15話:一宮先輩と再会する
「はぁ、全然駄目だぁ……」
俺は体育館から出てすぐ近くの裏庭でため息交じりにそう呟いた。
俺は手当たり次第に上級生に声をかけていったんだけど、その度に俺の事を無能だと言ってくる新入生が沢山いたため、上級生と交流が全然持てずに追い返されまくってしまった。
という事で俺は沢山の人に話しかけてみたんだけど軒並み駄目だった。誰も俺の話を聞いてくれなかった。
「はぁ、せっかく入学したのに、何だか前途多難な感じだなぁ……」
「……ふぅん? ため息なんて付いてどうしたのかな?」
「はぁ、いやそれは……って、えっ? あ……い、一宮先輩っ!?」
急に後ろから声をかけられたので、俺はすぐに振り返ってみると……そこにはなんと一宮先輩が立っていた。
そういえば入学パーティの時に一宮先輩も探してたんだけど見つからなかったんだ。という事はもしかして一宮先輩は今来た所なのかな?
「あ、お、お疲れさまです、一宮先輩! もしかして一宮先輩は今入学パーティに来て下さった感じですか?」
「うん、そうだよ。実はさっきまで来賓者の方々への挨拶周りとかしててね。それでようやく生徒会長としての仕事が終わったから入学パーティに駆けつけれたという訳なんだ」
「そ、そうなんですね。やっぱり生徒会長のお仕事は大変なんですね……」
「ううん。そんな事ないよ。毎日楽しく生徒会の仕事はさせて貰ってるしね。あ、そうだ。そんな事よりもこれを一番最初に言わなきゃ駄目だったね。それじゃあ改めて……入学おめでとう、神崎君」
一宮先輩は柔和な笑みを浮かべながら俺にそう言ってきた。
「あ、ありがとうございます! 先輩にそう言って貰えるととても嬉しいです! それと受験の時に助けてくれて本当にありがとうございました! 先輩のおかげでこの聖凛高校に入学する事が出来たと言っても過言ではないです! だから本当に……本当にありがとうございました!」
「そっかそっか。ふふ。そう言って貰えると私も嬉しいな。うん、それじゃあ聖凛高校に入れたからには、これからしっかりと勉強をしていって立派な魔法士になれるように頑張っていってね」
「は、はい! 頑張ります!」
「うん、頑張ってね。それで? 神崎君はこんな体育館の外の隅っこに隠れて何をしてるのかな? 入学パーティはもう始まっているでしょ?」
「えっ? あー、いや。まぁ何というか……今までずっと田舎住みだったのであまりにも人が沢山いてビックリとしたというか、ちょっと話疲れたというか、まぁそんな感じです……」
誰からも相手にされなくてしんどくなったから外に逃げてきた……なんて一宮先輩に言うのは流石にダサ過ぎるので、俺は笑いながらそう言って誤魔化していった。
「あぁ、なるほど。確かにこの聖凛高校は人は沢山いるからね。疲れてしまうというのは私もよくわかるよ。それじゃあせっかくだから私も神崎君と一緒にここでノンビリとしていっても良いかな?」
「え? せ、先輩も一緒にですか? で、でも先輩は入学パーティに参加しなくて良いんですか?」
「うん。私もさっきまで生徒会長の仕事をしてて疲れちゃったしさ。だから私も休憩したいと思ってたから丁度良いなって思ってね。という事で良かったら私の休憩に神崎君も付き合って欲しいな」
「は、はい! もちろんです! 俺で良ければ幾らでも付き合いますよ!」
「うん、ありがとう。神崎君。それじゃあノンビリとお話しながら休憩していこうか」
「は、はい!」
という事で俺達はそのまま裏庭に座って雑談をしながらノンビリと過ごしていった。
そしてその雑談中に一宮先輩は俺の話が聞きたいと言ってくれたので、俺は今まで住んでた田舎の事を沢山教えていった。
「へぇ、なるほどー。それはとても面白そうな町だね。私もいつかそういう町に行ってみたいな」
「是非是非! 俺の住んでた田舎町で良ければ、俺がいつでも道案内とかさせて貰いますよ!」
「え、本当に? ふふ、それは嬉しい提案だね。うん、それじゃあもし行く事があったらその時の道案内は神崎君にお願いするね」
「はい! 任してください! いつでもやりますから!」
「あっ、いたいた。一宮君、探したよ!」
「うん?」
そんな田舎の話で盛り上がっていると、唐突に俺達の後ろから声が聞こえてきた。なのですぐに後ろを振りかえってみると、そこには……。
「あぁ、校長先生。お疲れさまです」
「え……って、あ!? こ、校長先生!? あ、お、お疲れ様です!」
そこに立っていたのは何とこの学校の校長先生だった。俺はそんな大物がこんな所にいるとは思わなくて少しだけのけ反ってしまった。
「お疲れ様、一宮君。それと隣に座っている君はもしかして新入生かな?」
「あ、は、はい! 新入生です! 一年二組の神崎幹也です!」
「……ほう? 君は神崎君というのかい?」
「え? は、はい、そうです。えっと、もしかして俺の事を知ってるんですか?」
「あぁ、もちろん。新入生の名簿はちゃんと全て見て把握してるからね。それじゃあせっかくだし良かったら握手をして貰えないかな?」
「は、はい。もちろん構いません。それでは……」
―― ぎゅっ……
「……ほう。良い力を持っているね。君はとても長く修練を積んでいるようだね」
「そ、そうですね。今まで毎日しっかりとトレーニングをしてきました。この高校に受かるために毎日頑張りました!」
「ふむ、その努力はとても立派だね。その努力をこれからも忘れず毎日しっかりと修練を積んでいって欲しい。そして君もこの学校で沢山学んでいって立派な魔法士になってくれる事を私は望んでいるよ。という事で一宮君。ちょっといいかい。先ほどの入学式の件で話したい事があるんだ」
「はい、わかりました。それでは今から校長室に向かいます。という事で神崎君。楽しいお話だったけど、仕事が入っちゃったから今日のお話はこれで終わりにしようね。また今度会ったらゆっくりとお話しましょうね」
「あ、は、はい! わかりました! お疲れ様です!」
「うん、お疲れ様。それじゃあまたね」
そう言って俺は一宮先輩と校長先生と軽く会釈をしてから別れていった。いや何というか一宮先輩は想像以上にとても優しい先輩だったなぁ。