山の人だかりが出来てたから、俺は紫先輩とは話す事は出来なかったんだけど、でも見た目と雰囲気からしてとても温厚で優しそうなオーラは出ていたのはしっかりと覚えている。
だから黒木の言う通り、紫先輩はとても優しい人だというのは間違いないだろうな。
「なるほどな。黒木はあの紫先輩の派閥に入ったんだな。まぁ黒木が無事に派閥に入れたってのは喜ばしいニュースだな。それじゃあ黒木がこれからその晴嵐会で活躍出来る様に応援してるよ。これから派閥で頑張ってくれよ」
「応援ありがとな。そう言ってくれると嬉しいよ。そういう神崎は今もまだ派閥には入らないつもりか?」
「あぁ、俺はこのまま一人でノンビリとしている予定だよ」
「そうか。わかった。まぁでも神崎も派閥に入りたくなったらいつでも言ってくれよ。晴嵐会にだったら俺がいつでも入れるように口添えしてやるからさ」
「おう、ありがとう黒木。そう言ってくれると助かるよ。……って、うん?」
俺は黒木にそう感謝を伝えていった。しかしその時……。
―― ひそひそ
「おい、聞いたかよ。アイツまだどこの派閥にも入れてないんだってさ」
「あんな強化魔法士か使えない無能なんてどこも欲しくないだろ。マジで惨め過ぎるな」
「でもこのまま何処の派閥にも入れなかったら将来の就職の時とかめっちゃ大変だろうな。可哀そうなヤツだな」
「いやアイツは裏口入学したクソ野郎なんだし、大変な目に遭うべきカス男だろ。はは、だからマジで良い気味でしかねぇな」
という感じの俺に向けた酷い悪口がまた沢山聞こえてきた。どうやら俺の事を嫌ってる生徒が沢山いるようだな。
ま、でも実害は出てる訳じゃないし別に気にしなくてもいっか。それに悪口を言われた程度で簡単にショックを受けるような人間でもないしな。
という事でこれからも外野の声など一切気にせず、やりたい事を好き勝手にやっていこう。